プリン奇譚
ーはい、こちら長内乳業株式会社ニューラグーン営業本部です。ご用件はなんでしょう?
ーお宅のプリンで大陸一周キャンペーンやってるよな?実はそれを買い占めたいんだが用意できるか?あぁ、そうだ……俺だ、えっ?わからないってそりゃないだろう……ほらあの時のガキだよ!!あの時も電話したじゃねぇか!?お前が取り合ってくなかったからこんな事になってんだよ!!ふざけんな!!いい加減にしろよテメェ!!
ー失礼しましたお客様。現在当社では全品予約制となっておりましてですね、先着200名様のみの購入になっております。数量限定なのですぐに売り切れてしまうと思うのですがその点に関しましてどう思われているでしょうか……。はい……わかりました……そのように対応させていただきまする。しかし今の時点ですでに完売となっている場合などにつきましては申し訳ありませんが何卒御理解くださいませ。はい……よろしくお願いします。なんだこれ。なんか知らないけど勝手に通話終了になったぞ……。ていうか最後の丁寧語ムカつくんだけど……クレーム処理慣れてる感じあるわ……。やっぱ大手は違うね。とりあえず冷蔵庫の中に入っといたけど明日の朝には消えてなくなりそうな雰囲気だからこれは今日中に食べておくべきかもしれない…………。俺はスプーンを握りしめて覚悟を決めた!
さて……食うぞ!!!
パクッ……甘い! 美味すぎるぜ!! マジで何個でもいけちゃいそうなレベルだけど1つしかないもんな……そんなことしたら勿体無いし……我慢するか……。でももっと欲しいな……買えた人羨ましいよ……。俺だって買いたかったのに……でももう無理だろうし諦めよう……。
そして次の日、テレビをつけると衝撃的なニュースが飛び込んできた。
ー速報が入りました。昨夜、都内にあるコンビニにて強盗事件が発生。犯人はすぐに警察によって確保されましたがその際に店員を人質にして立てこもり事件を起こしました。その後、警察が突入を試みるものの人質の安全を優先したため失敗に終わっています。現在も店内からの連絡はないとのことです。また、この事件による死者は出なかったものの重傷者が数名いる模様で現在、懸命の治療が行われています。尚、犯人は未だに逃亡中であり警察は引き続き捜査を行っていくと発表しております。以上現場より中継でした
はっ!?まさかこのプリンが原因で事件が起きたのか!?ヤバいじゃないか!!早く逃げないと……。
ピンポーン♪
誰か来たみたいだ……誰だよこんな時に……。宅配便だったら後回しにしても大丈夫かな……。でも念のため確かめてみるか。
ーはい、どちらさまですか?ああっ! あなたは昨日のお兄さんじゃないですか!なんでここに!?
ーいえいえ、こちらこそ助けていただいたのでお互い様ですよ!お気になさらずに……。
ーそういうわけにもいきませんよ。何かお礼をしなくては……。
えっと困ったな……。このままじゃまずいしなんとかしないと……そうだ!
ーところで話は変わるんですけど昨日のニュース見ました?
ーはい、私もちょうどテレビで見てたところなんですよ!まさかあんなことになるなんて思ってませんでしたからビックリしちゃいましたよ〜。あはははははは……。あれ?どうしましたお兄さん?なんか汗すごい出てますけどもしかして風邪とかひいてたりします? ゴメンなさい嘘つきました本当はプリンを食べて太ってしまったせいなんです……。
ってバカ正直に言う訳にもいかないしここは誤魔化すか……。よしっ!!
ー実はそうなんですよ〜朝起きた時から体が熱くて仕方ないんで病院行ったんですけどただの風邪みたいなんで帰って寝てれば治ると思うんですよ〜。心配かけてすみません……。
ーそれなら良かったです!私はこれから学校行かないと行けないのでこれで失礼しますね!お大事にしてくださいね!!それでは!
助かった……なんとか乗り切ったようだ。さて今日はこのくらいにしとくとして明日になったらもう一度あのスーパーに行ってみよう……。
次の日……
あのプリンが原因だとわかっていてもどうしてもあの店に行きたくなってしまって結局来てしまった……。とりあえずいつも通りレジにいるおばちゃんに声をかけるか……。
ーおはようございます。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかい?
