第6話 居酒屋「粋」
その日は怒りが収まらず、居酒屋で酒を飲んでいたが、ふと川口のことを
調べようと高校時代の友達に電話をしようと思い、頭の中で友達を探しましたが
「いない」「誰もいない」「本当にいない」今日の怒りが何とも言えない絶望感に代わっていくのを心の中で感じていた。
昭は勉強に没頭して友達がいなかったこともあるが、元々人付き合いは苦手だった
それは話べたというより話すのが怖かった
今まで小さい時は酒乱の親父がいて怖くて話が出来なかった。
話をしようものなら、頭から怒鳴られた。それでもいつもやさしく
かばってくれた母親、母親が自分の中での全て、一番に母親、そんな子供の頃を
客観的に自分の姿を見たような気がした。
人と話すのが怖くなっていた自分、唯一話が出来た母親。
そんな母親がいなくなり、自分は糸の切れた凧みたいに風に流されてどうでもいい
警備会社で働いている。それは私をいつもかばってくれている上司稲葉さんがいたから気づかなかったのだと・・・・・
落ちこぼれは自分だったのだと・・・悲しいことに、悔しいことに、あの川口が
俺の傷口を、俺の知らない傷口が痛いことを教えてくれた。
それと同時に親父への憎しみとなって津波のように自分の心に何回も、何回も押し寄せてきていた。
周りはカップル、家族ずれ、会社の仲間たちでワイワイ騒いでるのが凄く腹正しく思え、その矛先は自分が頼んだビールの遅いことに向かい、思わず
「ビールまだか!!いつまで待たせんだよ」大声で怒鳴り散らしてしまい
ホールスタッフのアルバイトが慌てて「すいません」と言いながら
自分の目の前にビールを持って来て「大変申し訳ありませんでした」と低姿勢で
謝ってきました。
周りは一瞬静かになり、そのプレッシャーで「ごめんなさい、つい大声あげちゃって」と店員の顔を見て謝ろうと思って顔を上げると、そこにはなぜか今まで感じることのない親近感がある
かわいい女性の顔があった
一瞬目が合いましたが、店員は通常の接客で「本当に申し訳ありませんでした」と
丁重に謝罪をして調理場の方に下がって行きました。
ビールに口をつけるのもなんとなく視線を感じそのままレジに向かった。
レジに偶然にも先ほどの女の子が恐縮した感じでレジ打っていました。
名札を見ると「土井美和子」出身地「名古屋」と書いてありました。
先ほどの失礼なことを素直に謝ることも出来ず、「名古屋から来ているのに
こんな所で嫌な思いさせてごめんなさいね、仙台の人は本当はいい人なんですよ」
後から考えると何も意味が無い言葉だったが、その時はそれが精一杯の謝罪の言葉だった。
店を出るともう冬の訪れを感じさせる寒さが、自分と一体となって
どうしようもない冷たさが体中を駆け巡りました。
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