50パーセントの守護ゾンビ

おんぷがねと

プロローグ

 ダリティア国内にある小さな町ミッドラビッド。その一角で野菜を売って生活をしている家族がいた。


「ミレイザ、そのボルリフを台に乗せておくれ」

「うん」


 ミレイザは母親に言われて、黄緑の丸い葉のかたまりを台の上に乗せた。


 ミレイザ・ロティ―リス(19歳)町で野菜売りをしている。家が野菜屋でその手伝いをしていた。内気な性格で物を売るにも小声だったり、客が来ても無言で店に立ったりして母親を困らせたりしていた。


 客はそんなミレイザに優しく声をかけて彼女を不安がらせないように接しているが、顔を赤くして下を向いてしまう。


 ミレイザはそんな自分のことに対して情けなさをいつも感じている。どうにかしてこの性格を変えたいと思っていた。


 ミッドラビッドでも野菜売りは数店あり、ほかの店では野菜と一緒に果物なども売っていたり、元気な声で客を呼び込める人を雇ったりとしのぎを削っていた。


 家庭菜園なため気候変動などによっては売り物が少なくなったりする。そのためミレイザの家庭はいっこうに裕福になることはなかった。


 父親は武器屋のバイトもしている。そこの店主が冒険者もかねていて護衛として雇われるときがある。たまに何日も帰らないときがあったりして、そのあいだだけ店番を任されていた。


 ミレイザはひとり娘で両親はとても大事に育てていた。あれが食べたいと彼女が言えばそれを買ってきて与え、あのぬいぐるみが欲しいと言えば買ってきて与えていた。どんなにお金がなくてもできるかぎり願いを叶えていた。


 欲しがるものを買い与えると笑顔になってくれるから、たとえ家計が苦しくても娘にはそのことを気づかれないようにしていた。


 両親の笑顔の向こう側に見えるかげを感じ取ったミレイザは、気を使う子になった。


 それ以降、両親に物をねだるのをやめた。なにか欲しいものはある? と、聞かれても首を横に振るのだった。


 そんなある日のこと、父親はモンスターに襲われて帰らぬ人となった。


 もともと貧しい生活だったが、さらに貧しくなっていった。家にはお金がなかった。でも、毎日の食事を家族でするのがミレイザにとっては幸せだと感じていた。母子家庭になっても食卓を囲むことが、たったそれだけが幸せだったのだ。


 店の手伝いで貯めたお金は家計の足しにとミレイザは母親に言うが、母親は自分のために使いなさいと言って受け取ろうとはしなかった。


 ミレイザはそのお金で買いたいものがあった。それは本だった。本の中の主人公は強くて人を助けることを進んでするからだ。


 ミレイザにとっては怯えて不安な日常を奮い立たせてくれる、そんな存在なのだ。


 気持ちが高まり本屋へ行こうとして小走りになる。そのときミレイザはなにかにつまづいて転んでしまった。


 ふわりと力の抜ける感覚がミレイザを襲う。


 町の人たちの騒がしい声が遠くや近くで聞こえてきた。それから彼女の意識は遠くなっていった。

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