第7話 小生意気少女
いとがどんな人となりなのか。それはゲームセンターに連れられ、自由に振り回されて大体わかった。
それに比べ、未だわからないのはさとだ。朝食のときになぜか感謝されたわけは、あれから日にちが経った今でもさっぱり見当がつかない。さとはいとのような、自分のことをひけらかすような人ではないので仲良くなるには一苦労しそうだ。
今日は休日。お父さんとお母さんは仕事。いとは友達と遊びに行ったらしく、朝からいない。今日はさとと仲良くなるまたとないチャンスの日だ。
さとに接触を図ろうと、俺はそんな謎多き少女に朝食のお礼として、昼食を作ろうと思ってたのだが。
『今週いっぱいは比較的過ごしやすい日が続きますが、来週からは夏本番となるでしょう』
さとはリビングのソファの上で横になって、テレビで天気予報を見ていた。いや天気予報をたれ流し、ゴロゴロしながらスマホをいじっていた。
まだ2階から降りてきた俺に気づいてないっぽい。
もしかして俺、見ちゃいけないもの見ちゃったのかな?
「あ」
やばい。目が合った。
「……なんですか」
さとは一切姿勢を変えないまま、不機嫌な顔を向けてきた。
「別、に。これから昼食を作ろうかなって思ってたんたけど、さとって嫌い食べ物とかあるのかなぁ〜って」
「ないですけど」
「あっ、そ、そうなんだ。それはいいことだね」
「ふん」
無愛想な返答に俺は苦笑いしかできなかった。
そのせいもあって、さとは別のことを考えていたと察したのか、俺のことを避けるように顔を見えない位置に移動し、数段階テレビの音量を上げた。
この前の階段でのことのように、大事なところで顔色が一切うかがえないのが歯がゆい。
なにはともあれ、俺はさとにお礼として昼食を作りにきたのだ。
嫌いな食べ物がないとわかれば、俺が手料理で一番自信がある料理を作ろう。
「よし」
こうして俺はゴロゴロしているさとを横目に、一番自信があるチャーハンを作った。
「まさか私の分も作ってくれてたなんて思わなかったです」
対面に座るのはボサボサな髪の毛さと。
チャーハンを目の前にして一番最初に放った言葉は、さとが思っている俺の性格だった。
「この前、俺の朝食作ってくれたって言ってたでしょ? 今回のこれはそのお礼だよ。……一人でチャーハンを作ってそれを食べるなんて、そんな非情なこと俺しないからね」
「でもお礼じゃなかったら作らなかったんじゃないですか?」
「きっかけがお礼だっただけで、もし何もなくてもせっかくの休日家で二人っきりなんだし、同じもの作ってると思う。まぁこうやって普通に喋ることができてたらの話だけど」
「……そうですか。なら良かったです」
良かったですって、どういうことなんだ?
いとは単純だからなんとなく思ってること予想できるかもしれないけど、さとは予想なんてできる気がしない。
「じゃあお言葉に甘えていただきます」
「どうぞどうぞ」
さとはレンゲからこぼれ落ちるほど大量にチャーハンをすくい、口いっぱいに頬張った。
「ん〜」
今まで俺の料理はお父さんしか食べてるところを見たことなかった。なので正直、口に合うのか不安だったが、さとはもぐもぐと美味しそうで幸せそうに食べてくれてる。
さとの食べている姿に釘付けになっていた俺だったが、またさっきみたいに不機嫌になったら嫌なのでチャーハンを搔き込んだ。
「ふぅ。ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
「そっか。ならよかった」
「これ本当にあなたが作ったんですか?」
「その質問がなければ完璧だったんだけどな……」
「? もしかして出前?」
さとは純粋な目で顔色をうかがってきた。
「なわけないじゃん。さっき料理をしてる音聞こえてたでしょ?」
「そうでした。変に疑ってごめんなさい。本当に美味しかったんです」
「ありがとう」
純粋に料理を美味しいって言われると、こんなにも嬉しものなのか。今度いとにも俺のチャーハン食べてもらおうかな。
いとはどんな反応をするのかと心を弾ませていると、さとが空になった皿を片付け始めた。
「いいよいいよ。俺が全部まとめて洗っとくよ」
「そんなことできません。美味しい昼食を御馳走もらったお礼、させてください」
俺は心を鷲掴みにされるようなことを言ってくるさとを前に、否定的なことなど言えず、最終的に一緒に片付けをすることになった。
「では」
片付けをし終えたさと自室に戻った。
俺も自室に戻ったのでその後これといってなにもなかったが、昼食を通して確実にさととの距離が近づいたと思う。仲が良い家族になるのはまだもう少しかかりそうだが、ここまでかなり順調だ。
俺は数日前までの二人との関係を振り返って、さっき見たさとの幸せそうな顔を思い出してニマニマしていた。絶対今の俺の顔、気持ち悪いだろうな。
このときは完全に浮かれていた。
なのでまさか数分後、さとが俺の腕の中に収まるようなことになるなんて想像してなかった。
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