第19話

 ハルジオンたちはダンジョンの中を歩いていた。

 ハルジオンの左腕にはカレンが抱き着いている。

 右手はSAYAとつないでいる。指を絡ませた恋人つなぎだ。


(あの、これじゃ戦えないんだけど……)


 どちらか離してほしいと頼んだが、どっちが離すかで喧嘩になりそうだった。

 そのため、ハルジオンは両腕を拘束されることを選んだ。

 ちょっと『捕まった宇宙人』みたいだ。


 ステッキは腰に差してある。

 杖がなくとも魔法は撃てるのだが、威力や精度が落ちる。


『修羅場で草』『百合ハーレム?』『ハルジオンさんメイド服着てください』


 そしてその後ろからトボトボと、ころねがついていく。


「なんで私はナチュラルにハブられてるんですか……」


『がんばれ!』『最初は誰だコイツって思ったけど、苦労人枠っぽくて好きになってきた』『唯一の常識人』


 ちなみにハルジオンたちが歩いているダンジョンは、日本の城のような見た目のダンジョンだ。

 出てくるモンスターも、『からくり人形の武士』といった見た目をしている。


『マジで城っぽいみためだな』『からくり武士かっけぇ』


 このダンジョンは最近になって出現したものだ。

 新しいダンジョンのほうが、新たなモンスターと、そのモンスターからとれる『新しくて流通量の少ない魔宝石』がとれるため儲かりやすい。


 それに視聴者も新鮮な気持ちで視聴できるため、配信者からも人気がある。

 新作ゲームの実況動画みたいなものだ。


 ダンジョンは洞窟、森、山のような一部の自然環境を切り取ったようなものが多い。

 しかし中には、こういった人工物がダンジョンとなっていることもある。

 研究では、人工物ダンジョンの出現率は近年になるほど上がっているらしい。

 その理由は良く分かっていない。


 そもそも、なぜダンジョンなんて物が生まれるかも定かではない。

 さまざまな推論が立てられているが、どれも根拠にかける。


 かつて活躍した、高名でイカレた魔法使いは言っていた。


『すべての男女は星である。ダンジョンとはその星々が見る夢なのだ』


 根拠のない妄想だが、ハルジオンはこの説が好きだった。

 人々の夢がダンジョンになると言うのは、ロマンチックな気がする。


「ちょっと待って」


 カレンが立ち止まる。

 どうやら壁を気にしているようだ。


「なんか、この辺に感じる」

「キミの気のせいじゃないの?」

「私はかんが良いほうなの」


 勇者スキルは『かんが良くなる』みたいな能力があると、カレンから聞いたことがある。

 結局、みんなでウロウロと周辺を調べてみることになった。


「あれ、ココの床、押し込める?」


 ころねが床を押す。

 ガコン!

 何かが動いた音がする。

 カレンが気にしていた壁がくるりと回りだした。


「うわ、忍者屋敷みたいだね」


『さすゆう』『わーお! じゃぱにーずニンジャ!!』『これ、未発見の通路では?』


「未発見の通路!!?」


 コメントを見ていたころねがはしゃぐ。


「もしかしてユニークが居る? 魔宝石で儲かる!?」


 新しく発見されたダンジョンではユニークモンスターが発見されやすい。

 ユニークモンスターが誰にも発見されず、倒されずに残っている場合が多いからだ。

 そして、ダンジョン発見初期のユニークモンスターは弱い場合が多い。

 初期ボーナスなんて呼ばれてたりする。


「ここで儲けられれば、『アイツ』と旅行に――」

「すごい。ここでお金が入ったら、この間のドラゴンのものと合わせて『パワードスーツ』が買えるかも……いや、日ごろのお礼に皆にプレゼントするのも」


 大金が入るかも。

 そのことに喜んでいるハルジオンところね。


 それに対して、カレンとSAYAは冷静だった。

 もとより金を持っているからだ。


「未探索の場所に入るのは危険があるわよ。未知のトラップがあるかも」

「でも配信的には美味しいんだよね」


『行って欲しい!』『ワクワクする』『でも危ないんやろ?』『ダンジョンの難易度は高くないし、このパーティーなら問題なくね?』


「行きましょう! 取れ高ですよ!」

「ボクも行きたい!」


 欲にくらんだ二人の説得により、一行は隠し通路に入っていく。

 行きついた先は小さな部屋だ。

 特に何もない。


「あ、あれ?」

「え、私のお金は?」

「こういうこともあるわよ。戻りましょう」


『あー、ハズレかぁ』『しゃーない。切り替えていけ』


 落胆する二人とコメント欄。

 しかし、カレンだけは厳しい目で部屋を見つめていた。


「なんか、嫌な予感がする」


 そう言った瞬間。

 バン!!

 勢いよく部屋の扉が閉まった。


「閉じ込められた!?」


 ころねが扉を開こうとするが動かない。

 そして床に五芒星が浮かび上がる。


「とりあえず固まって、なにが起こるか分からないけど備えるわよ!」


 4人は部屋の隅に固まって武器を構える。

 そして、部屋が強い光に包まれる。


「あれ、違う部屋?」


 ハルジオンが目を開けると、先ほどまでよりも広い部屋に居た。


「転移トラップかな……面倒なことになったね」


 転移トラップ。

 文字通り、ダンジョン内の異なる場所に飛ばされる罠だ。


 SAYAは配信画面を確認する。


『転移トラップってヤバくね?』『食料とか大丈夫なんやろか』『でも電波届いてるなら、今日中に帰れる距離じゃね?』


「配信が止まってないなら、そこまで遠くないはずね」

「でも魔道具ですから、けっこう遠くまで電波が届きますよね?」

「頑張ってあるきなさい」

「そんなぁ」


 電波が届いているなら、そこまで困る距離ではないだろうとハルジオンたちは推測する。

 それに助けだって呼べるため、別に絶望的な状況ではない。


 とりあえず動いてみるしかないだろう。

 ハルジオンがそう思って、部屋の出口に向かって歩いた。

 ガコ!

 何かを踏んだ。


「え、なに?」


 ハルジオンが足元を見ると、そこから五芒星が上がってくる。

 そしてハルジオンの体を包んだ。


「ハルちゃん!」「ハルジオンさん!」「ハルジオンちゃん!?」


 三人が心配する声が響いた。

 そして次の瞬間。


「え、なにそれ可愛い!!」


 カレンが喜んだ。

 SAYAところねはびっくりして口を開けている。


 ハルジオンの服装が変わっていた。


 体を包むのは紺色のスクール水着。

 足には白いニーソックス。

 頭には桜色の、本物のような猫耳が生えている。

 お尻からは尻尾が生えて、ゆらゆらと揺れていた。


『ヤバい! クソトラップダンジョンだ!!』

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