おばちゃんは少しだけ面倒くさそうに返事をした……ような気がする。気のせいかも……。
ーはい、何でしょう?
ーこの店のプリン全部ちょうだい!!
シーン
ーはい、かしこまりました!今すぐにご用意いたしますね!
そう言い残して彼女は急いで裏へと走って消えていった……。なんか悪いこと言っちゃったかな……。
しばらくしておばちゃんは戻ってきた。両手いっぱいにプリンを抱えながら……。
ーお客様、大変お待たせ致しました。こちらになりますがよろしいでしょうか?
んっ? なんでだろうなんか様子がおかしいぞ……。とりあえず確認しておくか。
ーあの〜一つ聞いてもいいかな?
ーはい、どうぞ。
ーなんか数がすごく多く見えるんだけど……。これ全部で幾つになってるんだい?
ーはい、合計で202個となっております。当店で販売しております全てのプリンをかき集めてまいりました。
えっ……そんなに……? 確かにこんな量買うやつは俺以外いないよな……。
ーそれで、いくらになるのかな?
ーそうですね……こちら全て合わせて153600になっております。
高っ!! でもこれくらいは想定内だ。さすがにこの前の電話代までは請求されないだろうしな……。
ーわかったよ……現金でいいかな?
ーはい、大丈夫ですよ。
よかった……これでなんとか足りそうだな。でもお金を払ってる時にふと思ったことがあった。それはこのおばちゃんはどうやって持って帰るつもりなんだろうということだ。
ーあの……ちなみにだけどこれ一人で運べるの?
ーはい、問題ありませんよ。こう見えても力には自信があるんです。なので大丈夫ですよ!
そういうもんなのかな……。まぁいいか……。
そして会計を済ませた俺は大量のプリンを持って帰ることになった。流石にこれはキツいな……。でもこれも自分のためだからな……。頑張ろう。そして俺はやっと家に帰り着いた……。しかし玄関に荷物を置いて気づいた。これはどこに置くべきかということに。まぁいっか適当に部屋の中で……。そしてプリンを冷蔵庫に入れようとしたその時だった。
ピンポーン♪
また客が来たみたいだが、今度は一体誰が……。
ピンポーン♪
あっまた鳴った。しょうがない、出てみるとするか……。はいはい今出ますよ。
ガチャッ
そこには昨日コンビニで会った少女が笑顔で立っていた。えっと確か名前は……。ダメだ思い出せない……でもそんなに親しくもなかったはず……。
もしかして、昨日のお礼とかか?そんなわけないか……。とにかく話を振ってみるしかなさそうだな。
ーえっと君がここに来た理由を教えてくれると助かるかな……。
彼女は首を傾げて不思議そうな顔をしている。まさかとは思うが本当に昨日のお礼とかだったりしないよな……そんなわけないか。俺の思い違いだろう。うんきっとそうだ……。すると、彼女は突然とんでもない事を口走ったのだ!
ーいえいえ、昨日のお兄さんはお風邪ひかれたということでしたので、もしかしたらプリンを召し上がってお体が良くなったのかと思いまして様子を見に来ちゃいました!もしかしなくてももう体調良くなりました? それともまだ熱があったりするんですか?心配です!お邪魔しますね!!
ちょっちょっと待ってくれ!! そう言って彼女がいきなり俺の家に上がり込もうとしてきたので慌てて止めることにした。だってまずいだろ!?こんなところを誰かに見られたら絶対誤解されるって!!
ーあ、ああ大丈夫だよ……。風邪は引いてないから心配しなくていいから!!
それを聞いた彼女の顔は少し残念そうに見えた。やっぱり勘違いしていたのか……。でも、ここで諦めてはもらえそうにないな……。どうしようか……。
仕方ない!あまり使いたくはなかったがアレを使うしかないようだな……。
ーところで話は変わるんだけど……。
ーはい、何ですか?
彼女は相変わらずニコニコしながら返事をした。その様子だとやはりさっきの会話も覚えていないのだろう……。
ー実はプリンを買いすぎてしまったんだけど……食べる?
