第5話 山賊討伐
翌日。
私は五匹の巨王の配下と共に、山脈を走る交易道を見張っていた。
巨王の話によると、山賊たちは猿対策もしているらしい。
そしてもちろん、隊商も最低限、山賊から荷を守るだけの力はあるらしい。
結局、盗賊は大した物も盗れずに撤退する。まあ、盗賊にとっては大した物では済まないのだろうが。
ここで私が山賊より先に飛び出せば、山賊と間違われてしまうだろう。
私は上半身の服を引きちぎった。
これで少しは、捨て子のように見えるだろう。素材費は無料だ、惜しくない。
▼
交易道の先を見張っていると、馬車の一団が走ってきた。
ふむ、あれが隊商か。確かに二、三人分、他より強めの魔力反応がある。……が、馬車に乗っている他の人間と大差ない。
そして下の方を見ると、山賊と思しき人影が現れ始めた。
何か話しているようだ。少し聞いてみよう。
「ふむ……」
会話が丸聞こえだぞ?
「お頭、今日はどうしますか? 猿対策の爆薬はすでに設置済みですが……」
「それはそのまま置いておけ。今日は、積み荷を奪うことを最優先事項とする」
一際体格の大きい男が盗賊の頭のようだ。
こいつは……強い? そうでもないか。他の山賊が弱すぎるのか。
それに、この話し方……頭も切れるようだ(偏見)。
山賊の強さは……馬車の中の弱い気配を一般人だとすると、かなり強い。
しかし、銀狼の群れの仔狼一匹でも勝てそうだ。
つまり、弱い。
いつもであれば、山賊が馬車を襲う前に巨王の配下が山賊に襲い掛かっていたそうだ。
しかし私は、馬車が襲われたあとに山賊に襲い掛かる。
そのため、巨王の配下には私が手を出すまでは手を出さないように頼んである。
山賊は百害あって一利なし。
殺してしまっても問題はないだろう。いや、殺してしまった方が、いろいろと都合がいい。
「「うわぁあああああ!!」」
「落ち着いて対処しろ!」
「すべてを寄越せぇ! すべてを奪えぇ!」
…………ダサい台詞……。
ふむ。頃合いか。
まずは爆薬をどうにかするのが先か。
私は交易道の真ん中に着地した。
着地の際に発生した音に〈
衝撃で、すべての樽が爆発する。
「「うわぁぁあぁああああっっ!!」」
「な、なんだ!? 猿共か?」
「違う、ガキだ!」
「いや……樽が暴発したのか?」
「よく見ろ! 同時に暴発するものか!? 十中八九あのガキの仕業だろう。おい、お前たち、あいつを押さえろ!!」
「「おうよ!!」」
私に向かって、山賊の半分が向かってくる。
だが、そこには罠が張られている。
私が握りしめた両手を引くと、山賊たちの体がバラバラの……文字通り八つ裂きにされた。
即死だ。
なに。ただ、植物の繊維を細く束ね、魔力で保護し、〈
あとはそこらの木に巻き付け、山賊たちを縛り……切り裂いた。
「お前たち! ――ぐぁああああああ!!」
……盗賊団の頭が吹き飛ばされた?
「毎度毎度狙われるのに、今回も馬鹿正直に荷を積んでいるとでも思っていたのか?」
「罠だったか……」
「そうであって、そうでない。今回の護衛は少し特別というわけだ。さあ、観念してお縄に着け!」
「くっ! 諦めて――」
私が手を叩くと、盗賊の頭は糸が切れたように倒れ込んだ。
盗賊の頭に向けて放ったのは〈
ふむ。もう一人いたか。
交易道の隅に、逃走中の山賊を発見した。
山賊は数が少ないため、戦闘員は全員出払っているとの情報だった。あいつを逃がしてはまずい、か……。
隊商の護衛は……気が付いていないのか。
ふむ。あれだけ離れていて、木々に隠れられていては、気付かないのも無理はないか。
しかし、逃がすわけにはいかん。
私はクラウチングスタートの構えを取った。右足を後ろに引く際に発生した砂の音で、私は魔法を発動させる。
身体強化系の魔法のため、微かな音でも発動する。
まだ変換効率が悪いようだ。
これは……この世界に名称付けられていないようだ。他世界での呼び名で問題ないだろう。
――〈
電気が一定量
爆音の源は、捲れ上がった地面を見れば一目瞭然のはずだ。
そして、私の目の前には逃走中の山賊のうなじ。
「な――!?」
私はそのまま膝を山賊の後頭部に食らわせる。
勢いは止まることなく、山賊は顔面から大きな岩に激突した
硬いものに衝突した山賊の顔は破裂し、生温い液状の中身を辺りにぶちまけた。
私は山賊がクッションになったおかげで無事だ。
膝が少々痛む程度か。膝の皿が割れる覚悟だった。
しかし、痛覚を軽減させる常時発動型の魔法の波長を見つけねばな。あればいいのだが……。
やれやれ。やるべきことが多すぎる。
だから転生直後は憂鬱なんだ。
基礎的な魔法は他世界と大差はないが、発展形ともなると、見つけるのが面倒になってくる。
巨王曰く、この世界の住民は『魔法の発動=詠唱』という固定概念がある。
つまり、魔法名から効果を先読みすることもできる。
私は〈閃撃〉を再発動し、隊商のもとへ戻った。
魔力レベルこそ低いが、対山賊用に装備を整えられていたようだ。かなりの魔力を有する魔法具が多い。
先ほどは隠蔽していたのか。
「ふむ……。君が守ってくれたのかね?」
おや、馬車から誰かが出てきた。
ふむ。あとは話次第か。
声に魔力が乗っていないと、この世界の言語を完璧には理解できない。
言葉自体は巨王との会話で覚えたつもりだったのだが、まだ慣れが必要だったな。
だが、自分の耳に魔力を乗せることで、相手の言いたいことは理解できるようになった。
とりあえずこの場は……喋れない設定でいこうか。
そちらの方が都合がいい。
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