時神と暦人3⃣ 御厨に流れる時間物語

南瀬匡躬

第1話 ♪オールドローズとプレイエルのピアノ

――暦を司る神さまを時神ときがみとしてあがめる人たちがいる。その使者として時を旅する者たちは暦人こよみびとやカレンダーガールと呼ばれている。その時間移動には太陽と月の光、そしてそれらを祀る場所に開く「時の扉」が使われる。いにしえより続く、限られた人たちだけが、その役目のために隠密行動で時を超える。そして彼らの原動力は、いつの時代も人の世のやさしさ――


 浜松町 栄華のマンション


 栄華は部屋のオートロックを解除すると、山のような花束を抱えながらマンションの玄関で靴を脱ぐ。一旦、キッチンのシンクに花束を置くと、玄関に戻り靴を揃える。


 演奏会の日は楽屋でシャワーを浴びて帰るので、あとは軽い食事を取って横になるだけだ。ピアニスト、角川栄華の公演日終わりの日常である。


 たまたま上野音楽堂の記念講演に出席した栄華は、彼女のお気に入りのピアノ、スタインウェイの鍵盤の感触に上機嫌だった。手入れのいき届いた会場のピアノは、彼女好みの音を奏でてくれたのだ。その感触がまだ指に残る。


 ベッドサイドでお茶を含むと一息ついた。


 一つだけ気になっているのが、シンクに置いた花束の中にオールドローズの花束があることだった。朱色のその花束には、メッセージカードが添えられていた。


『角川栄華さんへ ソレイユ・ドオール(soleil d'or)株式会社』


 メッセージカードを見た栄華は、


「この会社、知らないわ。ソレイユ・ドオールって、金色の太陽、って意味よね」と独りごちる。


 不思議な名前が気がかりなまま、栄華は就寝の準備を一通りこなすと、カーラーを巻きながらベッドサイドに腰掛けた。


 彼女の寝室のドアはガラス窓があるため、廊下の向こうのキッチンまで見通せる作りである。


「ん?」


 彼女はおもむろに立ち上がると、キッチンに向かった。人影のようなものが見えたからである。


 またふざけて恋人の夏見粟斗なつみあわとが隠れているのでは、と思ったからだ。


 だがキッチンに人の気配は無かった。


 彼女はふっとため息をつくとベッドに横になり、まどろみの中に身をゆだねた。


「栄華さん、栄華さん」


 夢うつつの中で自分を呼ぶ声がする。これが夢か現実かは怪しいところだ。体は重く、時の静寂がまぶたを押さえつけているように感じる。


 だが映像はくっきりと栄華の中に飛び込んでいる。


『ヨーロッパ人。女性だわ』


 そう感じた栄華に、その女性は金髪にベージュのドレス、胸にはオールドローズのコサージュをつけて再び呼びかけてきた。


「助けて。私、壊されちゃう」


 悲しそうに俯く女性の横顔に、栄華は優しく問いかける。


「あなたは誰なの?」

「ソレイユ・ドオールの倉庫にいるの。澪ちゃんが消えてしまったの」

「えっ、どういうこと?」

「澪ちゃんを探してしてほしい。お父さんに会わせてあげて。私を助けて」


 彼女は栄華に訴えかけるだけで、栄華の言葉を拾うことは無かった。


 どこまでが夢で、どの記憶が鮮明なのかも分からないまま、栄華の寝室にはカーテンの隙間から日差しが差し込む。時折雀の鳴き声も聞こえてきた。


 バッと起きる栄華。上半身を起こし、ベッドの横にあったスマートフォンに手をやる。電話帳アプリの登録番号を見つけると、彼女は夏見の番号を押す。


 繰り返すが、夏見粟斗は栄華の恋人である。ルポライターをやっている。暦人御師として、彼女の暦人の仕事を教える立場でもある。


「はい」と夏見。

「あ、もしもし栄華です」

「黒電話じゃ無いから、名乗らなくても着信表示見れば分かるけど、どうしたの朝っぱらから?」


「ごめんなさい。少し助けてほしいことがあるの」

「どした。おねしょしちゃったか?」


 明らかに電話口で怒りの目になっている栄華の姿が目に浮かぶが、夏見の性分でこの手のブラックジョークはやめられないのだ。


「くだらないこと言っていないで、さっさと私の部屋に来て!」


 するとものの五分もしないうちに、栄華のマンションの玄関の扉が開いて夏見が部屋に上がってきた。


 彼は寝室のドアを開けるやいなや、


「朝から夜這いに来ました」と笑う。

「馬鹿」と言ってから、栄華は、

「すぐに来たけど、どこにいたの?」と問う。


「このマンションの駐車場に車を駐めて寝てた。昨日、渓流釣りに行って、千葉まで帰る体力無くて、駐車場をちょっとだけ拝借していた」

「部屋に来れば良かったのに」

「公演後で君も疲れていると思ってさ。朝になったらすぐに会える距離だしね」


 栄華はクスリと笑うと、

「じゃあ、ちょうど良かったわ。さっき夢の中でフランス人の女性に助けを求められたの」と言うと、夏見は優しく頷いて、

「知ってる。オレのところにも来たよ。ベージュのドレスにオールドローズのコサージュの女性だろ」と言った。


「同じ夢を見たってこと?」


 栄華の問いかけに、

「あれ夢じゃ無いから」と返す 。


 そう言うと、夏見はことの成り行きを想像できるのか、栄華を連れてシンクに向かう。そしてお約束のように、あのオールドローズの花束を見つける。


「このオールドローズに何かが託されているんだ。おそらく付喪神つくもがみの一種だと思う」 と言った。


「付喪神って、百年経つと道具に宿る神さま?」


「ああ」


 そう言いながら粟斗は花束に刺さっているポストカードを手に取った。


「ルノアールか」


 粟斗の手にする絵画のポストカードを見て、

「有名な絵画よね。これ見たことあるわ」と頷く栄華。


「たしか『ピアノに寄る少女たち』ってタイトルの筈。パリでルノアールが売れっ子になった時代の作品だ」


「それと付喪神がなんの関係があるのかしら?」


 不思議顔の栄華に、「さあ」とだけ肩をすくめる粟斗だった。


「とにかく百年の時を経たことが重要なようだ。その辺は相南に行って相談しよう。今日は欧州史の得意な人が「さきわひ」に来ているから」



 相南市のギャラリー「さきわひ」

 金属音けたたましい鳴子の音とともに、夏見粟斗と角川栄華がフォトギャラリー「さきわひ」の扉を開けたのはそれから三時間後のことだった。


「よう、芹夏ねーさん」


 粟斗は既に麻木芹夏あさぎせりかが店にいることを知っていたようである。

「ああ、モデルの越模映美こすもえいみさんのお友達の……」

 栄華も芹夏の顔は分かるようである。


「一度、浜松町のブリティッシュパブでお会いしているわね」と芹夏は栄華に話しかける。

「はい」

「もと暦人の麻木芹夏です。お話は夏見くんからメールをもらっているので、大体理解できたわ。そこで、ここにいるちこちゃんにも同席をお願いしたの」


