12/31 尾八原ジュージ『みんなこわい話が大すき』


 小学四年生の少女・ひかりは、転校先のクラスのリーダー格の少女・ありさに目をつけられて、いじめられてしまう。しかし、かつてひかりが押し入れで出会ったこわくないおばけのナイナイをありさに見せた日から、全てが一変する。一方、「よみご」という盲目の霊能力者・志朗の元に、とある母子の心中事件を調べてほしいという依頼が持ち込まれる。

 カクヨムコン8のホラー部門大賞を採った長編小説の書籍化。私は尾八原さんとカクヨム上で交流があるので、その縁で戴いた本を年末に読んでいった。


 ここが最後の自慢の場にしたいので許してほしいのだが、 『みんなこわい話が大すき』の霊能力者・よみごさんの誕生に、私が少し関わっている。二〇二一年に私が主催した自主企画「同題異話・十一月号 きょうを読むひと」の尾八原さんの参加作品が初登場だったからだ。

 そのよみごさんが登場する「きょうを読むひと」へ応援コメントの返信に、この一編がきっかけに始まった『みんなこわい話が大すき』のウェブ連載の話を教えて貰っていたのだが、当時の私は他の同題異話を読むのに手いっぱいで、中々読みに行く機会を得られなかった。そうこうしている間に、『みんなこわい話が大すき』が大賞を取り、書籍化する運びとなった。販売されたら買おうと思っていたのだが、まさか尾八原さん本人から本を送られることになり、誠にありがたい限りであった。


 さて、『みんなこわい話が大すき』についてだが、さらっと簡単な言葉で書かれていながら、描写が抜群にうまい。恐ろしい情景も複雑な心情も、過不足なくきちっと描かれていて、しっかり伝わる。また、章で語り手が変わったり、三人称視点になったりと変化が激しいストーリーだが、誰がどこまで把握しているのかはっきりしているので、ミステリーとしてもレベルが高い。

 ここが、短編をたくさん書いている尾八原さんの才能の見せ所だろう。短編のような書き方を積み重ねることで、点描のように長編を綴る。芥川やヘミングウェイなど、短編が得意な文豪は長編が苦手だったのだが、こういう書き方があるんですよと、時空を越えて伝えたくなった。

 

 先程もちらりと触れたのだが、『みんなこわい話が大すき』本編は、大きく分けると、いじめられっ子だったひかりを中心とした子供たちの物語と、よみごのシロさんたち大人の物語とが、並行して語られる。この全く関わりのない二視点が、一つの共通点に集約していったときに、とてもぞくりとした。

 個人的に、一番恐ろしかった章は、「図書委員の森宮さん」だった。普通の女の子の日常が、本人も気付かぬうちに怪異に侵食されていく様子が細かく描かれている。また、怪異が何を元にして人を操っているのが判明するのだが、それがまた恐ろしい。こんなの、誰も逃げられじゃないかと、絶望感が大きかった。


 ひかりの周囲で蠢く怪異、その背景がページを進むごとに判明していくと、恐ろしいさと同時にやるせなさを抱いてしまう。この怪異にも黒幕に当たる人物はいるのだが、その人に対して、自業自得とか因果応報などとは思えず、どこでどう間違えてしまったのだろうと考えてしまうほどだった。

 みんなみんな、幸せになりたかっただけだったのになと、思わずにはいられなかった。ただ、そのためには何でもできてしまう、という人間の底なしの欲の怖さも感じられる。読後は胸の中に苦いものが残るが、それらも包括して、前に進もうとする「物語」の力強さを感じられるラストだった。





















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