人生の中の10分

幸音雑日

はじめに

日常という幻想

日々の生活と聞いて、何を浮かべるだろうか。

朝通勤し、書類に追われ、昼を急いで取り、会議で叱られ……という日々を浮かべる人がいるかもしれない。

朝通学して、授業を居眠りしながら聞き、放課後部活に真剣に打ち込んで、へとへとになって帰る……という日々しか知らない人もいるかもしれない。

わたしの場合は、合間の時間に仲間とたわいもない会話をし、休日はちょっと出掛けてピクニックに行く、そんな日々を浮かべる。

学生の頃から頑張ればいつかそんな日が来ると思い続けた、10年以上に詰まった幻想を。


頑張ればいつか良い思いをできる、

そんな声をかけられて勉強を頑張っていたのはいつのことだっただろうか。

あれからいつの間にか勉強を好きになり、いろんな勉強をしているうちに、長い年月が経った。

そこには、ただ仕事をする平日と、”ちょっとピクニックに行って楽しむ”、という「日常」を描いた小説や漫画を消費する土日が待っていた。

たとえ間違っていることに気付いたとしても、どうやって後戻りすれば良いのかわからない。わたしの毎日の中から、一緒に過ごす仲間というものが消えてしまって数年。

世間話をする相手すらほとんど会わない。あったとしても、世間話すら浮かばない。

たとえ5年間タイムスリップして戻れたとしても、同じ日々が待っている。


それでも、ほんの少しの工夫で、同じ日々を少し楽しむことができる。

例えば、通勤の途中。

いつもならただ遠いなあと思いながら歩く道。

ほんの少しの疑問が、楽しさを生み出す。

例えば、なんでこのアパートのベランダの形は隣のアパートと違うんだろう、と考えてみる。

ある建物は、エアコンの室外機がベランダの上の方に金具で取り付けてある。ベランダはある程度広くて、物を干すこともできそうだ。

ある建物は、コンクリートでできたベランダの壁が、四角にくり抜かれている。よくみると、そこにはエアコンの室外機。ベランダはそれほど広くなさそう。

ある建物は、ベランダが広め。外から見る限り、エアコンの室外機は見えない。ベランダの端に置いてあるのだろうか。

よくよく見てみると、ベランダの形というのはいろいろ違いがある。それほどこだわっても大きな違いはないだろうと思うのだけれど、なぜかいろいろこだわっている。

見た目としては、四角にくり抜いたデザインが個人的には面白い。

こういう工夫は誰が考えているのだろうか……

こんなことを考えていると、目的地はもうすぐだ。


確かにここには、ただ単調な繰り返しの日々がある。

土日に遊びに行く友達もいなければ、特別な人もいない。ただただ、仕事と惰眠で過ぎてゆく日々。

でも、ちょっとの工夫で、単調な毎日は確かに面白くなる。

長年取り憑かれた「日常」と名のついた幻想をなんとなく曖昧に浮かべるのではなくて、ちょっとの工夫で日常を彩ってみる。

そんな日々を、目指してみたい。



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