彼女は驚いたように目を輝かせていた。予想通りの反応だな……。
ーいいんですか?わーいやったー!!プリン大好きです〜♪お腹すいてるんですぐに食べさせてもらいますね〜♪ ーああ、いいよ。じゃあさっそく部屋に上がらせてもらうね……。お邪魔します……。
そして俺達は俺の部屋に向かった。部屋の中に入ると彼女は早速プリンを取り出し、いただきますと言って美味しそうに頬張り始めた。その様子を見ていた俺は思わず感心してしまった。彼女は俺より小さい体のどこにあれだけの量のプリンが入るのかと思うくらいにバクバクと食べ進めている。すごいな……。そしてあっという間に全て平らげたあと、幸せそうにお腹をさすっていた。その姿を眺めているとなんだか微笑ましく思えてきてしまうな……。それを見た俺は彼女に質問してみた。
ーどうかな?少しはお口に合ったかい?
ーはい、とても甘くて美味しかったです!ごちそうさまでした。
ーそれは良かったよ。喜んでくれたなら何よりさ。それにしても随分よく食べたね。それだけ食欲があるなら安心して帰れるよ。わざわざありがとうな。それじゃあそろそろ俺は行くとするよ。君はどうする?家まで送ろうか?
彼女は少し考え込むような仕草をして答えた。
ーはい、お願いします……。今日は色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした……。反省しています。
ーははっ、気にしてないし全然構わないよ。それよりも元気になったようで何よりだよ。
ーはい、そうですね……あの、それともう一つ聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか? ーうん、何でも聞いてくれていいよ。
ーあの、昨日のことなんですけど……あのコンビニの店員の方に変なこと言ってしまったりしませんでしたよね……?私……何か失礼なことをしてしまっていたら嫌だなって思ってしまって……。
なるほどそういう事だったのか……。まぁ普通そう考えるよな……。
ーああ、特に何もなかったよ。でも一つだけあったかな……。
ーえっ……?なんでしょう……? ーそれはね……。
それは……?彼女は緊張の面持ちでこちらを見ている。さて、なんて伝えようかな……。とりあえず事実を伝えるとするか……。
ーそれは……君が突然泣き出してしまったことかな。
彼女は呆然とした表情でこちらを見ている。そしてしばらくすると顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いていた。
ーうぅ……それは忘れてください。もう本当に最悪ですよね……。でも本当に嬉しくってつい泣いちゃったんですよ……。本当にそれだけなんです……。信じてもらえないかもしれませんが……。
まぁいきなりあんな風に泣かれたらびっくりするよな……。ただなんとなくだが嘘をついているとは思えなかった。でも、この子もなかなか苦労してきてるんだろうな……きっと。そして彼女の様子を伺いながらゆっくりと言葉を続けた。
ーわかったよ……。君の言うことは信じることにするよ。
すると、彼女の顔には笑顔が戻っていった。そして、俺も自然と笑顔になっていた。
ーはい!ありがとうございます!えへへ……よかった。
ーそんなことよりもさ、もっと他に心配することがあるんじゃないかな?
ーえっと……何がですか?
彼女のきょとんとした顔が可愛くて少し笑いそうになったがなんとか堪えて話を続けてみる。
ーははっ、やっぱり気づいてなかったみたいだね。その格好は目立つよ……。せめてパーカーとかに着替えてきた方がいいと思うな。その服のままだと学校とかにも行きづらいだろうしさ。
ーえ……えええぇっ!?
彼女は自分の姿を確認しながら慌てふためいている様子だった。まあ無理もないよな……。
ーど、どうしてこんなことに気付かなかったんでしょう……。私もまだまだダメですね……。ではお洋服屋さんに行ってきます!
彼女は急いで部屋を出て行こうとする。それを慌てて呼び止めた。
ーああ、ちょっと待ってくれ!彼女は振り返って不思議そうな顔をしている。
俺はポケットからあるものを取り出し、彼女に渡した。
ーこれは俺の連絡先だよ。またいつでもここに来てくれ
それを聞いた途端に彼女の顔はパッと明るくなり、すごく嬉しそうにしていた。
ーはいっ!!