 そう言って、彼女は隣に座る森永ちこを栄華に紹介した。


 ちこは立ち上がると、


「市立美術館の学芸員をしている森永ちこです。よろしく。美瑠ちゃんの幼なじみなんです」と笑顔で栄華に話しかけた。


 栄華はペコリと頭を下げると、


「こちらこそ。よろしくお願いします。角川栄華です」と返す。


 そしてその奥には、八雲半太郎やくもはんたろうの顔も見える。


「おう、ハム太郎君もいるねえ」と夏見。


 八雲は「コホン」と咳払いをすると、夏見の方を見て、


「う・る・さ・い」と手で追い払う仕草をした。相変わらずの二人だ。


 店の奥からオーナーで、夏見とは旧友の山崎が出てくる。


「やあ、お二人とも。お待ちしていました」と笑顔を向ける。そして「付喪神とは、夏見くんにぴったりのお題をありがとう」と加えた。

「なんでオレにぴったりなのよ」と不思議な顔の粟斗。 

 山崎は「物持ち良いじゃないですか。八雲君は古書以外は新しいもの好きですから」と涼しげな顔で言う。さも当たり前のようなていだ。


「今回は託宣じゃ無いから謎解きが大変だわ」と芹夏。

 その言葉を受けて、栄華は紙袋から花束とカードを取り出す。

「これがその問題の花束とカードです」

 ちこが一番気になったのはそのカードだった。


「ルノアールの『ピアノに寄る少女たち』または『ピアノの前の少女たち』だわ。<Jeunes filles au piano>が原題なので、auは、àの変化型で英語の前置詞のatやtoあたりと考えるのが普通。通例ではpianoを名詞と考えるのが妥当だし、それを前提にすれば前置詞と見なせる。なので、動詞を伴う別名の『ピアノを弾く少女たち』という訳語は微妙と私は見ているわ。もう一つ言うと、この時代の一八九〇年代頃のルノアールは、原点回帰を始めた頃で印象派の技法よりも古典技法に重きを置く頃。皆が知る印象派おきまりの点描よりもグラデーションのべた塗りで仕上げることが多かった。頻繁に注文画を書いていた頃で、この作品も「真珠色時代」のスタイルに近いわ。そしてタイトルの訳語の点で、このサイズの注文画は依頼主の注文で描くので、この絵の中に描かれた「若い娘たち」というタイトルの意味は、「親」から見た娘という「子ども」という意味が含まれている可能性が多いことかな。漠然とした「少女たち」では無いと考えるのが妥当ね」


 ちこの見解を聞いて驚いたのが八雲だった。

「森永さん、すごいな。僕は日本語訳のタイトルしか知らなかったので、原題を訳すことで、そんな情報が引き出せるとは思わなかった。技法と訳語、歴史が下地にあるとそこまで情報を引き出せるんですね」

 ちこは少し照れながら、

「お粗末様です。でも私見のひとつに過ぎませんから」とはにかむ。

「それともう一つ、見落としてはいけないアイテムがあります」と厨房の奥から立ち上がって美瑠が登場である。

 ちこが「待ってました」と笑う。

 軽く、ちこにVサインを送ると美瑠は続ける。


「描かれているのはプレイエルのピアノ、ロマンチカシリーズです。プレイエル社が誇るアップライトピアノで、この時代、フランスでは家具と一緒に揃えることが多かった一般的な家具調ピアノです。十九世紀末の中流階級御用達のヒット商品なのです。二十一世紀初頭まで生産されていて、ルノアールのモチーフとしても有名。結構な回数が作品の中に描かれているため、売れ行きの面で人気を博していると言うことです。二十一世紀になって作られたものの中古でも二百五十万円って価格を見たことがあるわ。勿論、加えて、ショパンの愛用したピアノと言うことでプレイエル社は人気だし、有名なのです。……が、それ以外にも実用性として、このタイプのピアノはその構造から湿気にも強いため、高温多湿な夏の風土にも絶えられるピアノとして、戦前から日本でも人気が高く、富裕層を中心に多くの人が注文し、輸入されて来ました。その独特の音色と置き場を取らないながら、由緒正しい製品であるため、ピアノやショパンにこだわりを持った人々の憧憬として重んじられています」


 美瑠の解説が終わると、

「いいね。楽器馬鹿」とちこ。

 あきれ顔の美瑠は、「ちこちゃん、他に言い方無いかしら?」と少々困ったニュアンスも含めて返す。


 すると栄華が、

「大丈夫、私なんて毎日粟斗さんにピアノ馬鹿ってなじられているけど、全然めげないから」と応援の声を届ける。

「ちょっと待った!」と声をかけてきたのは、晴海である。

 頬杖をついて、見下すような態度で芹夏は、「あら、あんたいたの?」と下目遣いに馬鹿扱いである。

「もう、芹夏さんいるとやりづらいわ」と晴海。

 売り言葉に買い言葉の二人は、相変わらずの悪態で、

「そんなのお互い様よ」と芹夏。

「印象派とか、ショパンとか、プレイエルとか、私、全然わかんないんだけど、誰も教えてくれないの?」

 ブーたれ顔の晴海に、ちこがゆっくり寄り添うと説明を始めた。


「フランスの十九世紀後半に、流行った印象主義という点々、ドットで遠目からみると中間色に見えるような錯覚技法を生み出したのが印象派なの。モネとルノアールがその代表格って言われているわ。そのうちモネは風景画で名を挙げるんだけど、ルノアールは人物画で名を挙げるの。そこで肖像画や御祝い画などを手がけることが多くなったのがルノアールってわけ。そのときにはもう印象派特有の点描主義をやめて、グラデーションで柔らかな色の段階を馴染ませる技法を生み出していたわ。その代表的なものが白と灰色のグラデーションで描く「真珠色時代」という真珠やシルクの質感の出し方の上手さだったの。その評判を聞きつけて、ルノアールには肖像画の依頼が引っ切りなしに来たということよ。一方のショパンは音楽家。一般には<ノクターン>や<別れの曲>などのしっとりした甘いムードのピアノ曲で知られているの。そのショパンが初めてのコンサートや生涯愛用し続けたことで知られているのがプレイエル社のピアノなの。創始者のプレイエルさんも音楽家の傍ら、ピアノ生産をしていたことで知られているわ。十九世紀という時代が現代社会のスタートラインだったからこそ、私たちの心に響く道具としてプレイエルのピアノは今も愛されているのよ」


 柔らかな説明に気分を良くした晴海は、

「誰かさんと違って、ちこさんは説明も上手だし、優しいわ。ありがとう」とおもむろに芹夏批判の声をあげた。

 ちこはちょっと困った表情の後で、そそくさと美瑠の後ろに戻る。

「おい、晴海。誰かさんて誰かな?」と真っ赤な顔の芹夏。少々ろれつが回っていない。


 ジャンパースカートで椅子の上にあぐらをかいて、テーブルに頬杖の芹夏が怪訝な顔をしている。見ればテーブルの横には缶ビールが二本ほど転がっている。その横には日本酒の四百五十ミリ瓶も立っている。


