01
貧民窟の
様子を見に行かせた使い魔からの音沙汰は……未だにない。
……あの跳ね馬め、一体どこで油売ってるんだ……。
というのも、
「で、ハンク……正直に答えろ。その…なんつったっけ、」
「エマだ」
「そう。そのエマさんとはぐれた経緯、もっかい整理するぜ?お前とエマさんは、へクセの血を引く最後の生き残り…で、こっからが重要!最初に彼女とか紹介してたけども、奥手なお前のことだからちゃんと告白してねえんじゃないのか?」
ぎくっ。
「あ、今ちょっとギクッとなったろ。お前って本当にわかりやすい奴。面と向かって好きって伝えたのかよ?」
「…伝えて、いない…」
「だと思った…。恋愛ってのは、ただ一方だけが好きなだけじゃ成り立たねえ。感情をしっかり伝えて、受け入れてもらえて漸く成立するんだぜ…」
言われたこと全てが当て嵌っていて反論すらできず、ハンクはカウンター席の机にガックリと俯せる。
エマが淡い花のように微笑むのを傍らで見ているだけで幸せで…そのうち“好きだ”と伝えようと思っていたけれど、彼女は行方知れず。
「追いかけるなら今だぞ…酒代サービスしてやるからガンバレ〜…」
「す、済まない。恩に着る…」
ここはレスティの実家が家族経営する大衆酒場
「なーに偉そうに説教たれてんのよアホ兄貴、万年彼女ナシなのにねえ。はい注文お待ちどうさま~」
私服とはいえ、むさい男二人組が酢っ辛い空気を漂わせていると、ふいにその空気を裂くような明るい女の声が割り入ってきた。
「うっせ。余計な世話だっつの…」
遠慮ぎみに「ご家族の…?」と訊ねるハンクに、会話に割り込んできた女性…
「カーティアです。こちらこそ、兄がお世話になってます」
レスティの妹・カーティアは、にっこりと大輪の花のような笑顔で溌剌と応えた。
レスティ同様に
「おーい、どうしたハンク。
「えっ。いや、その…不躾に済まない!」
レスティに肩を組んで絡まれてようやく我に返ったハンクは、自分が思うよりも長くカーティアを見ていたことに驚く。
……ほんの一瞬だが、エマのことを忘れていた?何だろう、この不安は。……
「謙虚な
「なんだよ、やけに庇うじゃねえか。あ、分かった!お前もいい歳だから…」
「はいジョッキ追加〜〜!!」
……ゴイーーン!……
「んがはっ!こ……っの暴力
「余計なこと言うからですぅ〜!」
…余計な話を口走ろうとしたレスティの頭に、巨大で頑丈そうなジョッキが勢いよく直撃した。
痛そうだが自業自得な彼に、ハンクはかける言葉を探して焦るばかり。
「ねえ、さっきの会話聞いてたんだけど…お兄さん、悩み事かなにか?」
「ああ。…少し、な」
「ふうん……その様子だと、女性がらみね」
「!」
見事に言い当てられたハンクは、大きく目を瞠る。その反応を受けたカーティアは、バーガンディに染めた唇をにんまりと笑の形に歪めた。
……話してもいないのに、なぜ分かるんだ?!……
そんな感情が顔に出ていたのだろう、カーティアが“堪らない”と言わんばかりの身振りで肩を
「そんな
白くて華奢なカーティアの手が、手袋ごしにだがそっと重ねて触れてくる。
ねっとりと甘い声音とブルーアイに捕われ、ハンクはゆっくりと生唾を飲んだ。
▼
「うんうん。それで、ハンクさんはなんて答えたんです?」
「あの時は、君さえいれば何もいらないと…」
「わあ、情熱的っ。それで、エマさんは何て?」
「はにかみながら、嬉しい…と。エマは本当に可愛いんだよ…」
「でも、彼女とははぐれてしまったのでしょ。それはどうして?」
「エマの具合が悪くてな。フェネルト郊外の村、ルフナで知り合った女医に一時世話になったんだが、その女医め…エマを追い出したんだ…」
「すぐ探しに行ったの?」
カーティアの問いかけに、ハンクは応えなかった。
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