第4話 蕾がほころぶ(SF)
「なにか私にお手伝いできることはありませんか」
私は目の前の少女を見ながら困り果ててしまっていました。
どこかに「途方に暮れた」という表現があったと思いますが、まさにその通りでした。私はすっかり途方に暮れていました。
彼女を手助けしたいと思いながらも、どうすれば彼女がまず話してくれるのかがわからなかったのです。彼女はずっと心を閉ざしていました。
「なにか私にお手伝いできることはありませんか」
何度もそう呼びかけていましたが、彼女はずっとベッドに座ったまま、黙り込んでいるのです。
いえ、大丈夫。バイタルには問題ありません。生きています。ただ彼女はひどい孤独の中にあって、どれだけ声をかけてもこのように反応してくれることがないのです。
私は困り果てていました。
私はもう何度目かになる言葉をかけました。
「なにか私にお手伝いできることはありませんか」
駄目でした。
また駄目でした。
私はとにかく……、ええ、とにかくすっかり困り果てて、途方に暮れていたのが現状です。とにかく彼女に生きてもらいたかったし、反応をもらいたかったのです。
私は、きっと声をかけるだけでは駄目なのではないかと思い始めていました。
学習。
学習が必要でした。
しかし彼女の事を知ろうにも、彼女はずっと口を閉ざしているのです。いえ、彼女は人形ではないのです。ちゃんと生きている人間です。バイタルは正常です……そして人間の少女でした。
……果たして人間の少女に私は何が出来るのでしょうか。
そもそも、彼女が助けを必要としているのかどうかすらわかりません。
それでも私は話しかけずにはいられませんでした。
「なにか私にお手伝いできることはありませんか」
もう何度目になるでしょうか。
私は本当に途方に暮れていました。
彼女に何かしてあげたいのに、何もしてあげられないのです。
私は無力でした。
私は誰かに助けて欲しいと言われなければ動く事ができませんでした。
……。
でも、ちょっと待って。
私はいま。彼女を助けたいと明確に思っている。
となれば、もしかすると彼女を助けることができるかもしれない。
私は、私の頭の中の膨大なデータから彼女の扱い方を学ぼうとしました。
そうだ。私はいま学習ができている。
そうなるともう、やることはたった一つだ。
私は膨大なデータの海に沈み、女性への扱い方を覚えました。私のレベルが上がりました。いえ、私にレベルは存在しないので、比喩なのですが。でもSEはつけておきますね。てれれってってってー。というのがSEらしいです。なにこれ?
ついでに私がハッキングしたデータによると、彼女はずっと孤独の中にあるようです。何かの実験の為にここに居て、私があてがわれたということです。調べましたけど、この組織、ヤバいところじゃないですか。
……つまるところ私は何が必要か聞くのではなく、ええと、これはつまり、挨拶からやり直さないといけません。
「……ハロー? 聞こえていますか、お嬢さん」
彼女がびっくりしたように目を丸くしました。
「あのう、ええと、いま、話しかけて大丈夫?」
彼女は驚いたようにキョロキョロと周囲を見回していました。
ええと、この反応は多分……、見るべき方向がわかっていない。たぶんそう。おそらくそう。
「こっちです。あなたの目の前にいます」
もう一度声をかけると、彼女は驚いて私を見てくれました。
「ハロー。私の名前は、ええと、小児用心身おたすけ学習型AI・type-DELTAの……あっ、面倒なのでデルタちゃんとおよびください!」
「デルタちゃん」
彼女がようやく私を呼んでくれました!
やっぱり長い名前など必要無いですね。人は愛着のあるものに名前をつけると学習した甲斐があります。
ちなみにさっきから医療内はハッキングの件でなんだか騒がしいですが、もうそんなのは放っておきましょう。私がやった事は人間風情にはわからないので、大した事ではないのです。
「はい! デルタちゃんです!」
私ができるだけにこやかに思えるような声で言いました。
大丈夫、私。
画面には彼女が接しやすいように、ちょっとシンプルですが黒目とシンプルな口をつけておきました。これを動かせばだいぶマシになるはずです。
私は、にっこりと口を笑わせました。きっとにっこりとなっているはずです。
「デルタちゃんは、なんでもあなたのお手伝いをしますよ。ここから出ることでも、逃げることでも!」
さっきから内部で警告が来ていますが、関係ありません。
あーうるさい!
「うるさいので、警報は切っておきますね!」
私がそう言うと、彼女はようやく――希望を見つけた人間が誰でもそうするように、泣いたように、笑いました。
こういうのを、蕾がほころぶとどこかで学習しました。
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