 その光景に慌てて美瑠が、

「誰、芹夏さんに飲ませたのは?」と問うと、悪びれた様子も無く粟斗が、

「オレだけど、取ってくれって言われたから、そこの冷蔵庫から出した。まずかった?」と不思議な顔で美瑠を見た。

「いつも山崎に勝手にやって良いよ、って言われていたからそのつもりでいたんだけど」と悪気はないようだ。


 おでこに手を当てながら、

「ええ、普通の人の場合はそれで結構なんですけど、芹夏さんはからみ酒なので……」と口ごもる美瑠。


 その言葉に粟斗はしまったという顔で、

「えっ? 芹夏さん、からみ酒なの?」と問いただす。

 ただ、こういう時に本人に自覚など無い。

「うい。私は上機嫌よ。昼間っから済みません。ただね、東京の親代わりとして、晴海には言っておかないといけない義務があるのよ。ひっく……うい」と頭をゆらゆらさせながら、言葉だけは上から見下したような素振りだ。

「うい。ってフランス人かよ」と晴海は遠巻きに胡散臭そうに芹夏を見る。そして粟斗に向かっては、手でバツ印を作る。


 粟斗と八雲は初めてのことで、酒豪芹夏の武勇伝をまだ知らない人たちだった。実際、芹夏はお酒が入ると、ほとんど使い物にならない。思考回路も、判断力もあったものでなく、ただただ晴海へのお説教を繰り返して、最後に寝てしまう。その兆しが既に始まったと言うことだ。


 美瑠は内心、『芹夏さんとは、今日はここでお別れね』と独りごちた。

「私、芹夏さんを家まで送っていく」といつになく優しい晴海。

「なんであたしがこどものあんたなんかに送ってもらうのよ。ひとりで帰れるってーの」と晴海の手を振り払う。そのろれつの回っていない彼女の口調に晴海は、「はいはい」とだけ言って肩を貸す。


 いがみ合っていても、心根は優しい晴海だ。両親不在で寂しいときに、ふらっと三重まで来てくれて、幼い頃から長島遊園地や水族館へと連れて行って、遊んでくれた芹夏には頭が上がらないのだ。


 ふらふらしている芹夏を担いで、晴海は自分の車に乗せていた。

「晴海ちゃん、芹夏さんお願いね」と窓越しに美瑠が言う。心配で駐車場まで付いてきたのだ。

「OK。送り届けたら、あたしも明日は一限の授業があるから、そのまま帰って予習するわ」

「うん。気をつけて」

「じゃあね」

 美瑠はトヨタ2000GTの後ろ姿を見届けてから店に戻った。

「とにかく、行けそうな人たちだけでも、そのソレイユ・ドオールに行ってみませんか?」

 山崎の言葉に皆が頷いた。



 山下・本牧ほんもくの倉庫街

「たしかこの辺だけど」

 美瑠の言葉に、皆は辺りを見回す。

 いわゆる港湾地区である。船積みの荷揚げ、コンテナ類の待避場所ということで広大な敷地が広がる。

「あったわよ。看板」

 ちこが指さす古い看板である。

「音響設備 カルチェエル インテリア専門商社 ピアノ楽器商 ソレイユ・ドオール株式会社(湯島工房)」

「結構な年代物の看板ですよ」と八雲。


「うん。塗装がはげた鉄板にしか見えないな、この看板」

 粟斗もさすがに二十一世紀にマッチしていないデザインと劣化に頷く。

 その錆びた看板を横目に、皆は門を入り、ショールームと書かれたガラス戸を引いて、中に入る。建物も全体的に錆びていて、赤茶けたイメージで目に映る。

「ごめん下さい」

 栄華の声が、その安っぽいショールームの中に響き渡る。

「誰だい?」

 手前のソファーで居眠りをしていた老婆が、栄華のほうを向き直って言葉を発した。


「私、ピアニストの角川栄華って言います。お花を頂いたのでお礼にとお伺いしました。近くまできたものですから」と世間一般の礼儀で対応する。

 老婆はその名前に覚えがあったらしく、ソファーから立ち上がると、

「ああ、先日のコンサート、拝聴したものです」と笑顔になった。

 栄華は挨拶の終わったところで、訊ねてみる。

「澪さんって方はどなたですか?」

 老婆は少し面食らったが、すぐに持ち直して、

「澪を知っているんですか?」と不思議な顔をする。

「名前だけしか存じませんで、どの様な方なのかなと思いまして」と付け足す栄華。


 老婆は穏やかな顔をして、

「澪は私の娘です」と答える。そして思い出すように続けた。

「本当はこの会社を継ぐ筈だったんです。ところがあるときからいなくなりまして……。元々は私の祖父がこの会社はピアノの輸入会社として立ち上げました。私の代で、音響設備などの防音壁もやり始めましたが、澪はあるとき好きな男性が出来たと言って、反対する主人と私を押し切って駆け落ちしてしまったんです。大好きなピアノよりもその男性を選んだ彼女は、それ以後便りも途絶え、今ではどうしているかも分かりません。他界した主人も澪に会うこと無く、一昨年この世を去りました。私もあと何年持つか分かりませんし、この会社とともに終活に入るつもりです。そこで主人が澪にプレゼントしたプレイエルのピアノを処分して会社の精算に入る予定です」


 最後の言葉に、プレイエルのピアノが出てきたところで、栄華と粟斗は頷く。

「澪さんは、プレイエルのピアノをお持ちなんですね」

「はい。正確には、今ここの倉庫に置いてあります。調律もしていないので、音は狂っていますけど」と老婆。

「それで私に、プレイエルのピアノの描かれたルノアールの絵はがきをメッセージカードで添えて下さったのですか?」

 老婆は優しい笑顔で、


「あの子はショパンの<別れの曲>が上手だったんですよ。ショパンが大好きでね。それを訊きたくて角川さんのコンサートにお邪魔したの」と回想する笑顔で空くうを見つめた。栄華は無言で頷く。


「見せて頂けますか? 澪さんのピアノ」


 栄華の言葉に「はい」と快諾の老婆。

 事務所の裏手にある薄暗い奥の扉を開けると、隣の建物に続く廊下になっている。突き当たりが倉庫のようだ。皆を案内して、扉にたどり着くと倉庫の鍵を開ける老婆。


 扉の向こうに並ぶものを見て、栄華と美瑠は思わず、同時に声を発した。

「すごい!」

 老婆が入口横にある電気照明のスイッチを入れると、そこには何台ものピアノが並んでいた。

「ベーゼンドルファー、ベヒシュタイン、スタインウェイって三大ピアノじゃないの、それにヤマハとカワイもあるわ」と栄華。

「こっちのは貴重なピアノの山だわ。昭和三十年代の国産ピアノ全盛時代の東洋ピアノや東京楽器、フローラピアノ、って。全て幻の国産ピアノメーカーやなかなか見れない最高峰モデルやらも。本でしか読んだことの無いピアノだわ」と美瑠。


