月の子のトリ ~伝承重視版~
ミコト楚良
1話 〈ヲホド歴16年〉 渡来人の達等
かの国に
「あぁ……」
まだ、足元が揺れているようだ。
そこから川を
「船酔い?」
幼なじみが隣で、かすかに
「それとも、失恋の痛手?」
「黙れ。クソ」
少年は吐き気を抑えて、どうにか言い返した。
3年、好きだった子にフラれた。
『異国に一生とか有り得ない』
確かに、胸の痛みは残っている。
長い船旅は、
ゆえに、このたびの船団のメンバーは、
いずれ、ヤマトの国に仏教寺院を作るという計画のために。
ヤマトの
臣下たちが受容派と拒絶派に分かれ、対立することになるだろうことは予測できる。
そのためにはヤマトに帰化する。一生、故郷へは帰れない。
(フラれても仕方ない……)
さて、
広間の上座には
オワリノ
あとは、ミオノ
サカタノ
オキナガ
マンダノ
ミオノ
ワニノ
ネ
これを、
「すっげ」
幼なじみは目を丸くした。
「なんか女の名だけは一回で覚えられるんだ」
一種の才能である。
ふわふわとした女共の衣装を見ている内に、
一族は、まちがいなく馬の鞍を造っていた一族であったから。
父は、金工、
そういう一族だ。
さて、
ヤマト
「けったくそ悪い。こっちは、わざわざ、来てやってるっていうのによ」
「はい。仏壇の方を向く~」
朝の祈りの時間だ。
手首から
天衣をまとい、左手に
首周りにはゆったりと
ある日、それをヤマトの少女だろうか、たましいを抜かれたように見ていた。
誰ぞ大人について来て、仏間に入り込んだものか。
「
少女が、振り向いた。
「キレイ、ダカラ」
「
達等は思わず、
『話せるのか』は、口の前で右の手のひらを閉じたり開いたりしてみせた。
少女は、うなずく。
「へぇ、スゴいネ」
「ナマエ、何ての?」
「……」
「なまえ、ん-と」
「手」と言った。
次に左手の人差し指で自分を指し、
「たつと」と言った。
次に、少女を指差した。
「……」
通じなかったみたいだ。
ぷいっと、少女は向こうに行ってしまった。
入れ替わりにやってきたのは、
「
たしか、四代の
(いけねぇ。男は覚えらんねぇ)
「ソガさま。息子の
「
神妙に配下の礼を取る。
そうだ。ソガ氏。
ソガ氏は多くの渡来系集団を従えている。
このソガ一族には、
それから、ソガ氏が工房に立ち寄るたび、あの少女も来た。
召使いという身分でもなさそうだ。気ままに、工房内を散歩している。
「ノコギリ」手に持って指し示す。「たつと」自分を指す。
その繰り返し。
「ノミ」「たつと」
「チョウナ」「たつと」
「炭」「たつと」
「ヤリガンナ」「たつと」
「イモ」「たつと」
「――」
ある日のことだ。
少女が、くっくっと笑いはじめた。
そして、自分を指差して言った。
「とよめ」
それから、
「たつと」と。
それから、何べんか春が巡った。
工房から少し離れた
「――
「はぁい」
外の方から、こもれびのように返事が返ってきた。
彼の妻は
「何、してんだ。
「ずーーっと、ああして
少なくともオレが帰るところは、ここだ。
妻と子がいる、ここだ。
〈1話 渡来人の達等〉 了
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