腐った貴族の暗殺をこなす暗殺者の仕事はまったくもって楽じゃない

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 僕の名前はヨルン。


 表の身分としては騎士で、働いている。


 だけど、裏の顔を持っていた。


 国が必要だと判断したときに使うその顔は、暗殺者だ。


 国の敵になるような人間を、表の人間には分からないように、秘密裏に始末している。


 笑える事に、くずが多くのさぼっているこの国では、暗殺対象となるような人間がごろごろしている。


 だから、こなした仕事は百を超えるくらい。


 並大抵の仕事では手こずる事はないと思っていたけど……。


 さすがにその任務の時時は不安になった。


「貴様に次の任務を言い渡す。すみやかにこの対象者を処分するように」

「はい」







 上司から渡された資料を、秘密の部屋で読み込む。


 そこは王宮の地下。


 普通の人間は足を踏み入れない場所だ。


「欲深でがめつそうな顔してるな。なんか太って脂ぎってる。なんで暗殺されるような人間は、どいつここいつも似たりよったりな顔してるんだか」


 過去の事を思い出しながらぐちぐち。


 資料を読み込みながら、独り言をつぶやいていると他のメンバーが続々と集まってきた。


 そのうちの一人、眼鏡をかけた利発そうな顔の女性が話しかけてくる。


「みな同じように人から搾取して、怠惰に過ごすているからでしょうね。ひきこもりの貴族なら、そうもなります」

「引きこもりなのか」

「ええ、そうです」


 ターゲットについて独自に調べたらしいその女性、イリンダが話を続ける。


「自分で動かないくせに、人を動かすのはうまいんですよ。こういう輩は」


 できる副隊長だ。


 ちなみにこの暗殺部隊の隊長は僕である。







 気が利く事にのどをうるおすために紅茶をいれたカップを、イリンダがもってきた。


「巨大な地下の施設に身を潜めているそうです。あまりにも敵をつくりすぎたために、でしょうね」

「どうしてこの手の連中は自分の命をはる覚悟がないのに、敵を作るほどやりたい放題するんだ」


 僕はため息を吐く。


 王宮で暗殺者として仕事を始めて数年。


 暗殺ターゲットになるようなやつは、みんな似たり寄ったりな連中ばかりだな。


 なかには良い奴だけど、やむおえずってターゲットもいるけど。9割がたは小悪党だった。


「先を見通す能力がないからそうなのでしょう。しかし無駄に悪知恵が回るからやっかいです」

「そして財力と権力もあるから面倒、か」


 盛大にため息をつく。


 暗殺を警戒して地下に、何十日も引きこもってるやつを始末するのはかなり難しい。


 ちょっとでも異変を感じると、ゴキ〇リ見つけたみたいな殺意で攻撃してくるからな。


 いや、そんな事いったらイリンダ達が可哀想か。


 この隊にいる者達は、やむおえず入隊したって人間もいる事だし。


 僕みたいに暗殺も必要、みたいに割り切ってる奴ばかりじゃないんだから。


「とありあえず、見取り図をみながら作戦立てていくか」








 それから約一週間。


 何パターンもの作戦を練った僕達は、暗殺任務の実行に移っていた。


 とりあえず思いついた案を並べておく。


 案その一 排気ダクトから侵入する

 案その二 変装して近づく

 案その三 施設に問題をおこしてあぶり出す

 案その四 施設ごと爆散させる

 案その五 親しい人間を人質にとる


 他にも細かい案はあるけど、ざっとこんな所だ。


 しかしどれにも問題はあるんだよな。


 一は排気ダクトにトラップがしかけられていて、異物の侵入を感知したら焼却装置になる仕組みらしい。

 二はそのそも人間がターゲットに近づけないからなし。地下に届ける物資などは特殊な装置によって運ばれるから、人間は誰も行けない。

 三は手間がかかる。ターゲットが隠れている施設に仕掛けをしている間に、気取られてしまう。

 四は確実だが、生死不明になってしまうから、本当に暗殺したか確かめられない。

 五はそもそもそんな人間いねぇ。人望ねぇな。


 あと、ターゲットが禁止されている呪術を使うって情報もあるからできるだけ、顔をあわせて命のとりあいをしたくない。


 呪術はやばいんだ。


 一の手間で百の効果を発する魔法みたいなものだから。


 魔法と違うのは、魔力を使う点じゃなくて生贄をもちいる所だな。






 だからもろもろを考慮した結果、当初練った計画にない案その六で行くことにした。


 やつの手足となっている人間を全員買収する。遠くの国の神話であった、アマノイワトとかいう作戦で行く。


 欲が深いだけの貴族に金で雇われた奴等は、忠誠心がない。


 だから、ターゲットより高い金をちらつかせれば、こちらの味方に付くというわけだ。


「資金はちゃんともらえるよな?」

「この間のような事にはならないかと」

「そうでありたいもんだ」


 イリンダと二人で遠い目になるのは、ちょっと前に会った事。


 貴族連中が無駄に浪費したせいで、こっちに一時的にだが金がまわらなくなったのだ。


 あの時は苦労した。






 そういうわけで案その六を実行。


 せっせと欲深貴族の手足を買収。


「金があるなら、あんな奴の言いなりになり必要はねぇ」

「これで、自由だ!」


 これが連中の反応だ。


 ほんと人望ねぇな。


 そうして、奴の生活を助ける人間はいなくなった。


 地下に隠れ住むターゲットに、生活用品や食料を届ける人間はいない。


 そうすると、我慢比べになるわけだ。


 実際どんな顔してどんな事をぐちってるのかは知らないけど。


 どうせ「ぐぬぬぬ、なぜ誰も品物を運び込まんのだっ!」とか言ってんだろ。


 やがて、引きこもった貴族は、事の真相を確かめたくてたまらなくなる。


 しかし出て言ったら、暗殺されるかもしれない。


 と、ジレンマに悩まされるというわけだ。


 そのまま中で干からびてくれても良し、でてきて餌食になっても良しだ。


 時間はかかるし、姿が見えないから不安になるが。







「隊長そろそろ一か月です」

「運び込んだ物資が尽きる頃だな。普通なら死んでるはずだけど。そろそろ確かめに行くか」






 人気のなくなった施設の中へ入っていく。トラップは買収したもの達によって解除されていた。


 すんなり進んで地下へと向かうと、ターゲットが倒れていた。


 しかし運が良かったようだ。


 かろうじて生きてはいたようだ。


 しかし息をするのもやっとというありさまだ。


 これでは何かしたくとも何もできまい。


「き……きさ……うぐぐ」


 ターゲットが何か言いかけていたがそれをのんびり待ってやる僕達じゃない。


 呪術を使うという情報があるし、罵詈雑言なんて聞いてもなんの益もない。


「この世にさよならだ。恨むなら自分の生き方を恨め」


 僕はそいつののどにナイフをつきたてた。







 暗殺者の仕事は表には出ない。


 だから人々から感謝される事はない。


 けれど別にそれでかまわない。


 僕はそこらに歩いている大勢の人達から感謝されたくてやってるわけではないのだから。


「お疲れ様、ヨルン。いま仕事から帰ってきたところなの?」

「ええ、そうですよ、王女様」

「疲れてるならすぐに休んだら?」

「平気です。今日やった事だって、いつもやってる事でしたし」


 心優しいこの国の王女が少しでも生きやすくなるように、働いているだけだから。


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