第10話 ホルスの仮面
「――アドベンチャラーになります」
アドベンチャラー。
この世界にある、職業の一つ。
魔物退治から薬草採取まで。幅広い役割に対応する、野外戦闘を主とする連中。
似たような職業はどの世界にも存在したものだ。
このような職業に一貫して言えるのはただ一つ。
自由が確約されるが、命の保証はなくなる。
だが、問題ない。むしろ、魔法を学ぶにはこれ以上ない場所だ。
そう、これは言わば──社会学習だ。
「そうか。では、装備を用意しよう」
結局、ワーグナーは私に魔法の教師を就けなかったな。〈閃撃〉を見せたはずだが……。
しかし、あっさりと了承してくれた。やはり、私はお客様ということか。
「ガイオス。レスクとともに装備を買いに行ってくれ。金はあとで渡す」
「は! かしこまりました」
「それと、今のうちにこれを……」
ワーグナーがそう言うと、後ろの侍女が私に仮面を渡してきた。
仮面には、魔法が込められている。
近づけるだけで、私の魔力の波長に影響を及ぼし、私の眼に干渉してきた。
それらを除いても、残る波長はまだ多くある。順次、確かめていくとしよう
「それは特別製でな。ホルスの仮面というマジックアイテムだよ。それを君にあげよう。……君はそれの力を、どれほど
「……どういうことですか?」
「そうだな……。それには、多くの魔法が秘められている。どれだけの魔法を引き出せるか。……ということだ」
ふむ……。波長が隠れている様子はない。
「ちなみに、記録に残っている中での最高は六つだ!」
六……だと? 波長は……十個あるのだが。
「……着けてみなさい」
私は言われるがまま――口を拭いてから――仮面を着けてみた。
やはり、波長は十個。いずれは、どれも自力で使えそうだ。
「どうだ? 何個使えそうだ?」
ここは正直に答えておこうか。
「十……ですね」
「「――十!?」」
…………そんなに驚くことなのか?
「な、中身は?」
「……〈
「……なんと!」
ガイオスは大口を開け、目をひん剥き、驚いた顔をしている。
仕方あるまい。
所持者を選ぼうとする波長が強く出ているのだ。私はその奥にある波長も見ることができるため、意味がなかった。
波長が見えてしまえば、私の手の中だ。
「ふぅむ……」
「それで。ワーグナー……さん? ワーグナー殿? ……は一体、私に何をさせるつもりですか?」
「……ふっ。仕方がない。正直に話そう」
ワーグナーは、ごくっ、と唾を飲み込んだ。
そんなに難しいことをさせるつもりなのか?
「十五歳で迎える春に、学園に入ってほしい。……息子の遺志を……継いで欲しい!!」
そう言ってワーグナーは頭を下げた。
アメスゴとガイオスは何かを知ってそうだ。
ワーグナーが『息子の遺志』と言った瞬間、顔を伏せた。
「私は貴方に拾われ、育てられた恩があります。その恩をお返しするまで……」
学園か。悪くないだろう。
友達付き合いとやらが面倒だがな。価値観、価値基準が合わないのが多いからな。
しかし、恩を返したいのは本心だ。
ここは、ワーグナーに味方するのが得策だしな。
「よし! ではさっそく今日、アドベンチャラー登録まで済ませてしまうといい。ガイオス、問題ないな?」
「はい!」
▼
都市内を歩くのは初めてだ。
屋敷に来たときは、馬車の中で魔法の波長を探していたからな。
「お前は人を恐れないんだな」
「それはどういう意味ですか?」
「山の中で過ごし、ここでエヴィデンス様に保護された。たくさんの人に囲まれる機会はなかったのではないか?」
「そうですね。ですが、恐れる理由はありません。それだけです」
と、こんな風に、ガイオスはなんてことない世間話の途中に私に関する情報を探ってきている。
そろそろこちらから質問をするのもありだろう。
「私からも一つ……。息子の遺志。ワーグナーさんには子供がいたのですか?」
そう、あの屋敷にある部屋には使われていない部屋がいくつもあった。
……いや。もともと使われていたであろう部屋、だ。
「………………ああ」
ガイオスはかなり躊躇った後に、肯定した。
「エヴィデンス様のご子息はとても優秀な方だった……。もう、何年経ったかな」
そしてガイオスは、ワーグナーの息子――アルティナ・エヴィデンスについて語ってくれた。
アルティナ・エヴィデンス。
才色兼備、文武両道。博愛の精神に満ち溢れた青年で、王国内でも評判だった。
しかし、学園入学間近というとき、アドベンチャラーとして旅立った後に行方不明となった。
同行したパーティーメンバーは、全員が口を揃えて「死んだ」と言ったそうだ。
パーティーメンバーたちがアルティナを殺した可能性もあるが、メンバーも軽くない傷を負っていたため、結果として、その可能性は低いだろうとなった。
パーティーはその後旅立ち…………壊滅したそうだ。
「――これが、私の知るアルティナ様のすべてだ」
「そこで、なぜ私が……?」
「アルティナ様の夢は、聖騎士となり……より多くの人を救うことだった。エヴィデンス様は……おそらく、アルティナ様とお前を重ねているのだろうな」
「私がそのアルティナと似ているのか?」
「髪の色、眼の色は違うが……顔のつくりはどことなく似ているな。――…………っと、ここだ」
話を聞いているうちに、目的地へ到着したようだ。
扉には巨大な剣の絵が刻まれており、周囲は水路に覆われている。城のようだ。
ガイオスはノックもせず、扉を開けて中に入った。
ここが入り口なのか。ならいいが……。
…………ちゃんと、
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