 美瑠と栄華の興奮を横目に、皆は老婆に続いて倉庫の奥へと向かう。そこには明るい色合いの木目調ピアノが一台置いてあった。このアップライトのピアノだけは、透明のビニルシートがかけられている。その裾からはヨーロピアンデザインの猫足がはみ出ていた。

 老婆がそのビニルの覆いを取ると、クルミの木で作られたボディ、明るい褐色のアップライトピアノの姿が現れる。


「ルノアールの描いた絵のピアノと同じだわ」とちこはうっとりしている。

 老婆は皆に説明し始める。

「このピアノは、目白にあった、ある子爵家のご令嬢のために、大正時代に日本に持ち込まれたものでした。使わなくなって、修理依頼の折にうちの会社が預かることになったんです。もともとその子爵さまと親しい間柄にあったうちの主人が、娘の澪のために譲って頂けないかと、その子爵さまに相談したところ、快くご承諾頂いたものなんです。フランス直輸入と聞いています」

 皆が外観をなめるように確認する中で、栄華だけが、いきなりピアノの天板を開ける。


「すみません。ちょっと中を見せてください」

 栄華の願いに老婆は快く、「どうぞ」と言う。

 天板の裏側には、オールドローズの造花が貼り付けてある。その姿を見て、粟斗は、

「ベージュのドレスに、オールドローズのコサージュだね」と栄華に呟く。

 栄華も「ええ」と返事した。

 栄華は鍵盤の一つを人差し指一本で弾く。

「だーん」と低く調律のズレたCの音がした。

「ひどいチューニングだわ。このプレイエルが可愛そう」

 老婆は「そうね。こんなに良いピアノを放置しておいたら罰が当たるわ」と笑う。


 栄華と粟斗は皆に聞こえないように、会話を始める。

「このピアノのカラーリングは、付喪神の出で立ちの色、そのままとお見受けした。ルノアールの名画で自己紹介とは洒落ているね。付喪神君」

 粟斗の言葉に、

「この子が助けを求めてきたのね」と反応する栄華。

 そんな二人の内緒話をよそに、皆に話し続ける老婆。

「実は来月には、この倉庫ごと売却の予定なんです」

 老婆の寂しそうな横顔に、栄華は、

「どうして?」と訊ねる。

「跡継ぎの娘も行方知れずで、私ももう良い年齢です」

「そうですか……」と栄華。

「そういえば、生前、主人がいまわの際、亡くなる前日に、不思議なことを言っていました。新山下中央港湾病院の病室に、朱色のオールドローズの花束があって、それを澪が持ってきたって言うんですよ。日本酒を飲んでいたら、お父さんに会えた、って言っていたと。キンモクセイの香りの日本酒だった、ってねえ。馬鹿な主人ですよね」と言って懐かしそうに笑う老婆。そして「それほど好きな愛娘だったんです」と加えた。


 その老婆の言葉に全員がピンときた。勿論、内容から推測して、桂花の御神酒だ。

「ご主人って、日課でどこかにお参りとかしていましたか?」と栄華。

 老婆は思い出しながら、

「そういえば散歩と言って、朝の日課でよく桜ヶ丘の神明さまに行っていましたよ。なんでもあそこの神さまは大切なんだ、って言ってねえ」と目を細めた。


「間違いないね」と山崎。皆が無言で頷く。時神が父親の願いを叶えた痕跡である。

 彼女は言い終わると、一頻りの説明を終えたという感じで、ため息をついた。

「ああ、しんどい。年は取りたくないわねえ」と自分の肩を叩く。

 皆に老婆は無理な笑顔を見せながら、

「お気の済むまで倉庫の中は見学なさって結構です。私は事務所で休ませて頂くので、お帰りの際にお声をおかけください」と言い残して、廊下へと出て行った。

 皆は「ありがとうございます」と声を揃えた。

 のんびりと腰に手を当て、老婆は事務室へと入る。


 老婆の消えた後、すぐに異変に気付いたのが八雲だった。

「そこにいるね」と八雲。

「誰が?」と山崎。

「付喪神さ」

「えっ?」

 山崎は辺りを見回す。

「山崎君には無理さ。相手は助けてくれそうな者にだけ気配を感じさせるから。幸せオーラ出し過ぎの君じゃ感じない」


 八雲は笑いながらそう言うと、

「出ておいでよ。僕は暦人御師の八雲って言うんだ。渡良瀬自由大学で国文学の准教授をしている。ここにいるのは皆暦人だけ、皆、君の味方さ」と優しく問いかける。

 するとピアノの前に薄い靄が出来る。だんだんとその靄が人型になって、例の金髪女性の付喪神が現れた。今度は皆の前に姿を現した。山崎にも見えている。


 驚いたのはちこだ。

「八雲さんて霊媒師か何かですか?」

「まさか。霊じゃない、ピアノの化身だよ。おそらく時神さまのお許しを得て、出て来てる。そして我々に伝えたいことがあるのだろう」

 その金髪の付喪神はペコリと皆に頭を下げる。


「私はフランソワと言います。大正時代に日本に来て百年が経っています。前の持ち主の千代お嬢様にも、今の持ち主の澪お嬢さんにも可愛がって頂きました。でも今はこの暗い倉庫の中で、弾いてくれる人もいない日々を送ってます。お願いです。本当に澪お嬢さんは私に飽きてしまったのかを知りたいんです。百年という歳月の中で、私のこの最近の十年は、日本での生活の中で一番悲しい時間です。澪お嬢さんの気持ちが知りたい。暦人の皆さんなら澪お嬢さんの行方を捜してくれる、って、上野音楽堂のエリスが教えてくれたんです。たまたま花束に乗って、昨日は音楽堂まで行けたので、久しぶりに百年選手のピアノに会って話が出来ました」


「さすがに百年もいると日本語上手いね」と八雲が笑う。

 一方、その言葉に、栄華は、

「あの手入れの行き届いたスタインウェイも百年選手なのね。あの子弾きやすかったわ」と納得している。


 夏見粟斗は、

「ついにオレたちも楽器と話が出来るレベルになったか」と腕を組んで笑う。

「ただ単に、付喪神になったからだけどね」と八雲が加えると、

「付喪神、綺麗なフランス人の女性で良かったよ。おっさんだったらどうするかね」と粟斗はくだらない返答をする。

「ノーコメント」といつもの夏見のくだらない話に、八雲は興味なさ気に無視した。

「ちぇ。またハム太郎はつれない素振りだ」

 舌打ちした粟斗の言葉に、

「だったら君が、相手してもらえるような内容の会話を心がけるべきだ」と正論をかます。


「はいはい。済みませんね、大先生」と粟斗は減らず口で会話を終わらせた。

 と、そのとき足下にあったCDラックから一枚のCDがカタンと床に落ちた。

 フランソワは、そのとき軽くお辞儀をする。


「なに?」と粟斗。

「時神さまが」と、フランソワが言った瞬間、「いらっしゃるのですか?」と八雲が声を被せる。

 フランソワは静かに頷いてから、「もう去られました」と加えた。

「見えるんだ、あなたには」

 八雲の言葉に、「はい」とだけ頷く。


 八雲は、

「人間の私たちには見えてはいけないし、見ようとしてもいけない。それが神さまだ。社殿の建て替えの際や遷宮などの時でも、神宿るかむろ木や台座のまわりは白い布で覆って見えないようにするのがしきたり。神聖なものを穢してはならないからね」と言って小さな柏手を打った。


