ニューラグーンシティブルースその2

 ヘンネンフォーファー氏はゼルギウスの顔を見ながら、もったいぶって言う。

「まったくもって困ったことだ」

 ヘンネンフォーファー氏は調査部の部長で、ゼルギウスはそれに雇われてるフリーランス。

 ゼルギウスはウンザリした風に返す。

「何がです?」

「つまりだ、キミにはおエライさんも関わるヤベェ施設を見つけて欲しいわけだ。だれにも気づかれないうちに、すみやかに」

「はあ」

 そんなわけでいま、ゼルギウスは廃墟の中に佇んでいる。遅かったらしい。

 瓦礫が少し動いたのを見たかれは、それを取り上げる。瓦礫の下には痩せ細った少年。

 本来なら報告すべきだが。しばらく考えてゼルギウスは少年にこう訊く。

「お前、名前は?」

「グスタフ……」


 可哀想に思ったゼルギウスは、かれのことを隠したり誤魔化したりしつつ、なんとかいっしょに暮らせるようになった。

 これがゼルギウスの同居者の事情である。ここでは、かれらの生活している1日を見てみよう。

 グスタフは、だいたい7時に目を覚ます。それから顔を洗い、ゼルギウスに作ってもらった朝食を食べる。

「いただきます」

「おう」

 そして8時ぐらいには、学校へ登校。グスタフの通っている学校は、ゼルギウスが用意したものだ。

「行ってきます」

「おう、気ィつけてな」

 ゼルギウスはグスタフを見送ると、家の掃除。それから仕事に出かける。「さて、俺も仕事するか」

 ゼルギウスはフリーランスだ。依頼があればどんな相手でも殺すし、逆に依頼を受けなければ何もしない。

 そして、グスタフが帰ってくる頃には家にいて、夕食の支度をしている。

「ただいま」

「おう、おかえり。今日はシチューだ」

「やったあ!」

 グスタフはゼルギウスに懐いている。それはきっと、ゼルギウスが優しいからだろう。ゼルギウスは夕食を食べながら、グスタフに訊く。

「なあ」

「なに?」

「お前、学校楽しいか?」

 するとグスタフは、少し考えてからこう答える。

「うーん……わかんないや」

「そうか」

 それから2人は寝る時間まで自由に過ごす。ゼルギウスが依頼の連絡をチェックしている横で、グスタフは本を読んでいる。そして12時になると、ベッドに潜り込むのだ。

 そんな毎日を過ごしていたある日のこと。

 いつも通りゼルギウスは仕事に行こうとしたが、その時、かれはめまいを起こした。思わず膝をつくと、グスタフは驚いて駆け寄った。

「ねえ、どうしたの?」

 ゼルギウスは頭を軽く振り、かれに言う。

「すまねえ。ここんとこ、ココ数日の仕事で体が参っちまったようだ」

 するとグスタフは心配する。

「病院行った方がいいんじゃない? 僕も一緒に行くから」

 しかしゼルギウスはそれを断る。

「いやいや、心配いらねえよ」

「でも……」

 グスタフは心配そうな顔をする。ゼルギウスはかれに言う。

「それより、今日は学校あるんだろ? 早く行かねえと遅刻するぞ」

 だがグスタフは動かない。ゼルギウスは少し考えてからこう提案する。

「じゃあ、今日の仕事は休むわ」

 するとグスタフは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。そしてこう言う。

「ありがとう!」

 2人は一緒に病院に行った。診察の結果、異常はなく、過労だそうだ。グスタフはゼルギウスに言う。

「よかったね、大したことなくて」

 ゼルギウスは照れたように頭を搔く。そしてグスタフに言う。

「ああ、心配かけたな」

 2人は家に帰ると、一緒に昼食を食べた。そして午後は家でのんびりと過ごすことにした。ゼルギウスが昼寝をしている間、グスタフは本を読んでいた。やがて夕方になると、2人で夕食を作り始める。

 その日の夕食はシチューだった。出来上がると2人で食卓を囲みながら談笑する。食事が終わると後片付けをして、一緒にお風呂に入った。そして寝る時間になると、2人でベッドに入る。

「ねえ」

「ん?」

 グスタフがゼルギウスに話しかけた。

「僕ね、ずっとここにいていいんだよね?」

 するとゼルギウスは微笑んで答えた。

「もちろんだ」

 2人は一緒に寝たあと、朝が来ると起きるのだ。それから朝食を食べ終えると、学校へ行く準備をする。グスタフは玄関で靴を履きながら言う。

「それじゃ行ってくるよ!」

 するとゼルギウスは笑顔で言う。

「おう、気をつけてな」


 グスタフが学校に行ってからしばらくすると、ゼルギウスは仕事に行く準備をする。今日はどんな依頼が来るだろうか? そんな期待を胸に家を出た。そして街に出ると、人通りの多い道を選んで歩く。すると前方に見知った顔を見つけた。それは同業者だ。彼はこちらに気づくと声をかけてくる。

「おや、奇遇ですね」

 ゼルギウスも挨拶を返す。それから2人は世間話をしながら歩いた。やがて目的地に着くと別れる際に、彼はゼルギウスにこう言う。

「そういえば最近、違法薬物の密売組織が活発化しているようです」

 ゼルギウスは興味津々で質問した。

「詳しく教えてくれませんか?」

 すると男は少し考えたあと、こう答えた。

「もちろんですとも」

 2人はそれから喫茶店に入り話をすることにした。男は店員を呼んで注文した後、話し始めた。

「実はですね、最近ある地方の廃屋の中で売買が行われているという話があるんですよ」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。「詳しくお願いします」

