将軍の側室は死んで蘇った娘。~あなたとわたしは、かりそめの関係~
✨羽田伊織
第1話 黄泉がえりの娘 壱
読経の声が淀みなく、すすけた部屋に流れていく。
参列者は皆、涙ぐみ、
菜月の両親は憔悴し、母親は今にも倒れそうなほど蒼白だった。
「おふたりもお辛いでしょうね。菜月殿はまだ十四。これからという時期にですのに……」
「ええ、ほんに。旗本のご子息との縁談も決まって、これからという時期に神様も無慈悲なことをなさる」
密やかに聞こえる話し声に菜月の父親は黙って耐えていた。
慈悲深い言葉を述べているが、本心では菜月が死んだことでせいせいした気持ちだろう。
菜月の死により
水無瀬家は薩摩にある
艶やかな黒髪は絹糸のように滑らかで、鳶色に光る瞳は南国の陽光が降りそそぐようにきらめき、笑顔は打ち寄せる波のように
親の目から見ても菜月は美しい娘だった。
そのせいで十二をすぎたころから降るように縁談が持ち込まれ、ついに城仕えする旗本の家から縁談話がやってきたのだ。
婚姻すれば水無瀬家も城仕えとなるお役目が巡ってくる。
周囲の羨望や妬みも清々しいほどだった。それが娘と共にこの手からこぼれ落ちてしまったのだ。水無瀬家の未来は失われた。
「なぜ……なぜ死んだのだ菜月」
もう動かない細く白い手を握った。
ひときわすすり泣きが大きくなる。「菜月……」ともう一度呼んだとき手が握りかえされたような気がした。
思わず顔を上げる。――と、顔にかけた
「――ひ……っ!」
父親は引きつった声を詰まらせ、後ずさった。
「う、あああ……!」
父親の叫び声に視線が集まる。そのなかで菜月はこてんと首を倒し、
「父上……」と呼んだ。
部屋中にけたたましい悲鳴がこだまして、人々は転げるように外へ飛び出した。
***
眩しい日差しに汗が噴き出してきて菜月は手拭いで汗を拭った。
青物がよく育っている。食事に一品増えるのだから嬉しいことこのうえない。おひたし、漬物、他になにを作ろうか思案していると、
「菜月さま!」とよく通る声が響いた。
裏の井戸から洗濯物を抱えた
「日差しが強い時間は外へ出るのはお控えくださいと何度も申してあげているでしょう!」
「だってやることがないんですもの。外へ出て身体を動かしていなければ退屈で仕方ないわ」
「本でもお読みになっていてください!」
「もう暗記してしまった本を?」
「そうです。何度もお読みになった本でもです。これ以上日焼けをすれば肌が傷みまするぞ」
「いいのよ、香。わたしはもうどこへも嫁げないのだから、日に焼けようと手が荒れようとかまわない。でしょう?」
「菜月さま……」
香は痛ましげな色を瞳に浮かべた。
一度死にながら、蘇った菜月は『
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