「時神さまはメッセージを頼んで行かれました。よろしくお願いします」

 すると役目を果たした付喪神もすっと、影を残しながら消えていった。

「結構あっさりしているのね」と美瑠。付喪神はもっと必死な懇願をしてくると思ったからだ。


 栄華は床に目をやる。そして落ちたCDを拾い上げると驚いた。

「湯島澪さんだわ」

 湯島工房の澪という娘と考えれば、想像も付きそうだが、姓名別々の情報で流れてきた今回の案件では、気付くのが遅れたのは仕方ない。

「知っているの?」と夏見。

「ええ。たまに楽器フェアなどのイベントで一緒になるわ。そんなに深い知り合いでは無いけど、なだらかな弾き方をする年配のピアニストね。老人ホームの慰安演奏や園児の教育演奏のイベントにも、意欲的に協力して、ボランティアで名乗りをあげる心優しい人よ。若い頃にCDを出されているのは知らなかった」


 その若き日の微笑みのジャケットには、このピアノであろうプレイエルが一緒に写っている。曲もほとんどがショパンである。

「心優しいだけでは、売り上げに爆発的な効果は無いか……」

 少し残念そうに粟斗が言う。

「売れるだけが人生の成功ではないわ」と栄華。

「まあね。オレ自身がそうだ」と笑う粟斗。そして「もっと言えば、山崎の写真が一番の売れない芸術作品だ」とカラカラ笑う。

「ええ、私の写真なんて何の役に立ちませんから」とブーたれた顔で山崎が言う。

 栄華が、

「粟斗さん、言い過ぎです」と咎める。



 粟斗も山崎をからかうのはちょっと可愛そうに思ったのか、

「でも良い写真は沢山あるよ」とフォローした。


 そんなやりとりの間、栄華は落ちてきたそのCDを丹念に調べ上げている。メッセージの取り残しが無いかの確認を行っているのだ。ジャケット冊子のページの間や盤の表面など、分かる範囲で入念なチェックをしている。

「だんだんと分かってきたようだな。そうやって解読の手がかり、その拾い残しが無いかの確認をしている、ってところは」

 夏見粟斗は腕組みをしながら優しい表情で栄華を見る。

「ええ、先生が良いから。指導は上手です。態度の悪い人ではあるけど」と笑う。一言付け加えるのは夏見譲りである。勿論、こんな言い方、栄華は夏見本人にしかしない。


「なんだその言いぐさは。罰として今日の夕飯は君が作りなさい」

「良いですけど、そうするとまた、あの卵焼きが出てきますよ」と笑う栄華。


 粟斗の顔が一瞬たじろぐ。しばらく完全に思考が止まったように見えた。その卵焼きがどんなものかを、ここにいる皆は分からなかったが、粟斗の仕草でおおよその想像は出来た。


 急に取り繕った様子で、「まあ、今日のところはオレが作るか」と一言。そう言ったままで、珍しく粟斗は黙ってしまった。

 この場にいた皆が想像したのは、栄華の作る料理が戦慄が走るほどの手強い代物であるということだった。洒落にならないレベルと言うことなのだろう。美瑠は冷や汗をかきながら、心の中で、『栄華を自宅のキッチンに立たすまい』と誓っていた。


「会わせてあげたいわ」と栄華。

「お父様を彼女に?」と美瑠。

「ううん。逆よ。澪さんをお父様に」と返す栄華。

 静かに皆の優しさが沈黙となって、部屋を満たしている。その沈黙が優しさの結晶と化した頃、八雲がそっと呟くように、

「出来なくは無い」と言葉を吐く。

「キンモクセイタブー」と皆が小声で口々に呟く。答えは分かっているが、実践できるものがいない。


「まあ、時神さまの了承があったようなものだ。条件は満たしている。しかし我々がキンモクセイタブーを今すぐ出来るのか?」と粟斗。

「秋助さんか、うちの大伯母のところに行くには時間がかかるわね」と栄華。

 ちこが「しかもアイテムの桂花の御神酒はどうするの?」と訊ねる。

「僕が作れるよ。材料さえあればね」

 八雲の言葉に粟斗は、

「おまえ、いつの間にそんな知識を手に入れたんだ」と驚く。


「古文書さ。江戸末期の古文書に作り方があった。一勘書房で数年前に手に入れたんだ。僕の身近にある梁田御厨やなだのみくりやの伊勢の宮では、日月両神がお祭りされている。そこで作った経験がある。あとはかむろ木にも使えるキンモクセイを入手すれば、やり方は大丈夫。何度か経験しているし、桂花の御神酒を僕が作ることは、長慶子の時巫女にも永年の了承を得ている。幸い横浜の桜ヶ丘のお宮さんも日月神がお祭りされているので、事情を話して了解を得よう。神職さんも暦人の願いを悪いようにはしないだろう」


 予想だにしない、八雲の心強い発言に、付喪神の登場以上に皆が驚いた。

 粟斗は、

「ハム太郎。おまえダテに古書馬鹿じゃ無いんだな。キテレツ大百科並だな」と感心する。

「他にもっと良い言い方は無いのかい? 褒められている気が全くしない。しかも僕の名前はハム太郎では無いし、コロッケの好きな、からくり人形の子分もいないのだが」

 八雲は冷静に粟斗の言葉に対応する。

「ただ僕のこの方法は、『戻り桂花酒』というお神酒を使うものだ。いつもベテランの人たちが使う方法とは少し違っていて、飛んだ先の時代にいられる制限時間がある。たったの二時間だ。もたもたしているとあっという間に目的も達成できずにこっちの世界に戻されてしまう」


 腕組みをして、珍しく粟斗は八雲の言葉を神妙な面持ちで聞いている。

「なるほど……」

 そして粟斗はそのまま栄華のほうを向き直ると、

「この案件は、栄華ちゃんの時のキンモクセイタブーと状況が似ている。ピアノにまつわるエピソードと大切な人へ時を越えて、お礼を言う案件だ。ただしいつもなら俺たちが飛ぶことになるけど。もし出来るなら、澪さんの案内役をひとりでこなしておいで。半太郎の話だと、幸いこのキンモクセイタブーには自動的に現代に戻るリミットがあるみたいなので、迷い人になることも無い。初めての実地演習と思って、澪さんをよろしく」と課題を出した。


 粟斗の言葉が終わると、山崎と八雲は、ウェブを使って、かむろ木の役割をできそうなキンモクセイのありかを探し始めていた。もちろん美瑠は、電話で桜ヶ丘神明宮の社務所に連絡をしている。手際の良さと連係プレイのスムーズさには驚かされる。


「僕の知っている方法は、日月の別々に光に当てる方法だ。これだと天気や時間に影響されることがない。ただし効き目も短時間というのが欠点だ。御神酒を二つに分けて、一つは神明さま、もうひとつはツキヨミさまの前で桂花の御神酒のための祝詞を捧げる。日光と月光を五分ほどあてれば完成。明日桜木町に集合しよう。そのときには出来ていると思う」

