『Ferris wheel』
灰汁須玉響 健午
第1話
プロローグ
二十一世紀も気付けば半分が過ぎた。
なんていう雑誌の特集を、何の気なしに流し読んでいた。
2050年が過ぎたからと言って、一般人である僕達は、さほど意味があるとは思えない。
いや、きっと今が何世紀で、西暦何年かなどというものに本当の意味を感じるのは、僕達ではなく、遠い未来の人達ではなかろうか。
天気予報でも見られればと思い、ネットで情報を確認すると、れっきとした政府の医療機関が『あなたの予定寿命を調べてみませんか』なんて、ちょっとブラックなことを穏やかな顔で言っている広告が流れてくる。予定寿命とは、病気、事故などが無かった場合、しかも標準的な健康生活を心がけていた場合で算出されるいわば老衰で死ぬまでの寿命のことだ。
最近の医療技術では人の死も計算できるらしい。技術の発達とはすごいものだ。
確かに二年前に実用化された、もしものときは電気ショックで蘇生を試みる、超小型の生命維持装置はかなり重宝されているらしいが。
いや、確かに技術の発達は素晴らしい。
最近は本人の細胞から作られる『複製臓器』なんてものもあって、場所にもよるが、数ヶ月から一年ほどで、体の複製が作成できる。
何らかの原因で手足を失った人、臓器移植でしか治らない病気や怪我も、それを使えば元通りに近い状態にまで戻せる。
もちろん、万能とは言えないが、義手や義足をならす訓練や臓器ドナーを何年も待ち続けるより、遥かに画期的で希望的な医療技術だ。
だけど――。
人類はまだ、死を克服できていない。
がん細胞を死滅させる治療法は出来ていないし、アルツハイマーの進行を食い止めることはできないし、不治の病は山ほどあり、何しろ風邪の特効薬も出来てはいない。
そして、当然、死んだ人間を生き返らせることはできない。
当たり前だ。
人間は神じゃないし、もしかすると神だって死んだ人間を生き返らせることなど出来ないかもしれないのだ。
とそれは置いておいて。
今月もあとちょっとで終わり。夏休みも終わってしまう。
別に愚痴や不満を言うわけではないが、もう少し真帆とイチャつきたかったような気もするな。まぁ、こればかりはどうしようもないことだけど。そうそう悪いことばかりでもなかったし。
ああ、真帆というのはこの春から出来た僕の恋人だ。それはもう小柄でふわふわした雰囲気で、顔もまた可愛くて……って、それも置いておこう。
僕はこれから病院に行かなくてはいけない。別に僕はどこも悪くは無いがね。いや、頭はちょっと悪いかな。
体調的にはいたって健康な僕だが、ここのところ病院通いをしている。そう、病院には逢いたい人がいるからだ。
僕の家からだと多少歩くけれど、それも慣れたし、苦にならない。
デートしにいくと思えば、お金もかからないし、時間もかからない。変にうるさくなくて良いし、絶好の場所だ。消毒くさいのを我慢すれば。
僕は適当に半そでのパーカーを羽織ると、スマートフォンと財布と鍵だけもって家を出た。スマートフォンは切っておこう。
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