戦場





   * * *




 ナイトは人のいなくなった街なみをぬけ、東側へ駆けていた。

 東側は機属の猛攻を被り、原形をとどめている区画自体少ない。

 瓦礫の山と化した砂塵の街で、装甲車が軒を連ね、戦闘車両が爆音を轟かせる。

 が、それらは巨大な鋼鉄の獣には何の有効打にもなりえないようだった。

 やがてナイトは最前線と思しき主戦場にまで足を運ぶ。

 戦場に響く人の声に耳を傾けた。


「機属の奇襲だと!?」

「くそ、監視連中は何してた!」

「避難部隊の方は無事なんだろうな?!」

「なんでもいい、迎撃だ! 迎撃態勢に入りやがれ!」


 荒廃した街は、さらなる荒廃を深めていった。

 街を護る男たち、皆が何かしらの機械類や装甲板を纏い武装する中、


「おい、聖女さまの御到着だ!」


 ナイトは街を護る人々と共に空を見上げる。

 ナイトたちが見上げる先で、パワードスーツのようなものを着込むシスター・カナイ……印象としては『漆黒の戦乙女』……元々は機械構造の十字架を身に纏った姿で、機属の猛獣たちに一太刀を浴びせる。

 満ち満ちる快哉。

 鋼の獣数体が、天を舞うカナイの超大な一刀で、その頭部を削ぎ落されたのだ。

 鳴り響く轟音。

 ナイトは独言する。


「……すごい」

「ん? おい、そこの!」


 ナイトは昨日出会った顔役に発見され、野太い怒号を受ける。


「昨日の奴だな! なんで“戦装”を付けてねえ! 死ぬぞ!」

「そ、それは」

「対機属用の装備類だ! それがねえんなら退け! 死ぬぞ!!」


 二回目の注意喚起。

 意外といい人なのかもしれないと思いつつ、“戦装”とやらをアイコンを開いて検索しようとするナイト。

 だが、


「あ?」


 そこで異変に気付いた。

 灰色だったアイコンが、赤色の点滅を繰り返している──まるで何かの変事を報せるかのように。


(もしかして!)


 淡い期待と昂揚を感じつつ、ウィンドウ画面を開く。

 ステータス表記を慣れたように閲覧し、何か武器となるもの、“戦装”なるアイテムでもないかと血眼になって探す。

 だが。


「……なんだよ」


 アイテム欄にも、その他のウィンドウにも、それらしい項目は存在しない。

 そもそも、“機属”という単語自体を知ったのが今朝が初だったのだ。何もないのは当然かもしれない。

 少年が落胆する一方で。


「来るぞ! 迎撃用意!」


 貧民街の住人らは何らかの対“機属”用のアイテムを保持しているらしく、全員が一丸となって鋼の猛獣たちに立ち向かう。

 巨大な刃物や装甲で武装し、ビーム兵器や電磁砲の類で発砲する男たち。

 だが、致命的な攻撃を与えられているのは、シスター・カナイ以外に存在しない。

 そもそも数の差が圧倒的すぎた。


「くそ、ダメです顔役、これ以上は戦線を維持できません!」

「敵後方に〈ツェデック〉を確認! 道理で強ェわけだ!」

「クソが! 中央区にまで後退しろ!」

「親分!」

「なんだ!」

「今、に、西区からも敵襲を確認! 避難部隊が攻撃されたと!」

「なんだとおッ!!」


 東西からの挟み撃ち。

 ナイトは激震する戦局の絶望的な推移に、何も言うことができない。


「クソクソクソ! 聞いた通りだ、シスター! 西区は第三から第十一部隊で何とかする! ここは二個部隊と任せて大丈夫か?!」

『問題ない、急げ!』


 戦装越しに通信をやりとりする二人。

 顔役の大男は、部下らを率いて西区へと向かう。

 その途中、


「おい、昨日の!」

「は、はい!」


 ナイトは反射的に応じた。


「戦装もってねえ雑魚は中央塔に避難しろ! シスター・カナイの邪魔だけはすんな!」


 顔役はそう言って、部下らの半分以上を率いて戦場を西に移動する。

 カナイは数多の機械獣に囲まれ肩で息をしながら、ナイトを振り返って、一瞬の間、微笑んだ。

 飛び立つ戦乙女。

 途端、胸が熱く感じられた。


(このまま、何もできないまま終われるか!)


 その時だ。

 近くの建物から響く、赤ん坊の泣き声を聞いたのは。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る