第2話 合コン
俺は少し前。
二人と仲良くなりたいためになにが大切なのかと考えた末、女心が大切なのだと思った。
普段手に取ることもない女性雑誌を買い漁り、普段することのない念入りなスキンケアをし、普段考えることが少ない女性の気持ちを理解しようとした。
結果は今も二人に嫌われているので、失敗に終わっている。
なんでそんな過去の失敗談を突然説明したかというと……その雑誌の中に、『男はアニメ声でイチコロ!』という見出しのものがあったからだ。
話の内容から察するに、雑誌を適当にリビングのテーブルにおいてたからそれを見たのか?
「おーいおーい」
「ごめん、なさい。ちょっと考え事をしてて」
「へぇーあなた、また人が喋りかけてるのに考え事ですか」
「さとちゃん。そんなチクチクしちゃだめでしょ?」
「ごめんなさい」
あのさとが素直に謝るなんて……。
俺は夢でも見てるのだろうか?
「あれ? 何の話してたんだっけ?」
また話が脱線して無限ループにはいるんだと思ったのは俺だけじゃなかったらしく、さともいとの問いかけに知らんぷりをして、オレンジジュースをちびちび飲み始めた。
というより、さとはいとに叱られてちょっと拗ねてる。
「まーいっか。それより君って名前なんて言うの?」
「ま……
「勝くんか。勝くんって同じ大学?」
「あ、はい。1年生です」
「ほぉ〜。私はさと。2年生だからお姉さんとして敬ってくれてもいいんだよ?」
さとはえっへんと小さく口ずさみ、胸を張った。
大きな2つのメロンの主張が激しくなり、この合コンにいる他3人の視線を一気に集めることに。
お姉さんと自称しながら、無邪気な子供っぽい顔のさと。少し頬が赤く染まっている。
こりゃ多分、まだ飲み始めたばかりだというのに酔いが回り始めたっぽいな。
「ん? ど〜したのかな? お姉さんの魅力に耐えられなくなっちゃったのかな?」
「や。そういうわけじゃな」
「お姉ちゃんの魅力がわからないんですか?」
笑顔だが、目がキマってて狂気を感じるさとの笑顔。
家で見る顔より怖いんですけど。
お姉ちゃん子なのは知ってたけど、まさかこれほどとは。
「いやいやいや。妹さん。俺はそんなこと一切思ってないですよ」
「あっそーですかッ」
ちゃんと訂正したのになんでそんな怒ってるんだ?
やっぱり俺には女心というものがわかる気がしない。
「もぉ〜二人とも喧嘩しゃめっ! でしょ?」
「お、お姉ちゃん。ごめんなさい。あの男がお姉ちゃんのことバカにしてて……」
「してないけど!?」
「ちょっと。どっちが本当のこと言ってるの?」
「私に決まってます!」
「んへぇ〜?」
完全に酔いが回ってる人に、どっちが本当のことを言ってるのか判断するなんて不可能。
だからさとは必死にアピールしてるのか。
「よ〜しわかった! 私わっちゃったぁ〜」
「お姉ちゃん……」
「じゃんけんで勝ったほうが本当のこと言ったってことにする!」
「……お姉ちゃん」
『酔ってるから姉妹とか意味ないんだ……』とでも言いたげな、さとの落胆した顔。
そんな可哀想なさとに申し訳ないがこの勝負、勝とうと思えば絶対勝てる。
なんたって俺は、じゃんけんで目に見えない速さで後出しできるから。
俺はここに男嫌いだったはずの二人がなんでそうじゃなくなったのか知りたくて来た。
このじゃんけんに勝てば、その理由に一歩近づけるかもしれない。
「じゃあ二人とも見合って見合ってぇ〜」
でもここで俺が勝つと、お姉ちゃんっ子のさとがあまりにも不憫だ。
変に暴走されたら困る。
「じゃぁ〜んけぇ〜ん……」
家族であるさとが悲しむところを見たくない。
なぜ男嫌いじゃなくなったのか、その理由をそんなに急ぐまでもないか。
「ぽいっ!」
さとはグー。
俺はチョキ。
「いとちゃんの勝ちぃ〜」
「え。か、勝った」
「まじか。負けちゃった~」
なぜか呆然と自分の握りこぶしを見つめるさと。
これ、もしかしてさとも俺と同じようなこと考えてたのか?
「というわけで本当のことを言ったのはさとちゃん! 勝くん……私のこと、バカにするようなこと言ったんだね」
「お姉ちゃん!」
「のんのん。さとちゃんは勝者なんだからそんな今にも泣きそうな顔、しちゃいけないよ」
「お、お姉ちゃん……。私が嘘をついたってこと、じゃけんの勝者の特権で本当のことだってことにしていい?」
さとが俺のことを申し訳無さそうにチラチラと、『ごめんね』と書かれた顔を向けてきてる。
いつも暴言ばかり吐かれていた義妹から優しくされると、なんか調子が狂うな……。
「めんどぉめんどぉめんどぉー!! ……すぴぃ〜すぴぃ〜」
「え。お、お姉ちゃん?」
「すぴぃ〜すぴぃ〜」
火照った顔をしてるいとが気持ちよさそうに眠っている。
さとが何度も体を揺すっているが、起きる素振りを一切見せない。
「お姉ちゃんは寝てますね」
いとと喋っていたときとは打って変わって、スンとしたさと。
妹、という子供らしい空気が消えた。
「これでようやく勝さん、あなたに言いたいことが言えます」
「へっ?」
なんのことだ??
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