 男は頷くと話を続けた。

「はい、その廃屋は廃墟で誰も住んでいないのですが、なぜかそこに違法薬物の売人が出入りしているという目撃情報があるんですよ」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。そして男に礼を言うとその場を後にした。


 それからしばらく街を歩くと、ある建物の前で足を止めた。そこは古いアパートだった。

「ここだな」

 ゼルギウスはニヤリと笑うと、そのアパートに入っていった。

 1階の一番奥の部屋の前まで行くと、ドアをノックした。すると中から男が顔を出した。男はゼルギウスを見ると驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。そして言う。

「どのようなご用件でしょうか?」

 ゼルギウスは答える。

「実はですね、違法薬物の密売組織についてお聞きしたいのですが」

 すると男は驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。そして言う。

「はい、何でもお答えします」

 2人は部屋の中に入ると椅子に座った。男は話し始める。

「最近この辺りで違法薬物の売買が行われているという噂がありましてね……」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。だがまだ確信が持てないようだ。そこで彼は質問を投げかける。

「それで、その組織の拠点はどこにあるんですか?」

 すると男は少し考えてから答える。

「それがですね、まだ特定できていないんですよ」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。そして男に礼を言うとその場を後にした。

 それから数日後、ゼルギウスはいつものように街を歩きながら思いをめぐらせていた。

 すると彼はある建物の前で立ち止まった。それは廃ビルだった。

「ここかな?」

 彼はその廃ビルに入っていった。そして階段を上り始める。すると上から足音が聞こえてきた。見上げると、そこには数人の男たちがいた。彼らはゼルギウスを見つけると驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になると言った。

「おやおや、こんな所にお客さんとは珍しいですね」

 ゼルギウスはニヤリと笑うと、男たちに言った。

「実はですね、違法薬物の密売組織についてお聞きしたいのですが」

 2人は廃ビルの屋上に立っていた。空は晴れ渡っており、心地よい風が吹いている。だがそれは2人にとって関係のないことだった。ゼルギウスは男に向かって言う。

「それで、その組織の拠点はどこにあるんですか?」

 すると男は少し考えてから答える。

「それがですね、まだ特定できていないんですよ」

 2人はそれから廃ビルを出て街を歩くことにした。ゼルギウスは歩きながら考える。

(さて、どうしたものか……)


 男と別れると、彼はある店の前で足を止めた。そこは古書店だった。彼は中に入ると店主に声をかける。

「すみません」

 店主が振り返ると笑顔で言う。

「いらっしゃいませ」

 ゼルギウスも笑顔を返すと質問を投げかけた。

「最近この辺りで違法薬物の密売組織についてご存知ないですか?」

 すると店主は驚いて言った。

「ええ、確かそういう輩とかが出入りしていると」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。すぐに詳しく尋ねた。すると、やはりこの街のどこかであるらしかった。ゼルギウスはその地区へ行ってみようと思った。


 次の日、ゼルギウスは昨日の話にあった地区に向かった。そこは小さな区画に分けており、中には多くの建物が立ち並んでいた。ゼルギウスはその建物を見て回ることにした。

 一軒のビルに入ると中は薄暗いが、中から男が出てくる気配はない。誰もいないようだ。ゼルギウスはそのビルから出て隣の建物に入ろうとする。すると後ろに誰かいる気配を感じた。振り向くとそこには老人がいた。

 彼はジッとこちらを睨みつけている。ゼルギウスは警戒しつつ話しかけた。

「すみません、少しお聞きしたいことがあるのですが」

 老人は答える。

「ふむ……いいだろう、ついて来い」

 ゼルギウスは彼の後に続いた。そしてある一室に入ると、老人は椅子に座った。ゼルギウスもそれに倣って座った。

「それで、何を聞きたいのだ?」

 ゼルギウスは単刀直入に訊いた。

「この地区で違法薬物の密売が行われていると聞いたのですが」

 すると老人は少し考えてから答えた。

「確かにそういう輩がいるという噂はあるな」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。そして情報をいくつか貰い老人に礼を言うとその場を後にした。それからしばらく街を歩いた後、彼はある建物の前で足を止めた。そこは古いアパートだった。

「ここかな?」

 彼はその廃ビルに入っていった。階段を上り始めると、上から足音が聞こえてきた。見上げると、そこには数人の男たちがいた。彼らはゼルギウスを見つけると驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になると言った。

「おやおや、こんな所にお客さんとは珍しいですね」

 ゼルギウスはそれを聞き逃さなかった。そして男に礼を言うとその場を後にした。

(さて、どうしたものか……)

 ゼルギウスは街を歩きながら考えた。

 そしてある場所へ向かうことにした。そこは小さな広場だった。彼はそこで立ち止まると、空を見上げた。空は雲一つなく晴れ渡っている。


 特に収穫はなかった。

「今日はもうなんにもなさそうだな」

 日が暮れる前に家に帰ることにした。そして夕食を準備する。グスタフと夕飯を食べ始めると、ゼルギウスはこう訊いた。

「なあ、最近なんかあったか?」

 グスタフは聞き返す。

「どうして?」

 ゼルギウスは笑って答える。

「なんとなくだよ」

 そして食べ終えた後、食器を片付け始める。グスタフは少し考えた後、言った。

「そういえば、今日新しい友達ができたんだ……」

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