1話 許されざる異邦人
仕事を辞めてから、私こと白鷺エマは都心から遠く離れた山間の温泉街──その外れにひっそり建つ木造モルタル製のアパートで寝起きしている。
そこに通っているのは電気と水道のみで、電話線は敢えて引いていない。
長閑な古い温泉街には昔ながらの個人商店や酒屋、自転車屋なんかが軒を連ねていて必要最低限の買い物は生活雑貨や食品を主に扱う個人商店で済ませている。
独身女の一人暮らしだから、娯楽なんかは読み古した小説本さえあれば満足だ。
世捨て人のように世界の片隅で気ままに寝起きして、飽きて眠くなるまで薪ストーブの傍で本を読んで過ごすだけ。
そうやって、ただ静かに生きていられたら、それでいい。
もう誰にも、構われたくないのだ。
「もう、あれから11年か…」
みぞれ小雨がアパートの屋根を打つ音に耳を傾けながら、エマは思い出せば笑えるほど幸薄い自分の半生を省みて、深い溜息をついた。
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