野良皇子は山の中より成り上がる 〜97個目の【最強】を目指して!〜

真輪月

第1話  98/100

 もし、もしも……百の人生(記憶は引き継ぐものとする)を与えられたら、人はどのような反応を示すだろうか。


 歓喜?

 悲愴?


 いや、そこにどんな感情があったとしても、最終的に行きつく先は…………廃人だ。

 百の人生などという、無限にも感じられる時間は、人の心を壊すのには十分すぎる。




 ――だが、例外も存在する。


 それが私だ。……そう、私。

 急に出てきて、お前誰だ、名を名乗れと言いたくなるのはわかる。だが落ち着いて私の話を聞いてくれ。


 名を名乗る前に、私という存在を説明しよう。


 私は百の人生を異なる世界で過ごすという呪いを受けた。

 そして私はすでに、九十七の人生を全うした。

 正確に言えば、一度目の人生の記憶がないから……体感的には九十六だ。

 一度目の人生でその呪いを受けたらしく、誰がどのような目的で私に呪いを施したのかは、一切不明のままだ。


 まあ、ここまで来たら人生の一つや二つぐらい、変わりはしないな。

 一歩か二歩かの違いでしかない。


 なぜ記憶がないのか、なぜ記憶がないのにあると言えるのかは、私自身、説明ができない。


 私と同じ境遇の者がいれば、確かめようがあったのだが……。


 残念ながら、この呪いを受けたのは私だけのようだ。

 いや、私だけで良かったのかもしれないな。こんな地獄を経験するのは……。




 続いて、これまでの私の人生についてを話そう。


 大半の人生は人間として生まれたが、魔物や魔族――人類の敵として生まれたこともあった。

 それこそ、種族、階級……様々に。性別はいつも男だったがな。

 ヒトの暗い部分も汚い部分も、誇らしい部分も輝かしい部分も……すべて知った。知ってしまった。


 魔力や聖気に代表される、摩訶不思議なエネルギーも知った。

 似たものがあれば、すぐにでも習得できるはずだ。どの世界でも、雰囲気はほとんど同じだったからな。

 

 そしてどの世界でも共通だったのは、『気』だ。

 しかしこればかりは少々、習得に時間が掛かる。自身の体内に流れるエネルギーを感知しなければならないからだ。

 気を意識しながら、全力で体を動かし続けないと習得できない。

 習得は最低でも、自立歩行ができるようになってからだ。


 気というのは動植物……命もつ物体が持つエネルギーなのだろう。




 これだけのときを過ごし、転生を繰り返した私は、魂に関する仮説を一つ立てた。

 それは、


 ――性別は魂によって決まる可能性が高い


 というものだ。


 生物学的に、人の性別は両親の持つ染色体がどのように組み合わさるかで決まる……言わば、二分の一の確率で決まるとされている。

 だが私は、そこに魂が介入していると見た。

 おそらく、肉体そのものはどちらにもなれるよう、両方の染色体を保持している。


 男を取るか、女を取るか。

 最終的な決定を下すのは魂なのではないか。


 これが、性別における私の仮説だ。

 私がずっと男として生まれていることが、仮説の証明に繋がる。

 だが、この呪いがそうさせている可能性もあり、完全な証明には程遠い。

 ……証明したところで何になるのかはわからないが。




 おっと、そろそろ転生のお時間か。

 それじゃあ諸君、また次の世界で会おう。


 さてさて、次はどんな【最強】の人生となるのだろうか。


 私が名前を名乗らなかった理由を、賢明な諸君なら、すでに理解してくれたのではないかな?





「──……ぉぎゃぁ……おぎゃあ! おぎゃあ!!」


 天井には金色こんじきに輝くシャンデリアが一つ。

 床には深紅の、シャンデリアと同じ色の刺繍が施された絨毯。

 そんな部屋の真ん中にポツン……と置かれたベッドは、薄い紫色の天蓋付き。


 そんな(無駄に)豪華な一室で、新たな生命が生まれた。


「おめでとうございます! 元気な男の子にございます!」

「おお! でかしたぞ、シズ!」


 産婆が生まれたばかりの赤子を抱きかかえ、赤子の体を隅から隅まで観察し、母親に返した。

 受け取った母親は、慈愛に満ちた微笑を浮かべ、愛おし気に赤子を優しく抱きしめた。


「……父上」


 部屋の扉が静かに開けられ、一人の少年が入ってきた。


「おお、ファルガス。お前の義弟おとうとだぞ。嬉しかろう?」

「……そのようですね」


 ファルガスと呼ばれた少年は、生まれたばかりの赤子を冷徹に見据えていた。

 その視線に込められた感情には、誰も気付かれなかった。


 ――唯一、赤子を除いて。




 そこは、ティシザス帝国帝都。

 その真ん中に立つ一際目立つ豪華な建物──皇族の城。


 名前を呼ばれた男の子――ファルガスは皇帝の長男で、次期皇帝。今年で九歳になる。

 ファルガスの母……前王妃は数年前に病死。生来、体の弱かった彼女は病に抵抗できず、呆気なく死んだ。


 シズは二人目の皇帝の側室だ。

 王妃ではない。一人の王に、王妃はただ一人のみ。それは絶対の、王としての掟……不文律だ。

 だが皇帝の子を産んだことで、彼女の地位は向上し、王妃並みの権力を手に入れることも、あり得ない未来ではない。


「あなた、名前は決められているのですか?」

「うむ。この子の名は……――」

「――!」


 皇帝とシズは、幸せそうな顔で笑っていた。

 赤子に明確な意識は……まだない。


 ファルガスはもう、そんな明るい部屋にはいなかった。






★☆★☆★☆★☆★☆


前作を完結させてからおよそ一年

……ですが、その間に高校生らしく、楽しく忙しい時間を過ごし…………

一投稿者としてのブランクはかなりのものとなりました


ですが、腕は衰えてはいないと自負しております

設定にも一切手を抜いていません

むしろ、拘りは強くなったと思います



長編となりますが、拙作をどうぞよろしくお願いします!!


フォロー、ハート、星、レビューをよろしくお願いします!

僕のモチベ――ひいては、作品の面白さに直結します!!!

遠慮せずにどうぞ


 



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