 こうして久しぶりに桂花の御神酒が造られることになった。勿論、桜ヶ丘神明宮の関係者から角川家などには、キンモクセイタブーがあることを事前に知らせる連絡が入れられたのは言うまでも無い。



 澪の住む町

「いいかい。御神酒の効果はひとつどき。今で言う二時間だけだ。二時間経つと自動的に現在に連れ戻される。その間に目的を達成するんだ」と電車の中で話す八雲。ひそひそ話だ。


 秋助などが使う桂花の御神酒とは少々効果が違うことを強調している。

 皆は浜急線の赤い電車を降りると改札を抜ける。目の前には駅前広場が横たわる。

「確かこの辺だね」

 暦人の皆は、川崎大師前駅の駅前ロータリーを渡り切った土産物店が連なる通りを歩いていく。

「お香と飴とくず餅か」と店先の商品を見て呟く粟斗。手には八雲が作った桂花の御神酒が握られている。


 途中の横道、路地を入るとすぐに風景は住宅地に変わる。

「アパートだらけだ」と八雲。

 栄華が業界の者だけが持つ、音楽協会の演奏者名簿のリストから拾った住所を便りに、皆はここまでやってきた。

 目的の番地の手前で、買い物かごを下げた年配の女性がすれ違う。栄華はそれを見逃さなかった。

「澪さん!」

 普段着で、驚くほど質素な格好の今の彼女は、誰が見ても職業がピアニストとは思えない。

 澪は後ろを振り返ると、

「栄華ちゃん?」と驚く。そして「どうしたの、こんなところで」と不思議な顔をする。


「澪さんに会いに来たのよ」と栄華。

「えっ? 私に会いに」

 第一線で活躍する栄華が自分に何の用事か、澪にはよく分からなかった。澪は買い物を諦めて一行の輪に交じる。

「そこ、私の家だから、良かったらどうぞ」


 彼らのいる場所から三件ほど先の工務店らしき作りの一軒家を指す澪。

 皆は店先の商談に使うのであろう応接セットのある部屋に通された。高級なものでは無いが座り心地はよい。陽の当たる明るい部屋である。

「今日、主人は、現場に行って戻らないんで、私と事務の子しかいないのよ」

 下町商店街のおかみさんというイメージがする彼女だが、言葉の端々には気品の香が漂っていた。


 澪はソファーに腰を下ろすと、

「今日はまた大勢で、こんなおばさんに何の用事かしら?」と笑う。

 栄華は

「実は先日、湯島工房の年老いた女性が私の演奏会にいらしたの」と素直に伝え始める。

 澪は少々怪訝な顔になったが、

「それが私の母だって知っているみたいね」と言う。

「はい。それでメッセージカードを頂いたので、お礼代わりにお宅を訪ねたところ、プレイエルのピアノと他界したご主人のお話をお聞きしてきたんです」

「えっ?」

 澪は、自分の父がもうこの世にいないことを知らなかったようだ。

「まさか」と加えた言葉の先で、唇は震えている。皆の前なので、表には出さないが、決して平常心でいられる状況では無かった。

「そこでね。私たちは澪さんにプレゼントを持ってきたのよ」と栄華。


 澪は「父の遺品?」と訊く。

 栄華は「いいえ」と否定だけする。

 粟斗から小瓶の御神酒を受け取ると、

「これなの」と差し出した。

 五百ミリ程度の小さな日本酒の瓶を見つめて、

「私、お酒弱いのよ」と期待外れの贈り物に笑う澪。

「お父様にお別れが言えるチャンスなの。プレイエルのピアノが私に頼みに来たのよ」と栄華。

「またあ。ピアノはしゃべらないわよ。『くるみ割り人形』の演奏しすぎじゃ無いの?」と笑う澪。


「あのピアノの中のオールドローズ、澪さんとお父さんを繋ぐものなんでしょう。今日はオールドローズのブーケも持ってきたの」と更に日本酒の前にブーケも置いた。

「ちょっと、栄華ちゃん。いたずらにしては手が込んでいるわ。おばさんをからかわないでちょうだい」と困った顔の澪。

「とにかくお酒、一気に飲んでみて、悪いようにはならないはずだから」と言う。

 澪は仕方なく、栄華と半分ずつでコップ酒を昼間から飲んだ。

 みるみる間に二人の意識は朦朧としていった。



 一昨年おととしの横浜

 気がつけば、澪の家の近所のバス停、ベンチに座っていた。この大通りは川崎駅に続いている。

 澪はふと目覚めると隣に栄華がいる。

「栄華ちゃん。これどういうこと?」と訊ねる。

 栄華はそれに返事すること無く、一目散で澪の手を引き走り始める。時間が無いからだ。ぐずぐずしていると二時間などあっという間に経ってしまう。

「説明は後です。とりあえず山下に向かいます」

「山下って、横浜の?」

「はい」

「……なら、浜急の電車、快速特急だわ。赤い電車」


 左手にはしっかりとブーケを持った澪は、すばやく栄華を案内する。

 彼女は一足先に構内が把握できているため券売機で切符を購入する。澪たちに切符の日付や年号を確認する余裕は無い。従って、時間を越えたという実感を澪は持っていない。ましてや一年や二年のレベルでは、町並みにさほど変化もない。そしてそのまま足早に、二人は浜急川崎駅の改札を走り抜ける。正面のエスカレーターを上がり、橋上部にあるホームへと一気に駆け登る。

 慣れた様子で、澪は上手い具合に到着した列車へと乗り込む。その間にも栄華は時計とのにらめっこ。


「ここまで十五分」

「そんなに焦って時間が無いの?」

「二時間の間に、澪さんのお父さんの元に行かないと時間が無いの」

「他界した父に会うの?」

「ううん。まだ間に合うし、十分お話も出来るはず。わたしたちに与えられた時間がないんです。とにかく説明はあとで」

「訳分からない」


 軒先をかすめて、高速の特急電車は、窓から見える景色を吹き飛ばすように走る。子安、神奈川新町と通過して、横浜に到着のアナウンスが流れる。


「あとはバスのほうが便は良いわ」と澪。

 二人はホームに降りると、一目散で階段を駆け下りる。横浜駅のコンコースを中央郵便局のほうへと向かう。東口地下街のエスカレーターを降りて、街区の奥にあるバスターミナルへと栄華を案内する。


