第11話  アルティナ

「――へい、らっしゃい! ……って、ガイオス様じゃないですか! 剣術指南役様が、こんな武器屋になんの御用で?」

「久しぶりだな、ギニア。私はここの常連客じゃなかったか? ……あと、変に敬語を使うな、顔に敬意がないぞ」


 ギニアと呼ばれた男は、店の奥から出てきてガイオスと握手をした。

 どうやら二人は旧知の仲のようだ。年齢もほとんど同じか?


「それで、今日はどうした? 剣か?」

「いや、ワーグナー様の使いで、今日はこの子に装備一式を買いにな」

「……ああ、そうか……。……まあいい、好きに見ていきな!」


 私はとりあえず、店内を一度ぐるりと回って見ることにした。

 一目見ただけだが、ここの店主はなかなかの腕の持ち主のようだ。

 

 ――え、これはだめ? ああ、秘蔵の品があるのか? そうか。


「親父さん、まだ商品があるんでしょう? 見せてください」

「……ほぉ。そこに出ているもんじゃあ、納得いかなかったか?」


 ――なになに? これはこの親父が本気で打った商品じゃない? よくわかるな。


「もちろん、ここにあるのはどれもいい品です。……でも、まだあるんでしょう? これらより更にいいものが……ね?」

「はっ……いい眼じゃねぇか! いいぜ、ついてきな!」


 ガイオスは知っていたようだ。

 やれやれ、私は試されていたということか?


 生憎、私は鍛冶には精通していない。良し悪しがわかるだけだ。


 


 私たちは店の二階に案内された。


「一階においてあるのは、基本武器ってやつだ。そこらの鍛冶屋よりはいいものを置いているつもりだけどな。でも、こっちは格別だ」


 なるほど。たしかに、二階こっちの品は何かが違う。

 武器の良し悪しだけではない。根本的に何かが違う。


「こっちは、俺が造りたくて造った傑作品ばかりだぞ!」

「まさか、レスク……お前が一発でここを見破るとはなぁ。アルティナ様以来か?」


 アルティナ以来、か……。そうだろうなぁ。

 だって…………



 ――私の隣に、アルティナと名乗る男が立っているのだから。



 たしかに、私にどことなく似ている容姿だ。

 似ていると言われれば、ああそうかもな、程度でしかない。

 髪の色とか違うしな。私は黒、この男は金。

 顔の造りは、確かに似ていると言われれば似ている。それ以外で差別化しているからな。


 なんども転生を繰り返した私の魂は、その分強くなっている。

 幽霊が見えるようになったのは、二十回目からだったか?

 そこから徐々に見える数が増えてきたんだったな。今はほとんどの霊が見える。


 ――どうだ? どれがおすすめなんだ?


 私はアルティナに目利きを任せ、一振りの剣を選んで貰った。

 刀身が紅い剣だ。…………綺麗だ……。


 アルティナ曰く、剣の目利きこそ確からしいが、他の武器防具は難しいらしい。

 信用していいか。


「これにしよう」

「それは……」

「? どうした、ギニア?」

「そんな武器……知らねぇぞ」

「…………は?」


 どういうことだ?

 確かに、私は並んでいる物を手に取ったぞ?


「……ここにあった剣が……レスクが見る直前、紅く変わった……ように見えた……」


 ガイオスは動揺しているようだ。


 アルティナ……いない?

 一体どこに……。

 剣?

 …………なるほど。

 アルティナがこの剣に宿ったのか。


「まあいい! その色以外はたしかに売り物だった剣だが……そいつはお前を選んだ。餞別にしてやる」


 ほう。気前がいいな。


「ただ! 最初の相手はガイオスにしておけよ? 変な武器だったら困るからな。……いいな?」


 そういうことか。

 まあ、ガイオスが相手なら大丈夫だろう。多分。


「わかりました」

「ってなわけで、ガイオス。頼んだ」

「…………わかった」


 ガイオスは、納得いかないという顔をしながらも、頷いた。





 私はその後、両手足を守る防具、その他諸々を購入した。基本的に私は軽装を好む。

 それに、どうせ成長したら着れなくなる。


 金ならワーグナーが出してくれている。

 ギニアは、子供の私でも使える防具を見繕ってくれた。

 いろいろ取り外したりしたから、少し安くなった。


 私とガイオスは武器屋を出て、次にアドベンチャラーとして登録に向かう……前に、昼食を取っている。

 買ったものは身に着けている。登録する際に必要になるらしい。


「レスク、聞いていいか?」

「この紅い剣のことか?」


 ついに、私とガイオスの間に敬語はなくなった。

 ここに来る最中に、止めるように言われたからだ。


 そして、この剣のことだが……正直に話すべきかどうか。よくわからない。

 …………いや、こればかりは話さない方が良さそうだ。


「私にもわからない。だから、何も答えられない」

「そうか。もしかしたら、何か宿っているのかもな。あいつの腕はたしかだ。精霊以外のナニカ・・・・・・・・が宿っていてもおかしくない話だ」


 そう言ってガイオスは笑った。

 絶妙に的を得ていて、私は上手く笑えないのだが……。


「さて、これからアドベンチャラーとして登録するわけだが。ワーグナー様が言うには、最低でも、お前が旅に出ていいのは一週間後だそうだ」

「それで?」

「……一度、私と本気の勝負をしてほしい」

「真剣……なんて言わないよな?」

「もちろん、木剣だ。その剣の性能チェックは別な?」


 真剣だったら、私の回復魔法がどこまで有効か調べようと思ったのだが……。

 アドベンチャラーになれば、いつかその機会も生まれよう。

 焦る必要はない。





 私とガイオスは、都市内でワーグナーの屋敷の次に目立つ建物の前に立っていた。


「ここがアドベンチャラー・ハウスだ」

「なんのぉ……ようだぁ……あぁ?」


 扉の前に酔っ払いが立っていて、私たちの進路を塞いでいる。

 酒臭い。どんだけ飲んだんだ、こいつは?


「俺ぁBクラスなんだぞぉ? それをぉ……」

「どいてくれないか? 邪魔だ」


 ガイオスがそう、威圧する。

 腰に差さった剣を、かちゃり、と軽く音を立てさせる。


 男はその音でようやく顔を上げ、赤い顔を一瞬で青く染めた。


「も、ももも……っ! 申し訳ありません、ガイオス・エラド様!!」

「ああ、言い忘れていたが、私はAAクラスのアドベンチャラーでもある。まあ、形だけだ。さあ、中に入ろう。…………仮面を着けておけよ」


 この剣術指南役様は優秀なようで。


「……仲間が死んで、自暴自棄になるのもわかるが、酒に逃げるのは感心しないな」

「……しかし……」

「今度……近いうちに、私が酒に付き合ってやる。もちろん、私の奢りだ」


 二人は無視して、中に入るとしよう。私は仮面を着ける。

 ぴったりフィットする。これも、魔法の仮面の効果か。


 こんな飲んだくれがアドベンチャラーという職業の現実なのだとすれば、これから先、注意するべきか……?

 いや、解毒魔法を探そうか。

 幸い、巨王のおかげで回復魔法〈治癒ヒール〉は使えるようになった。

 波長は似たようなもののはずだし、すぐに見つかるだろう。

 実験台には困らないだろうしな。


 少しして、男のすすり泣く声と、ガイオスが扉を開ける音が耳に届いた。

 

 

 

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