第5話とある神様、春を愛でる

 とある山奥の古い神社にとある神様が独りで住んでいた

今は春も近づいてきた、ぽかぽか陽気の午後

神様は神社の近くに流れる小川のほとりにちょこんと座っている

風はそよそよと流れ、陽はキラキラと小川の水面を照らす

「あ~、いい感じだのぅ」

神様ご機嫌である

神様の隣にはいつものように、すずめとカラスが座っている

神様、昼間っから徳利を傾け、日本酒を飲んでいる

ちなみに花見にはまだ早い

神様、陽の光と小川のせせらぎをつまみにして、お酒を飲む

「ぷっは~、いい酒じゃ、カラスよ、気持ちいいのぅ」

カラスは酒臭い神様の息を吹きかけられて、嫌な顔をしたが、

まぁ、神様、いつものことである。カラスはすかさずこう言った

「神様、昼間っからお酒を飲むとアル中になりますよ」

神様、それを聞くとニコニコしながらカラスの頭をちょんとつついた

「カラスよ、医者のようなことを言うでない。こんなに楽しい日に

酒がないとは、あまりにもさみしいではないか。よいのじゃ、よいのじゃ

まぁ、カラスよ、お前も一杯どうじゃ」

といいつつ、神様、カラスの前におちょこを置いて、酒を注いだ

カラスは苦笑いしながらも、そのお酒をちょっとづつ、飲んだ

神様はすずめにもおちょこでお酒を振舞い、上機嫌

気づくと、三人ともできあがっていた

「神様、ひっく、お酒はいいものですなぁ、ひっく」

カラス完全に酔っている。神様の思うつぼである

「神様、おつまみください、ひっく、ひっく」

すずめがそう言うと、神様、神通力でご馳走を出した

海鮮から肉、はたまた新鮮なサラダ。神様大盤振る舞いである

「どんどん食べよ、飲めよ、歌えよ」

神様がそう言うと、すずめが「ぴ~、ぴよぴよ♫」と歌いだした

カラスもすずめに負けじと、「か~、かか~♪」と歌う

神様も負けじと歌う

「は~るがき~た~、は~るがき~た~♬」


と、そこに山里の年老いた村人が通りかかった

「なんじゃ、これはなんの騒ぎじゃ」

村人、びっくりして、三人を眺めると、一言言った

「春になると、おめでたい人が増えるもんじゃて、まぁ、ほっとこう」


おめでたい三人組。まだ桜も咲いていないのに、ご機嫌

春を愛でるのには、桜がなくてもいいのであった


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