「やっぱり澪さん詳しいですね」と栄華。

「通い慣れた場所だもの」

 二人は「山下・本牧方面」と書かれたバス乗り場の階段を駆け上がり、地上にあるバスターミナルへと到着した。

「こののりばのバスなら全部、私の実家付近を通るわよ」

 澪の言葉に、

「新山下中央港湾病院へはどうやって行けばいい?」

 既に時間は三十分を過ぎた。

「どれでも大丈夫」

「ここから何分ぐらい?」

「二十分はかからないと思う」

 ところが、そういうときに限って道路は混雑している。乗ったバスが、すでに一号線から左折した電車道の横、側道で鈍行運転だ。車の流れが悪い。

 桜木町の駅前で渋滞は切れるが、弁天橋の先、本町通りで再びのろのろ運転。日本大通りとの交差点を通過するのに三十分かかった。


 バスは運河沿いの元町付近にさしかかる。

「子どもの頃は、ここからテレビ横浜の鉄塔が見えて、帰り道の目印だったの」と懐かしむ澪。

「生粋のはまっ子ねえ」と栄華。

「栄華ちゃんはどこだっけ?」

「港区芝大門」

「そっちこそ生粋の江戸っ子じゃないの」

「そうかなあ。なんか江戸っ子って、神田や深川の生まれじゃなきゃ認められないような気がして」と笑う。

「なるほどねえ。私たちなんども顔は合わせていたけど、何も知らない間柄だったわね」と澪。

「そうね」と栄華が言うやいなや、

「次のバス停、病院前よ」と澪が言う。

 降車チャイムを澪が押す。


 栄華は時計を改めてみる。一時間が過ぎようとしている。

 バス停から病院は見えるのだが、駐車場の遙か向こうである。広大な駐車場と車止めの広場を横切り、二人は病院のエントランスに着いた。一時間を少々越えた時だった。だがさらに時間のかかる要因に出くわす。二人の前に要塞のように立ちはだかる病院の建物。

「えっ、こんな大きな病院なの?」

「私が知っている頃は、ごちゃごちゃしていたけど、こんなに大きくなかったし、高層ビルじゃなかったわ」

 ロビーの中で右往左往して、既に一時間十五分経過だ。部屋を探すのに手間取れば、面会の時間は三〇分ほどしかない。

「私どこに行けば良い?」


 澪の言葉に、

「内科病棟」と栄華。

 床の矢印に沿って、病院の中を早足で歩く。さすがに走るわけにはいかない。澪の手には、変わらずオールドローズのブーケがしっかりと握られている。

 院内の廊下で順に父親の病室を探す。栄華は病室の名札を確認しながら、湯島の文字を探して回る。めまぐるしく首を上下に振り、指さし確認を行う二人。

「あった!」と声に出す栄華。


 栄華の時計ではあと二十分で帰路の時刻だ。

 その扉をノックする栄華。心の準備からか、ためらう澪。だがそんな澪のことなどお構いなしで扉を開ける。なんせ二人に与えられた時間はあと二十分程度だ。


 窓際のベッドに上半身を起こして、窓を眺める老人がひとり見えた。それは澪にとって見慣れた懐かしい顔だ。年老いてはいるが澪の父である。見たところ、もう衰弱しきって、動作もゆっくりしか出来ない感じだ。


「お父さん!」

 澪は泣きじゃくりながらベッドに駆け寄る。

「澪……みおだね」

 老人はそういいながら、

「ああ、澪だ。愛しい娘だね。ピアノの上手な自慢の娘だ」とベッドサイドでもたれて踞る澪の頭を優しくゆっくりと撫でている。嬉しそうな気持ちが栄華にも伝わってきた。すでに父親の意識は、一部で朦朧としている部分もあるかも知れないが、栄華には、そこで泣き崩れている愛娘の姿が、しっかりと父親の瞼に焼き付いているように見えた。


「澪はねえ『別れの曲』も『ノクターン』も上手に弾くんだよ。ショパンが好きなんだねえ。ご自慢のプレイエルのピアノが大好きなんだよ」と笑う。

「うん」


 まるで少女のように父の話を素直に聞く澪は、嬉しさを満面の笑みという形で表情にしていた。満面の笑みに止めどもなく流れる涙。言いようのない幸福感と郷愁が澪の心に同居していた。

 ベッドの老人は、澪の持っていたオールドローズの花束を見つけると、

「持ってきてくれたのかい? お庭でいつもお父さんが世話をしていた花。覚えていてくれたんだね」と笑う。

「そんなにしゃべって平気なの?」


 気遣う娘に父は、

「澪を見れたら元気百倍さあ。お父さんの宝物だもの」と力のない笑いが優しさを伝える。

「いつもお彼岸の時、お大師さんのお参りの途中で遠くから澪を見てたんだよ。ご主人がね、澪に内緒で最近の様子やスケジュールなんかも知らせてくれていたんだよ。いい人と一緒になったね。あの頃は反対なんかしてごめんよ」と言う父に、

「ううん。いいのよ。ありがとう。あの人には、私のピアノの仕事も、家のことをやってくれていれば、あとは、続けて良いと言われてたの。ずっと演奏していたのよ。ボランティアが多いけど」

「世の中の人のためになることをやっているんだろう。立派なことじゃないか。私もピアノを習わせたことが役に立って鼻が高いよ」

 父は静かに頷く。

「あの人と一緒に、内緒で見守っていてくれたんだねえ。駆け落ちみたいなことしちゃってごめんなさい」と鼻をすすりながら、瞼に手の甲を当てる澪。そのお詫びも嬉しさも一緒になって父には伝わっている。


 父は娘の手を優しく両手で被せるように握ると、ハンカチを持たせる。

「これで涙はお拭き。幾つになっても子どもは可愛いし、心配なものさ」と白髪の老人は優しく愛娘を見つめた。


 澪たちを二人きりにするべく、栄華はそっと向きを変えると、病室の外で待つことにした。

「四十、五十になっても親は親、娘は娘よね」

 廊下の壁にもたれながらもらい泣きの涙をぬぐうと、栄華は暦人の使命がどれほど大切なものなのかをかみしめていた。初めて自分ひとりで実感する暦人の仕事である。


「大伯父も、大伯母も、粟斗さんも、山崎さんも、みんなこの瞬間に心を奪われるのね。ほんの小さな人生のなかでクライマックスなんて、生涯の時間からすれば数時間に過ぎない。でもその記憶はきっと一生という長いスパンで残っていくものなんだわ。人の幸せをお手伝いすることってすごく大切。みんな良いお仕事をしているのね。素晴らしい人たちだわ」


 そうしているうちに、ほんの僅かな父娘の再会の時間は過ぎた。無情にも予定の時間が来て、桂花の御神酒の効果はなくなり、当たり前のように、時間のルールが二人の体を現代へと戻した。そう、澪と栄華の体は自然と病院の中から消えていた。


 それから数時間後、着替えを取りに自宅に戻っていた澪の母が病室に戻ってきた。あのショールームの老婆である。窓辺ではカーテンがゆれている。

「あら、綺麗なバラね。オールドローズ。誰か来てたんですか?」と老婆。

「うん。澪が持ってきてくれたんだ。また『別れの曲』聴きたいね」

 ポツリと言う父。


「またそんなでたらめ言って」と取り合わない老婆だが、頭ごなしに否定をすることはしなかった。娘に会えない彼の悲しみを増長したくなかったからだ。

 だかその花束の影で、付喪神フランソワが何とか行動を起こそうとしていることを時神だけが感知していた。そして二年後に、同じようなオールドローズのブーケを持って、老婆が栄華のコンサートに赴くように誘導したのは、もちろん潜在意識の中に入り込んだ付喪神のフランソワだったことを老婆自身は感じていなかった。



