03

「だが、くれぐれも無理は禁物だ。身に何が起きてからでは遅いからな」


「それは善処するけど…あとは、そうね…姿は念のため見えないようにしていて?」


「…なにか、あるんだな…」


ハンクの問いかけに、頷きが返ってくる。


「見る?コイツらよ、ウザイ蛆虫ども」


薄っぺらいハガキサイズのアルバムから写真を抜き取ると、エマはハンクに写真を手渡した。

そこにはケバい化粧の女と、その女によく似た少女が…エマを全身で押し潰してピースをしている。


「透明化していれば問題ないけれど、念のため気を付けていてね。…アイツら、「そういうの」に対してはやたらと鼻が利いて…イケメンには目がないの」


エマの美しい目許が僅かに震えた機微を敏感に感じとったハンクも理由わけを聞いて静かに身構えた。

故郷にも外見でしか判断できない人物は、やはり一定数いる。そういう輩が苦手でしかないハンクは俄に傷んだ頭に手を添える。


「君は、どうなんだ?」


「…なにが?」


「いや、その。やはり…イケメンが好きなのかと…」


おずおずと訊ねてきたハンクに、エマは“男性もやはり「そういう事」が気になるのだろうか?”と長い睫毛に縁取られた目元を和らげる。


「そうねえ、昔はそれなりだったけど……今はもう、恋愛沙汰そういうのに疲れちゃって、あんまり考えられないかな」


「そ…そうか…」


「でもね、まったく興味がないってワケじゃないの。…そこは、誤解しないで欲しいのだけど…」


たしかに恋愛沙汰に疲れ果てているが、好意を寄せられること自体に悪い気はしない。

不自然に硬直して明らかに傷ついた動揺ようすをみせるハンクに、エマは困り顔で身を乗り出す。

悄気てしまった(らしい)彼の対応に困り果てていると、ふいに手首を掴まれ────。


「…もう、危ないじゃない。なにするの…」


気が付くと、分厚く逞しい胸板に乗り上げる形で抱き竦められていた。


「──────…」


「…え?」


言葉にならない甘ったるい感情を受け取ったエマは、ギョッと見返すがハンクは揺るがない。


「初めは同族だから大事に…と思っていたが、今は違う。エマ……俺はキミという存在だからこそ、傍で守りたいと思っている」


ずいぶんと惚れ込まれたものだ。胸中で自嘲しながらも嫌な気持ちは1ミリも起きてこなくて、エマは全身の血が沸騰するような感覚に陥って顔を両手で覆い隠す。


「返事は、キミの計画が終わってからでいい。エマの気持ちが知りたい」


囁くように言って、ハンクはそれきり沈黙した。

どうやら、言いたいことだけ言い逃げして眠ってしまったようだ。


「……ズルいひと。答えなんて、たった一つしかないでしょうに…」


タイマー式のルームランプがふと消えて、室内が闇に沈む。

包容力しかない厚い胸板に頬寄せると、エマも眠気と倦怠感に身を任せて目を閉じた。

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