第9話 秘密の力

 偶然手にした力、ビヨット。文字通り桁違いの力に、俺のテンションは最高潮のままだ。何せ今俺は全裸である。


「おほほ…」


 おかしくなった訳ではない。洞窟は地下奥深くにあるから、基本的に肌寒い気温なのだ。普段なら洋服を着込んだり落ち葉にくるまったりするが、今は不必要だった。


「すげ」


 寒さを感じない。寧ろ少し熱っているぐらいだ。この状態なら、やりたくてもやれなかったアレができる。


「いやっほおお!!」


 池に飛び込んだ俺は、全身を沈めていった。汗は適当に拭うしかやりようがなかったが、これなら湯を焚かなくても水浴びが可能だ。数日分溜まった垢や汗をこそげ落とした俺は、もう一つ試してみる。


「ふっ…」


 もう一度石に膝をついて、祈りの体制をとった。頭の中で浮かべるイメージはそのまま、今度は辺りに漂うエネルギー的なものを思い浮かべた。


「…よし!」


 成功だ。身体に溢れるエネルギーが、拭き取れない水滴を一瞬で蒸発させてくれた。高まる高揚感と全能感に、笑いが止まらない。


「これ凄いよなぁ!」


 恐らく、ビヨットとは大気中の魔力か生命力とかの類だと思う。

会話や本を読んだ中で分かった事だが、魔力は一度取り込まなくては、使い物にならないらしい。魔石等は石が持つ魔力を利用するが、それでも起動や出力の調整といった操作は、自らの魔力を必要としている。

 もっと詳しい解説も載っていたと思うが、いかんせん両親、とりわけ我が母が魔法関係の本は隠し通してくれた。


「多分生命力とかだと思うんだよなぁ」


 そもそも魔力というものを感じた事が無いから、違いが分からない。魔力と似ているのは確かだが、全く同じなのか違うのか、それすら検討が付かないのだ。


「うーん」


 石の上で暫く考えたが、結論はすぐに出た。


「考えても意味ないや」


 魔力だろうが何だろうが、関係ない。今の俺を強くしてくれる、この事実さえあればいいんじゃないかな。


「この力を使いこなせるようになれば、俺も」


 ここにきて楽しくなってきた。あの巻物を完全に理解できれば、多分並大抵の盗賊やら魔物やらは怖くない。となれば当然色々出来る事も増えていくだろう。


「よーし」


 巻物を広げ直すと、真剣に読み込む。ずっと洞窟で過ごす羽目になったんだ、とことん付き合ってやろうじゃないか。


「そうだよな。生命力だよな」

「祈りの格好に意味はあんのか。…宗教用語かな、予測もできねぇや」

「えーと、ここからが実践のアドバイス的な奴だろ。取り込む時のイメージが…」


 難しいのは表現が古いだけではない。宗教用語が使われているのだろう、憶測すら困難な単語が、所々で出てきた。


「自然信仰だったと思うんだがなぁ…」


 この世界には、所謂教会に近い建物はある。そこで信仰されていたのは、俺の村だと水の神だった。一神教ではあったが、他にも宗教はあるらしく、村の人々全員が教会に立ち寄っていた訳じゃない。

確か俺の家では、森だとかの妖精を崇めていた気がする。


「祈りはしてたけど、ちゃんと聞いてなかったな…」


 食事前の祈りもあった。だが両親ともぶつくさ言うだけで、具体的な内容は理解できなかった。恐らく年齢を重ねるにつれて、徐々に教えられていく予定だったのだろう。教えられていたかもしれないが、少なくとも覚えてはいない。


「こんな事で使うとは…」


 クリスマスもお参りもやってきた、日本人の側面が出たんだ。適当にやるんじゃなかったよ。


「あー、何の神だこれ。神か?つーか」


 巻物に出てくる人間なのだが、どうも描き方が変なのだ。

縮尺がおかしいと言えばいいか、胴体が異常に長かったり手足が短かったりと、デフォルメされている。全身を飾る動物の顔やら尻尾やらの方が主張が強かったりと、本当に何がしたいのか分からない。


「使者的なやつかもしれねーんだよな。仏教とかは関係なさそうだし、うーん…」


 文化的にはヨーロッパの地方神話が近いと考えている。ならば俺が似ていると思った禅の要素は、一旦保留にして方が良さそうだ。


「書いてある文言からするに、魔法的なやつも出来る筈…」


 書いてある文言を一度口にしてみる。


『汝手にした力を奮わんとすらば、鹿と猪かを選ぶだろう。


 鹿ならば森が、猪なら山が応えよう。


 鹿ならば癒しを、猪なら猛々しさを与えよう』


分からん。


「牛と蛇じゃない?何で鹿と猪だよ。出てくんな勝手に」


 何かを象徴しているのは間違いない。そして対比させているから。


「言葉のニュアンスだと、回復と強化っぽいと思うんだが…」


 猛々しさはともかく、癒しは回復だろ。まさかただのマッサージじゃないだろうな。

誰も突っ込んでくれない今、自分の考えだけが頼りだ。俺はアドバイス?に書かれた手順をしっかり守ってやる事にした。


「えっと先ずは…」


 祈りを捧げながら、感謝を。親への感謝に加え、森などの自然に対する感謝も加える。そして牛を思い浮かべた。簡単に浮かぶのは白黒のマダラ模様が特徴的な乳牛だが、多分違うよな。


第九話の閲覧ありがとうございます。

ザラがどのようにビヨットを扱うか、気になる方は評価とフォローお願いします!

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