第4話 菊代と春人
男は菊代に話し始めた「本当はもっと早くに君を見つけたかったんだけど、仕事が忙しくてね…。」菊代は興味がありそうな顔をした。男は菊代に「僕の仕事に興味はあるかい?」と尋ね、菊代はこくりとうなずいた。
「僕の仕事はね、隣町のカフェーの経営者なんだ。隣町のカフェーのことは知ってるかな?」菊代は再びこくりとうなずき「女給士さんが美人ばかりだと勤め先の旦那様もおしゃっていました。」と言った。
男は「あはははは!そうか、だいぶ評判は良いのかな!」と満足気な顔をし、「菊代ちゃんはその仕事をしたいと思うかい?」と続けた。
菊代は思ってもみない仕事のオファーに驚いた顔をした、菊代の本心は隣町の噂のカフェ―で働いてみたいだった。しかし、現実に菊代一人が家から出ていくのも、祖母や弟達を残して行くのも菊代には不可能に思えた。
菊代は顔を伏せ、唇をぎゅっと噛みしめた後口を開いた。
「私の家は父も母も亡くなり、母方の祖母が私や姉弟達の面倒を見てくれています。私も祖母の役に立ちたいので学校を卒業してすぐに働き始めました。もちろん隣町のカフェの仕事が私に出来るものならやりたいと思いますが、祖母や姉、幼い弟達をここに残して私だけ隣町に行くのは心配です。」
と答えた。
男は少し黙ってから「ふー…そうか。なかなか厳しい生活をしているようだね。学校を卒業してすぐ働いたと言っていたが、君は何歳なんだい?」と男が尋ねると菊代は「14歳です」と答えた。
「14歳!?こりゃまた驚いた!きれいな顔立ちと落ち着いた仕草だから16、17歳かと思っていたよ。そうか…14歳じゃ家族と離れたくはないよね。それに14歳じゃ僕のカフェーでは仕事もさせられないな…」男は少しがっかりしたが、すぐに何か策はないかと考え始めた。
男がしばらく考えていると菊代は尋ねた「あのまだ名前を聞いていません…教えていただけませんか?」
男は、はっ!としてまた笑い出した。「ごめんごめん、君に話すことに夢中になって名前を教えていなかったね!僕の名前は京 春人というんだ。何か飲みたいものあれば注文していいからね!」春人が気さくそうに笑いながら言うと「あの春人さん、もう時間が遅いので家に帰りたいのですが…」菊代は申し訳なさそうに言った。
春人は、何の策も浮かばないまま菊代を足止めするのも悪いと思い、菊代を家まで送ることにした。菊代は自分の住んでいるぼろい長屋を春人には見せたくなかったが、自分の置かれている状況を見せることで諦めてくれるんではないかと思い春人に送らせた。
また春人も何日も当てもなく菊代を待ち伏せするのは嫌だったので家を知りたいと思ったのだった。
家に着くと想像よりもボロボロの長屋に春人は少し驚いたが、金銭的に困っている菊代の姿をリアルに感じて、より自分の店で働かせて助けたいという思いが強くなった。
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