05

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「エマ……あの子、今頃どこにいるのかしら。思えば私たち、あの子に酷いことばかりしてきたわ。小間使いにしたり、金づる扱いしたりして…」


電気も水道も止められたため、寒く薄暗い室内で叔母、美菜子はエマにした仕打ちの数々を思い出しながら後悔をしていた。

本当なら肉親を亡くした時に寄り添うべきだったのに、自分たちは彼女から莫大な慰謝料と住む場所を奪ったのだから…これはきっとバチが当たったのだ。


「ちょっと母さん! 最近どうしちゃった訳? ウチらを置いて勝手に出てったあんな奴のこと…ずっと気にしてる」


思い悩み苦しむ母親の様子を見ながらエマの従姉妹、樹里亜じゅりあはエマへの憎悪を募らせていた。

思えば、子供の頃むかしからアイツは親戚連中から可愛がられいて気に食わなかった。

かわいい樹里亜じぶんが目の前にいるのに、母までもがエマを褒めた時は頭に血が上って…「死ねばいい」と思ったけれど、その数年後にまさか本当に乗った飛行機が落ちたと聞いた時は、運は自分に味方したのだと喜んだものだ。

それが、まさか死に損なっていると知った時の悔しさは今も忘れていない。


「アイツがどこに居ようが知ったこっちゃないけど、母さんが気にしなきゃいけないのは私!それとウチらの生活のことでしょっ。ああああ腹立つ! アイツのあの顔…思いっきり見られない顔に切り裂いてやりたいわ」


常日頃から樹里亜は、審美的に勝るエマを妬んでいたが、さらに気を立たせている原因───それは飢えである。

いつからか、一家の大黒柱からの「仕送り」が途絶えたせいで彼女達は様々な意味での飢餓的状況にあった。

仕送りが途絶えると同時期に生活上における必要不可欠な電気(電化しているためガスは必要ない)と水道を止められ、食料も底をついた。

買い物をしようとすれば、カードは疎か、一切の金銭使用が許されない。

菓子類を食べて誤魔化していたが、空腹も積もり積もって我慢の限界を迎えていた。


「お父様から、まだ連絡はないの? いつ帰ってくるのかしら…」


「きっと忙しいのね、会社に連絡して聞こうにも、留守番電話にしか繋がらないのよ」


エマの叔父は出来心と楽観で起業したが、長年不渡りばかりを出していた。

経営不振、負債は膨れ上がる一方で、私生活も借金に借金を重ねた上に成り立たせていたのである。

これから何があっても、誰が訪ねてきても絶対に鍵を開けないようにと言い残して『出張』に出掛けて行った大黒柱だが…見送ったその朝、出張にしてはやけに大荷物を持って出掛けた彼の異変に美菜子と樹里亜は気付きもしなかった。


彼の帰りを今か今かと首を長くして待ち望む母娘だけれど、彼が彼女達の前に現れることは二度とないだろう。

彼が蒸発した原因は、もうお分かりだろう。

借金のお蔭で成り立っていた生活も遂に首が回らなくなったため、一家の主たる大黒柱はその役目を放棄したのだ。

暖も食事も摂れず…残された母娘は、狭窄していく人生を感じ取って怯えていた。

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