こうして、俺と不思議な少女の奇妙な関係が始まったのであった。
それから1週間くらい経っただろうか。
その間、彼女とは何度も会って一緒に過ごしていた。最初は遠慮気味なところもあったけれど、今ではすっかり慣れてくれたのか普通に接してくれるようになっていた。
でも、やっぱりまだわからないことも多いしな……。よし、思い切って聞いてみることにした。
ーなぁ、前から聞こうと思ってたんだけどさ……。君はどこから来たんだ?その……出身というか……住んでいた場所について知りたいんだよ……。教えてくれないかな?頼む……。
彼女は申し訳なさそうに目を伏せていた。
ーごめんなさい……。それは言えません……。言えないんです……。ごめんなさい……。
そして、悲しげな様子で俺のことを見つめていた。やっぱり駄目か……。
少しショックだったが、仕方ないことだと思った。それに、いつか話してくれるかもしれない……。それまで待つとしよう……。俺は気持ちを切り換えて話題を変えることにした。
ーそっか……。じゃあさ……君はこれからどうするつもりなんだ?もし住むところが決まっていないならうちに居てもいいぞ。狭いところで悪いけどさ……。どうだ?悪くはないと思うけど……。どうかな?
彼女は黙り込んだまましばらく考え込んでいる様子だった。
そして、しばらくして彼女はゆっくりと答えた。
ーはい……。じゃあお言葉に甘えて……よろしくお願いします。でも……。
彼女は少し困ったような表情を浮かべて俺のことを見た。
ーでも……?どうかしたのか?
俺は首を傾げて彼女の次の言葉を待っていた。すると彼女は何かを決意したかのように真っ直ぐな瞳で答えた。
ーあの……私はあなたと一緒に暮らしていきたいと考えています。どうか私の家族になってくれませんか?
彼女は真剣な眼差しでこちらを見ている。その表情は少し不安そうだが、同時に期待に満ち溢れたようなものでもあった。そんな彼女を見て思わず笑ってしまった。
ーははっ、もちろんだよ。君がそうしたいと言ってくれるんであれば大歓迎だよ。むしろ、こちらこそよろしくな。
ーあ、ありがとうございます……ぐすっ……。私……ずっとひとりぼっちで心細かったんです……。もう二度と独りには戻りたくないって思ってたんです……。本当に良かった……。嬉しい……。本当に……ありがとう……。
そう言い終えると、彼女の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていった。そして、静かに泣いていた。そんな彼女を抱きしめて頭を撫でてあげた。彼女はしばらくの間、嗚咽を漏らしながら泣いていたが、次第に落ち着いてきたようだ。そして、落ち着いたあとの彼女の第一声がこれだった。
ー私、今すごく幸せです……。本当に夢みたい……。
彼女の笑顔はとても綺麗だった。そして、俺も自然と笑顔になっていた。
ーああ、これからは二人だ。
ーうん……えへへ……二人だね……。私、すごく楽しみにしてる。あなたがこの世界に生まれて来てくれてありがとう。これからはずーっと一緒だからね……。
彼女は優しい笑顔でそう言った。俺は照れくさくなり視線を逸らして、誤魔化すように口を開いた。
ーあぁ……こちらこそよろしくな。
俺は自分の頬が熱くなっているのを感じた。おそらく真っ赤になっているだろうな……。すると、彼女はクスッと笑い、悪戯っぽい表情を見せた。
ーねぇ、顔真っ赤だよ。かわいい……ふふっ……。
彼女の一言を聞いて余計に恥ずかしくなってしまい、必死に取り繕おうとした。でも、それももう手遅れだろう。きっと顔に出てしまっているはずだ。それでも構わない……。彼女が楽しそうにしているからな。
ーははっ……そうかもな。こんなに真っ赤になった顔を見せるのは初めてだよ。でも、きっと君のせいだよ? ーえへへ……私のせいなの?それは光栄だね……。あなたの初めての顔を見られてすごく幸せな気分だよ。
そう言って、二人は笑い合っていた。ーあっ、そろそろ帰らないと。それでは、また明日ね!バイバーイ!
彼女は元気に手を振りながら走って行った。その背中が見えなくなるまで見送ってから部屋に戻った。
ーあぁ……気をつけて帰れよ。また明日……な。
……ん?なんか変だな……。
俺は違和感を感じて振り返ったがそこには誰もいなかった。気のせいか……。
ー今日も楽しかったね!