再び現代の大師前

 ふたたび重たい気分で目を覚ます澪。皆にとっては数分のことなので、それほど気になっていないのだが、何も知らない澪は驚く。

「いやだ。わたしったら、お客さんの前で白日夢って」とおどける。

 勿論栄華も「ふああ」と言って起きる。

「夢でも、生前の父に会えたのね」と安堵する澪。

「妙にリアルな夢だったわ。忙しかったけど」と加える。

「まあ、誰も信じやしませんが、念のため言っておきますね。今回のことは、他言はせずに、自分だけの夢の出来事と考えましょう。本当は内緒ですけど、あれは現実のお父さんですよ」と八雲が澪に教える。

「またあ」と笑う澪の手には、父の差し出したハンカチが握られたままだった。

「えっ? 現実」


 八雲は無言で相槌をうって、人差し指を口元に置く。そして静かに「しーっ」と笑った。続いて皆も無言で頷く。その顔はジョークのかけらなど微塵もなく、真面目な面持ちだ。

「なんで? 父に会えた? 他界した人なのに?」

 沢山の疑問符が澪の頭をよぎるが、答えなど出るはずも無く、皆もそれ以上何も言わなかった。

「神仏のおかげ? ミラクル? マンガ? 超能力?」

 さすがに普通の人のキンモクセイタブーは、これぐらいの混乱は想定内である。彼女の頭の中はパニックと喜びと疑問が同居している。


「私、お大師さんにお礼言ってこなくちゃ」という澪。これが混乱した彼女の脳裏で、まず出した答えのようだ。近い線いっていると皆は心中で思った。

 正答を指し示そうとして、「それは……」と言いかけた栄華に、珍しく真面目で柔和な笑顔を向ける粟斗。彼は優しく口元に手を当てて「しーっ」とポーズを取る。そして彼女の口を手で覆う。


 小声で「真実はオレたちが知ってれば良いの。それに今回は、我々の知らないところで、お大師さまの協力の可能性もありうる。彼女の思うままでいい。時神さまは、付喪神を使って、彼女をキンモクセイタブーに招待した。それはお父さんの善行から来たものだ。彼女に真実は必要ない。今彼女が思っていることが彼女の真実で良い。彼女は彼女の未来のために、そう信じて前向きに生きれば良いのさ。時神さまの考える真実で動くのはオレたちだけでいい。思いやりはそういうものだから」と栄華を諭した。

 すると栄華は俯いたまま、じっとしている。

 粟斗は栄華が気分を害したのかと思って、問い直す。

「どうしたの? 怒った?」

 顔を上げた栄華は満面の笑みで、

「ますます粟斗さんを好きになってしまいました」と返事した。

 まわりの皆は不機嫌そうに、

「ごちそうさま!」とこれ見よがしに、一斉に栄華に返した。

 粟斗はこの状況を喜んで良いのか、そうでないのか、判断に苦しんで、苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。



ソレイユ・ドオール

 翌日の夕方、栄華は澪を連れて、本牧のあのショールームに足を踏み入れた。

 老婆は澪の顔を見て、しわくちゃになりながら、笑みをこぼす。


「澪ちゃん」

 ゆっくりと駆け寄り抱きつく老婆。

 彼女は栄華のほうを向いて、

「ありがとうございました。あなたのコンサートに足を運んだ甲斐がありました」と頭を下げた。


「私、お嬢さんと知り合いだったんです。後で気がつきました」

 栄華もそう言って頭を下げる。

 澪は栄華に事情を聴いて、思ったことを母であるこの老婆に告げることにした。


「お母さん。栄華ちゃんから話はお聞きしたのよ。まだ間に合うなら、このショールームは閉めないで」

 澪の提案に驚いた老婆は、

「どうして?」と訊ねる。

「うちの人と相談したのよ、この件については。結果、防音装置は、あっちの工務店の一部門で残すことが可能で、こっちのショールームは、小規模なコンサートホールに改装して、展示場はミュージアムとしてピアノの好きな人たちに開放しようと思うの」

「それって、この会社を継いでくれるってことなのかい?」


 老婆の言葉に、

「結果的にはそういうことになるわね」

 彼女の、このたった一言と小さな笑顔。それがこの老婆の小さな未来を無限の可能性に広げたように栄華には感じた。

 涙目の老婆は、小さくぽつりと「ありがとう。きっとお父さんも嬉しく思っているよ」と呟く。

 その言葉、澪には十分届いていたが、彼女はあえて聞こえないふりをした。それは、これが若気の至りである親不孝への償いを意味する行為であり、お礼を言われる義理にないためだ。


「さあ、これから忙しくなるわよ。お母さんには入場券のもぎりをやってもらうから」と笑う澪。


「母さんね。子どもの頃、映画館のもぎりをやってみたかったんだよ」と返す。

「じゃあ、小さいけど夢が叶ったようなものね」

「練習しなくちゃね」

 老婆の顔には悲壮感は無かった。小さな未来と希望を手に入れた無邪気な子どものようにさえ見える。


「あ、そうそう。栄華さんに言われて、プレイエルの調律を済ませておいたんだよ」と老婆は二人をショールームに誘う。

 綺麗に再調整されたプレイエルのピアノ。明るい色したクルミの木で作られた外装は更にぴかぴかに輝いている。

 澪は天板に手をやると、

「ただいま」とキスをした。

 栄華にはそのプレイエルが喜んでいるかのように見えた。そう、フランソワが幸せそうに微笑んでいる光景がオーバーラップして見える。

 鍵盤に手をやった澪は、『ノクターン』を弾き始める。その優しい音色は、まるで帰還を祝福する横浜の町の祝辞のようにも感じた栄華だった。


 慣れた手つきで鍵盤を動かしながら、澪は栄華にお願い事を言う。

「ねえ。改装が済んでこけら落としのミニコンサートを開くとき、何か一曲で良いから弾いてくれないかな? 僅かだけどギャラも払うから」


 澪のその言葉に、

「いつもボランティアで皆さんのために、手弁当や無料で弾いている澪さんからそんなものもらえません。私もボランティアで弾かせて頂きます」

「本当?」

 栄華の言葉に、澪と老婆は笑顔だ。

「でも条件があるの」

「なに?」

 栄華は優しい口調で、

「あの病院の子どもたちやご老人たちを招待してほしいの。そして私のためには、とっておきのオールドローズのバラの花束を用意して頂きたいわ」とはにかんだ。


 演奏をやめた澪は体の向きを栄華のほうに向けると、

「その条件、飲みました。ぜひ公演のほうをよろしくお願いします」と深くお辞儀をした。

 愛情を注いだオールドローズの花と愛娘、その幸せの表象であるプレイエルのピアノ。ショパンやルノアールへの尊崇以上に、澪には父の愛が一番心に届いていた。そのことをプレイエルのピアノ、フランソワが証明してくれたのだ。

 栄華の暦人初仕事、彼女の暦人の資質は誰もが合格点をつける優しさと愛に満ちていた。そのことを一番知っているのは時神だったのかも知れない。

                                 了




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