06


冬の午後は足が速い。

ぼうっとしていたらあっという間に暗くなってしまうから、ねぐらに戻ったエマは予め割って備蓄していた薪を薪ストーブにべると、ストウブに水を張って鶏肉と半分に切った白蕪と生姜…そして昨日残した白飯と調味塩を入れて蓋を閉めた。


「寒いでしょ、いまストーブ着けるから、待ってて」


マッチで白樺皮ガンビに着火して薪に添わせるのだが、日中の気温が上がってストーブ窯が湿気たのか、イマイチ火の勢いが弱々しい。

冬の終わりの暖かい日は、偶にこういう事もある。


「あれ。今日はなんだかご機嫌ナナメね……薪が湿気ってるのかな…」


「!!」

(むっ、あの真珠と同じ魔素を感じる…。まさか、まさか彼女が魔女へクセ!?)


薪ストーブをゴソゴソするエマの無意識下で、強烈な金緑色の魔力が滴り弾けて古い薪ストーブに染みていく。

チリチリと音を立てて沁みた魔力は、やがてあおい精気を帯びながら金属板から若芽を伸ばしてスルスルと育ってゆき───

やがて脇から真珠色の花弁を咲かせ、一瞬で散り消えた。

…が、魔力の残滓が細く細く伸びて枝分かれて未だに彼女エマに繋がっている。

華奢な背の輪郭に沿って細かい魔素がラメのように輝いて揺らめいていて、まるで大いなる木の精霊が甘えているかのようだ。


(いま、しかと見た。…彼女が発した魔力は、原初の魔力とも呼ばれる貴重なもの、純血統の魔女へクセの証だ!)


へクセの証たる一連の事象を見届けた白オオカミは、ようやく彼女が魔力石真珠の製作者だという事実ことを突き止め、歓喜に突き動かされるがまま三和土から駆け出した。


(理由は何にしろ…こんな辺境ところに逃れて生きていたのかっ。ああ、善かった。これでへクセは滅びずに済むぞっ!)


「わふ…っ」


興奮冷めやらぬ白オオカミは、乾燥した薪を持ってリビングに戻ってきた家主の後をウロウロと忙しなく付いて歩くと、やがて座った彼女の傍らにゆっくりと腰を降ろした。


「あら、来たの。ヨシヨシ…。少しは慣れたかな?」


…余談だが強靭な魔力を持つ女性は、気が強く大抵が美人だ。彼女エマもその例に漏れず整った顔立ちをしている。

あの時、自分を助けてくれた彼女の毅然とした立ち居振る舞いに一目惚れしてしまった白オオカミ…いや若き人狼は照れまくってモジモジする。


(そうだ、このまま彼女の傍に居よう。慣れた頃に本来の容姿すがたで、きっちり素性を説明しなければ…。だが何から、どこから話すべきか…。いや、そもそも話を聞いてもらえるかどうかも分からん…!)


わしゃわしゃと撫でられながら、ハンクは懊悩する。一体どうすれば、突破口が拓けるのだろうか。このままモフられても、悩みは募るばかりだ。

しかし───悩みも募っていたが、同時並行で魔力も貯蓄されていたらしく…


───バチッ! バチバチバチバチ…ッ

ビビッ!ビリビリビリビリビリッ⚡️


「「!?」」


ふいに触れ合った瞬間。双方に強烈な静電気の虹色の火花が散り、磁場嵐が巻き起こった。

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