どこ吹く風

@LIAR27

どこ吹く風




私はずぼらだ。

1日着た服も部屋の隅に追いやり重ねていく。

荷解きもされていない段ボールも3つほどある。

テーブルにファンデーションの粉が付いたり

アイライナーが手から飛び出した時につけられた跡も多数ある。

アルコールを含ませた箱型ではなく少し安くなったプラフィルムのティッシュを2枚ほど取り出してアルコールが1番湿った部分の裏から爪を立ててガシガシと擦るが少し薄くなるその汚れと労力とが反比例していることに5秒ほどで気づき、昨日の朝食べた際に出た、コンビニサラダのゴミが入ったビニール袋に目掛けて投げつける。

コンビニのビニールの持ち手にの穴を通過していつか流行っていた妖怪の赤い猫の足元にそのゴミは着地する。

ビニールの持ち手の穴を通過してその妖怪猫の前にティッシュが着地したことで入るべきゴミたちの中にゴミは入らなかったが、その小さな穴を通過したことは逆に運がいいのかと思って入らなかったことはそこまでムカつかなかった。

だがゴミを拾うことなく妖怪猫の足元に転がるティッシュはそのままだ。

そのまま後ろにひっくり返り、硬い布団の上に背中をくっつけて左手側にある

充電器のコードに埋もれたスマホを掬い上げる。

過去にフォローした今では興味がない内容がわんさか通知される。

フォロー解除すら面倒で通知だけを消してLINEを開く。

「おはよ!今日のぬんちゃ楽しみ!」これから会うよくできた以前の職場の後輩が私を起こす為なのか私が起きる1時間前にメッセージを送信している。

「今起きた」

「これから準備する」

「私も楽しみ」

と送るとすぐに既読がつく。

既読がついたと思うと同時に可愛いピンク髪の女の子のオッケーというスタンプが飛んできた。

LINEをタスクキルして、口座残高のアプリを開きもっと稼がないとなと思う。

その金額に少しため息が出て目を閉じてスマホは力なく手からその硬い布団に滑り落ちた。

先ほど投げた妖怪猫前のアルコールの湿った雰囲気がどんどん失われて行く。

ハッと目が覚めると予定の時間が近づいていた。

ずぼらな女というのはこういう時素早い。

その場ですぐ服を脱ぎ捨て、着替えの下着を持って足をシャワールームに入れると同時に伸ばした手がシャワーの側の部分を上にグッと押し上げ出てきた初めは冷たいシャワーをサッと避けながら、そのシャワーの下を腕に当たらぬようくぐるように歯ブラシと歯磨き粉を抜き取る。

シャンプーを左手に出しておき、先ほどの冷たい水がお湯に変わるシグナルを感じ取ると頭を突っ込み7割濡れたら頭をガシガシと洗い始める。

試供品でもらった少し透明がかったベージュ色の固形石鹸を一箇所破れた洗顔泡立てネットで泡立てて気になる部分を洗っていき、余った薄い泡でお腹などふくらはぎを撫でて行く。

撫でた瞬間、掌にジャリっとムダ毛を感じた。

「んあっ!」言葉にならない時間がない、自分の責任だが解せない、首の後ろや耳の後ろ、目の上辺りから出る謎の怒りを感じ

石鹸が周りについた大きなヘッドのカミソリを毛に当てていく。

脱毛するお金は無いわけでは無いが勿体なく感じずっとかれこれ25年間カミソリで剃っている。

冬はいつも剃らないし気にならないはずなのだが今日会う後輩は自分のことをなぜだか慕ってくれているので私のこんなダメな姿は知らないし見せたく無いのだ。

足の上に多数に広がる細かい黒い軌道が消えて行くのを感じ、少し洗剤の滑った感触を無視してバスタオルで拭いていく。

ドライヤーをしながらスマホで電車の乗る時間を調べる。

「あと10分で出れば間に合う!」

独り言は言わない性格なのだが不意に出てしまったその言葉に驚く暇もなく服を着替えて3年前YouTubeでやっていた速攻メイクを慣れた手つきで創作し鞄を持って頭の中で忘れ物をしない時の歌を歌いながら玄関に向かう。

「けーたーいでんわ、さいふー、かぎぃ、てーき、てーちょおー!めいしいれ、しゃいんしょお〜…」最初の四つしか休みの日は必要ないがそのほかに忘れ物がないか不安なため全文の歌詞がが頭に流れる。

靴紐が少し硬めに縛られた靴に足先を入れ踵部分は若干巻き込むように折れる手前みたく踏みつけるように靴を足に突っ込む。

風が強いのかドアが開かないと思うと鍵をしたままだったことに少しむかつきながらドアを開け、鍵を閉め、エレベーターに向かう。

一階からこちらのお急ぎ度を汲まないエレベーターがアホ面に見えた。

乗り込むとまずドアを閉めるボタンを押し閉まる間に「1」のボタンを押下する。

駅に向かい時計をみると40分。

駅から徒歩2分の物件にしたのは私のダメさ加減を見込んでのことだ。

43分の電車に乗るので、あと3分で電車が来る。

強いていうならアイツら電車は43分に発車するため、42分に到着してくるから、つまりあと2分で駅に着かねばならない。

休みの日の足取りが遅い人並みをラグビーの選手にでもなったように何人も抜いて行く。

エスカレーターはもちろん右側をガンガン登って行く。

改札を定期券内のPASMOで華麗にタッチし、左手側のエスカレーターを例の如く右側を下って行くと電車がまだ来ていなかった。

安堵を感じLINEを見ると後輩から「遅延してますが早めに出ていたので多分大丈夫かと思いますが念の為報告しておきます!」

私とは天と地の差だなと思いつつ「わかった、気をつけてきてね」とLINEを送るとピンク髪の女の子のオーケーのスタンプ。

電車がゆっくりとホームに到着し、ホームドアが先に開き、電車のドアが若干の差で遅れて開く。

降りる人を全員確認して先に並んでた人が電車に足を踏み入れると同時に私も電車に乗り込む。

「ワワワ!」電車が閉まるぞという合図。

「ティンッウンッ」 という音と同時にホームドアが先に閉まり若干遅く電車側のドアが閉まる。2秒ほどしたあと電車はゆっくり加速して行く。

景色が動いて行く。

よくわからない看板が目につく。

後輩と何を話そうかと考える。

そうだ、この間目黒川を歩いていた時横浜流星を見た話をしよう。


「ご無沙汰してます!」

元気よく挨拶する後輩が眩しい。

「お疲れ様、どれくらいぶりだっけね?」

「んー先々月の土曜ですね!」

「よく覚えてるねえ」

「先輩と会うの楽しみにしてますからね!」

「それは嬉しいなあ、じゃいこっか」

「はい!」

私のずぼらさは微塵も感じさせずに、何もなかった顔で新宿の街に歩き出して行く。

「先輩!今の人イケメンでしたね!」

「え見てないや」

「先輩って美人なのに興味ないんですか?」

「いや興味なくはないけどね、あてか、こないだ目黒川でね」

-fin-

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