第27話 Kさん

 私は大きく息を吸い、唾を飲み込んだ。


 「昔々…、なんか…違うな。すまん、あんまり話した事ないからどう話せばいいかまとまっていないんだ…。」

 「大丈夫、大丈夫、ゆっくり話してくれれば良いよ。」

 いざ話すぞと意気込んだもののなかなかうまくまとめて話すことは意外と難しい。

 仕事の時は会議前など台本を作るが、今回はぶっつけ本番、それもそうだ…、話すとは思ってもいなかった。


 「ありがとう。そうだね、まずKさんと初めてあったのは両親の葬式だった。私はまだ中学生で、急に喪主言われ、両親を無くしてこれからどうしようかと思っていた時に声をかけてくれたのがKさんだった。」


 「Kさんは母方の親戚に当たる人だった。私とは一回り以上離れていて、今はもう良い年だがその時はお兄さんって感じだったのを今でも覚えている。」


 「両親は交通事故で亡くなったという話を聞いたが遺体は見つからず引き取る事ができなかった…。それで、名前が書かれた木の板を棺桶の中に入れて燃やした光景が今でも脳裏に焼き付いている。」


 「両親と本当は旅行に行く予定だったんだ…。でも、その時は思春期ということもあって、いかないって…言ってしまった…。今は後悔でしかない。」

 私は喉に込み上げる熱を堪えながら話し続けた。時折言葉に詰まることもあったが、ゆっくりと話した。


 「葬儀も終わり色々な手続きも終わり…、相続やらなんやらで、生活するのには苦労しない様にはなったていたんだ…。でも、やっぱり急に一人になると…どうして良いかわからなくなるんだよ。祖父母も亡くなっていていないので、頼るあてもなく…、一人ふさぎ込む日々だった。」


 「そんな時、Kさんが家を尋ねて来てくれたんだ…。葬儀の時に私が喪主をして全てを仕切っていたから、おかしいと思ったらしい…。私も知らなかったんだが普通は未成年は名前だけ喪主にして他の人が色々やるはずだって…。そう思ったらしく…もしかしてということで。」


 「実際にKさんの考えは当たっていた、私は誰も頼る人もいない…、完全に孤立していたんだ…。友達とかも心配してくれていたけど、やっぱり皆んな未成年だし、他人だから…、どうもしようがなかった。」


 「何回かKさんが訪ねてきてくれて、その後右葉曲折あり、Kさんが親代わりになることになった。まだ結婚もしてないのに、私を引き取ってくれたんだ…。養子縁組などはせずただただ、一緒に暮らす事になった。」


 「色々な手続きに関してはこんなのは仕事で慣れてるって転校手続きや、いろいろその他も全部やってくれた。」


 「生活費は自分で出そうと思ったんだけど、Kさんは一切受け取らず、本当に親代わりに私を支えてくれた。でも、私持つ悲しみも察していてくれた。」


 「本当の親の様に接してくれていたんだが、私もやっぱりどこかで、父母への思いを捨てきれていなかったんだと思う。それはKさんもわかっていてくれていたので、深く踏み込んでくることはしなかった。」


 「でも、やっぱり親心的にどうにかしてあげたいと思ってくれていた様で、私をあるゲームに誘ってくれたんだ。このライターができるきっかけとなったゲーム…。」

 

 「そのゲームは高大な南国リゾート地にゾンビが溢れかえって、そこで生存者となって好き勝手に遊べるゲームだった。でも、命は一つ限り、死んでしまったらまた初めからスタートという結構リアル仕様だった。まぁ、なんでこのゲームを紹介されたかは全くわからなかったが、多分好きなことをしろってことだったんだと思う。」


 「ゲームの中ではなんでもできた。ゾンビを倒して回ったり、逆に他のプレイヤーを襲撃したり、自分の陣地を確保してセーフハウスを作って談笑したり…。私はどんどんのめり込んでいった。」


 「でも根本的な解決にはならなかった。そこでKさんはこんな殺伐としたゲームの中でも人助けをすると言い出してチーム死者街の灯(Light of the Necropolis)を結成したんだ。このライターのマークのチームだね。」

 ライターに光を当てて、掘り込まれたマークを見せた。


 「私も人助けチームで色んな人を助けた…、でも助けられなかった人もいた。そんなことを繰り返しているうちに、私は親の死も少しづつ受け入れられる様になった。」


 「ある時、Kさんがことを見計らった様に、今あるものを大切にしろという話をしてくれた…。ないものに私はずっと執着していたんだと思う。学校にはちゃんと行っていたが、身が入っていないとKさんに担任から報告がいっていた様だ。心配してくれていた様だ。」


 「私は考えを改めた…。それからは授業も集中して聞く様になり、ちゃんと自分に向き合う事にした。」


 「この頃から、Kさんに恩返しをしたいという思いが強くなった。漠然とKさんと同じ会社に入って恩返ししたいと思っていた。その事をKさんに話したら、文系はやめておけ…、絶対に理系に進むんだって言われたのを今でも覚えている。」


 「それからは必死で勉強した…、良い大学に入るために…。大学の費用もKさんが出してくれた…しかも大学院まで進学させてもらった。」


 「それからは、Kさんのいる会社の研究所に入って、今に至るって感じかな…。もっと色々Kさんにはしてもらったんだけど長くなるから割愛するね。」

 私は話を終え、水を飲み喉を癒した。


 「両親が亡くなっていたんだね…。棺桶だけの葬儀とは…。」

 「あの時は何が何だかわからなかったよ…。自分自身も死体も無かったから…、受け入れることもできなかった。」

 私自身も本当にあの時は困惑した事を覚えている…。まだ中学だった…、そんな子供には酷な事だ。


 「うまく話せなくてすまない。でも、Kさんには返しきれない恩があるという事だけ伝わればと思う。」

 やはり面と向かって、自分の過去を話すのは難しい。一つ一つ思い出して話すとこんなにもまとまりのない話になるのだ。


 「Kさん、心配だね…。」

 「そうなんだ…。」

 私はずっと喉に小骨が引っかかっている気持ちであった。

 私の失ったモノを埋めてくれた、恩人だ…。


 「しかし今日は何というか大変だったなぁ。こんな話している場合じゃないってのはわかるんだけど…。」

 「ずっと気を張っているわけには、いかないしね。」

 「こんな武器持っていうのも何なんだけどね…。」

 「カズ…武器じゃないよ、農具だよ。」

 真司達は自分たちが持っている武器をまじまじと見つめた。

 これからこの武器とも言えない武器で武装している可能性のある奴らと戦わなければいけないのだと。


 いつかきたるその日に向け、私たちは人を助けるための武器ではなく屠ることができる武器を探しに歩いた…。

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