彼女は俺の隣に座って、ニコニコと嬉しそうな顔をしている。彼女はすっかり俺の家に馴染んでいて、いつもこうして俺の側にいるようになった。最初は遠慮気味だったのに、今ではすっかり自然体になっていて、それがなんだかとても心地よかった。俺も彼女がいる生活に慣れてきたのか、一人で暮らしていた頃よりも楽しく過ごせている気がする。
ーあぁ……そうだな。毎日、楽しいよ。
ーふふっ、私もだよ。こうして二人でいられるなんてすごく幸せ!ずっとこのまま一緒に居たいな……。ねえ、どこか行きたいとことかないの? そう言われてもな……。思い付かないし、考えたこともなかった。そもそも、出かけるのは苦手だし……。でも、たまにはこうしてゆっくり過ごすのもいいかもしれないな……。
ーまぁ……今のところはないかな。君と一緒にいられれば満足だよ。
彼女は意外そうな表情をしていた。
ーへぇ……そうなのか……。ふーん……そうなんだ……えへへ……。私はね、いっぱいあるんだよ?海とか山に行きたいし、遊園地や水族館にも行ってみたいな。それで、お揃いのお土産を買って、帰り道に公園でベンチに座って食べるんだ……。あぁ〜早く行きたいな……。
そう語る彼女はとても楽しそうで、見ているこっちまでワクワクしてくるほどだった。その気持ちは俺も同じで、想像しただけで胸が高鳴った。それから、俺たちは色んなことを話し合った。今までできなかったことを全部やり尽くそうという勢いだった。そして、しばらく経って彼女はゆっくりと立ち上がった。
ーさて……私も行ってくるとするかな……。ちょっと留守にするけど心配しないで待っててね。すぐに戻るからさ……。じゃあいってきます……。
そう言うと彼女は目の前で消えてしまった。えっ!?どこにいったんだ?もしかして……幻覚だったのか……? そんなことを考えていたらドアが開く音が聞こえた。慌てて玄関へ向かうと、彼女が立っていた。あれ?さっき出ていったばかりなのに……どうしたんだろう?すると、彼女は申し訳なさそうにしていた。
ーあの……その……。やっぱり私、あなたと一緒に居られないみたい……。ごめんなさい……。本当に……本当にごめんなさい……。
突然の出来事に頭がついていかなかった。どういうことだ?何を言っているのかよくわからない。
ーえっ?どうして急に……。それに……意味がよく分からない……。説明してくれないか?
彼女は悲しげな表情を浮かべた。
ーうん……。あなたにはずっと黙っていたことがあるの……。私はあなたと違う世界から来た人間なの……。信じられないと思うけど、本当なの……。私……もう戻らないと……。本当にごめんなさい……。あなたに隠し事をしたままでいるのが辛くて……。だから、ちゃんと話しておきたかったの……。本当に……本当に……うぅっ……。
彼女は泣き崩れてしまい、言葉を発することができなかった。ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。そんな彼女を見て、なんとか慰めようと必死に声をかけたが、何も答えてはくれなかった。そして、そのまま彼女の姿は見えなくなってしまった。
それから、どれだけ時間が経っただろうか。俺はベッドの上で仰向けになって天井を見つめ続けていた。
ーははは……。なんでだろうな……。涙が止まらないよ……。
俺の目からは涙が溢れ続け、止まる気配がなかった。もう彼女と会えないということが受け入れられなくて、どうにかしてもう一度会いたいと願った。でも、いくら祈っても無駄だった。結局、彼女が戻ってくることはなかった。そして、俺は独りになってしまった。
ーああ……そうか……。これが孤独っていうものなんだな……。やっとわかったよ……。でも……もう少しだけこのままでいたいな……。
そうして、俺はいつまでも彼女の帰りを待ち続けた。
ある日。
俺はTVを観ながらプリンを食べている。ドアの音。彼女だ。
彼女は多分笑顔で俺の側に駆け寄ってきた。
そして俺を背後から抱きしめて、こう言う。
ーさあ、また始めましょう。
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