03

目的地サナムまでは、陸路を行くしかない。

到着までは凡そ一週間だが、いつ何が起きるかも知れないこの時世だ。それ以上かかるかも知れない事を想定して必要最低限の装備を揃えるため、ハンクは最初に乾物屋へ立ち寄った。

目的はなるべく日持ちする牛の干し肉だが、店主に訊ねると間が悪く今しがた売り切れたと言われ……色々と迷った挙句にハンクが手に取ったのは、サナム産だという角鹿肉の乾物だった。


「参ったな、結構時間をくってしまった…」


やむなく角鹿肉の乾物を買って店を出た頃には、既に西に日が沈みかけていた。

赤紫に暮れ泥んだ夕暮れの街には団欒の火が灯り、各家庭からの料理の匂いが漂っている。

傷心に浸りながら夜虫が静かに集くリジアのメイン街道を歩いていると、ふいに暗がりから目深にフードを被った女が飛び出してくる。


「きみは…っ」


避けるわけにもいかずに胸で受け止めると、フードを被ったその人物はなんと、目に涙を溜めたカーティアその人だった。


+++


「お願い!私も一緒に連れて行って」


カーティアは反対する家族を振り切って家を出てきたのだと言い、涙ながらにハンクに縋りつく。

酒の上での間違いとはいえ夜道を忍んできた女性を無碍にできるほどの非情にはなれず、ハンクはとりあえず手近の酒場を兼ねている喫茶店へとカーティアを連れていった。


「ちょ、ちょっと待って。ここって!!」


リジアのメイン通りに面した喫茶店は、意外にも一つしかない。それは、その店が昼は軽食喫茶で夜は酒場になるリジアでも最も繁盛している店、Noirだからだ。


「店主、すまないが水を一杯、彼女に飲ませてやってくれ…」


彼女の父親である店主は、数時間前から行方知れずになっていた愛娘の意外な帰還に目を丸くしたあと、その場でひしと抱きしめた。


「すみませんねぇ、ウチのジャジャ馬が迷惑をおかけいたしました…」


「いや、気にしないでくれ。偶然夜道で見つけただけだ…」


ペコペコ頭を下げる父親の姿を眺めながらカウンター席でちびちび水を飲んでいたカーティアは、奥の厨房から出てきた(鬼の形相の)母親に耳を引っ張られ悲鳴をあげる。

半ば親子喧嘩をしながら去っていった2人の背中を見送り、ハンクは肩を落とした。


……どうしていつもこう、女性関係で酷い目を見るんだろう。もうイヤだ、早くエマに会いたい。女を武器にするあざとい女性は苦手だ。……


再び女難に遭いかけたが、懸念していたカーティアも親元に帰したので、今度こそ邪魔が入らないうちにとハンクはリジアのメイン通りを街の出口へ向けて歩き出した。

雑踏を横切った先、街の出口付近には運搬運輸業を生業にする荷馬車が大勢いる。しかしサナムまで行く馬車がなかなかなく、次の街まで自分の足で歩くしかなかった。

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