ノスタルジア─ああ我がふるさとYO─

ぶらボー

西暦35429年1月23日

 銀河連邦の未確認宙域調査隊員の一人、ジョン・ジョジョンは宇宙たばこに火をつけた。無人探査ドローンから収集したデータによると、近くで生命体が存在する、もしくはしていたことを示す痕跡が手に入る可能性が高い。この一服を終えてからはそれなりに忙しくなりそうだ。




 喫煙ルームの自動ドアが開くともう一人、調査員が入ってきた。二カ月前に入ったばかりの新人、トム・ラブファントムだ。


「お疲れ様です」


 トムは調査の疲れを感じさせない爽やかな声色と表情で会釈する。


「慣れてきた?」

「いやーいっぱいっぱいだったのが少しマシになったぐらいで……」


 トムも宇宙たばこに火をつけた。


「ジョンさんって東京の支部でしたっけ?」

「うん、そう。」


 ジョンはふぅっと煙を吐く。


「でも細かいこと言うと出身は大阪の方なんだよね」

「あれ、関西だったんですか!僕のところと近いですね」

「トムも関西か」

「はい」


 トムは煙を静かに吸って吐いた。


「僕、神戸出身なんです」


 ジョンも煙を吸って吐いた。ん?と思い眉を寄せる。


「神戸って…兵庫県の神戸市出身?」


 トムは首を横に振る。


「細かいこと言うと違います。」

「あーやっぱり!そういうことする!」


 ジョンは缶コーヒーを開けた。


「兵庫県、っていうのは合ってるのね?」

「明石です」


 ジョンは缶コーヒーを飲み始めていきなり吹き出しそうになる。


「いやいやいやいや明石はもう明石って言ってもよくない!?」

「えー!なんか伝わらなさそうじゃないですか?」

「いや明石は伝わるよ!なんで兵庫県民は自分の出身の話になると神戸って言いたがるんだよ!」

「兵庫だと知名度イマイチじゃないですか、神戸の方がわかりやすいかなって」

「明石出身は明石って言ってくれたらいいよ!ってか兵庫でも別にいいだろ!」




 プシューと喫煙ルームの自動ドアが開く。ジョンの同僚のヤンスデス・チェンテナリオ100世が入ってきた。


「なんか楽しそうでヤンスね」

「ヤンスデス、この新人が明石出身なのに神戸出身って言いやがるんだ」

「あるあるでヤンスねー」


 ヤンスデスは宇宙たばこに火をつける。


「ええ~…そんなに変ですかね」

「県名で言えばいいでヤンスよ~」


 うんうんとジョンが頷く。


「一体何故なんだ?神戸の方がおしゃれ感あるからか?」

「いやいや、そっちの方がわかりやすそうですし…」

「明石はわかるよ!?」




 ヤンスデスが宇宙たばこをぷらぷらさせながら喋る。


「県名より都市の名前が有名になっちゃうと…ってヤツでヤンスねえ。しかしそういうのがない県出身の人からすると謎の言動だし、なんか鼻につく感じがあるでヤンスよ」

「うぇー……そうですかねぇ」


 トムは煙をゆっくり吸って吐いた。


「……ちなみにヤンスデスさんってどこ出身なんです?」


 ヤンスデスは答えた。




「名古屋でヤンス」




「……」

「……」

「おい、ヤンスデス。」


 ジョンはたばこの火を消しながらヤンスデスに低い声をかけた。


「テメーも県名で答えろや!愛知やろがい!」

「名古屋の方がわかりやすいでヤンスよ。」

「おまえ今そこの神戸出身とのたまう兵庫県民に鼻につくとかぬかしたよなぁ!?」

「それはそれ、兵庫は兵庫、名古屋は名古屋でヤンス。」

「ダ、ダブスタクソヤンス…!」


 トムは煙でむせながら再びヤンスデスに質問した。


「ほ、ほんとは名古屋じゃなくてどこなんですか…?」

「豊田市でヤンス。」


 ジョンはコーヒー缶をひっくり返した。


「世界のト〇タのお膝元じゃねーか!豊田市出身って言えや!」

「名古屋の方がこう…グルメ感?みたいなのが出るでヤンスよ。」

「インスタしてんじゃねえんだから出身地を盛るんじゃねえ!」

「自分を盛ってく精神がこの銀河開拓時代には大事でヤンスよジョン。」

「出身地盛ってねえで他のところ盛れや!ってか銀河開拓時代に絶対関係ないわ!」




 PRRRRRR!


 ジョンのハイパースマートフォンが鳴った。


「あ、隊長だ」


 テーブルの上にハイパースマートフォンが置かれると隊長のホログラム立体映像が映し出された。


「休憩中に申し訳ない。打合せの場所が変更になったので休みが終わったらそちらへ向かってくれ」

「わかりました」

「わかりました」

「わかったでヤンス」

「……」

「……」

「……」


 三人はホログラム映像をじーっと見つめる。


「ん?どうしたんだ、私の顔に何かついているかね?」

「隊長……」


 ジョンは聞いた。


「隊長ってどこ出身です?」


 唐突な質問に首を傾げながらも、隊長は答えた。




「……横浜だが」




おわり

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