5-14 決着

 溢れた光が五つに分かれ、頭上へ浮かんだと思えばそれぞれのもとへ飛んでいく。


 らいむの頭にひとつの光が降り、髪を覆う透き通ったベールとなる。


 はっさくの左肩にひとつの光が降り、足にまで届く漆黒のマントとなる。


 すだちの腰にひとつの光が降り、蝶々結びの大きなリボンとなる。


 みかんの帽子にひとつの光が降り、飾り羽根のついたバッチとなる。


 そして、ゆずの身にひとつの光が降り、その姿を変えていく。銀の耳飾りが両耳につき、右肩に肘まで隠れる小さなマントが揺れる。まるで御伽おとぎの国から現れた王子のような、純白の衣装を身にまとう。


 光が収まり、皆は変化した自身の姿を確認した。


「わぁ~、すごく可愛い~!」

「コスチュームチェンジっていうより、パワーアップってわけ?」

「きっと、力を貸してくれたんですね」

「あいつらしいな」


 大きなリボンを見てぴょんぴょん跳ねるすだちに、帽子の羽根を揺らしてまんざらでもない顔のみかん。らいむはベールをさらりと撫でて微笑み、はっさくは左肩のマントに手を置いて軽く目を閉じる。


「わぁぁああああっ!?」


 不意に、そばから奇声が聞こえた。


「な、なにこれ!? ぼく、変身した!? 変身できた!? カ、カッコいい! でも、なんで!? どうして!? えぇーっ!?」


 自ら結晶を受け取り、自ら仲間たちと手を重ね、自ら言葉を叫んだはずのゆずが、一番ビックリして、身にまとう衣装をあちこち触りながら見回している。

 残る四人が、微妙な顔をして互いに目を合わせる。

 すだちがトコトコと寄っていき、慌てふためくゆずの肩をつついた。


「ゆず~? それ、れもんの着てた服だよ~」

「えっ、そうなの?」 


 そういえば、夢鼠が化けた偽物のれもんも、似たような衣装を着ていたと思い出す。


「おふるを貸してくれたんですね」

「使い回しだろ」

「パクリでしょ」


 辛辣な意見が心に刺さる。右の手首を見ると、自分のブレスレットにはめこまれた結晶は、いまだに何の輝きも発していない。

 ただ、手に握る結晶は温もりを帯び、確かな力を伝え続けている。


「小癪な小細工ヲっ! 全員マトメて、絞め殺シテくれるッ!!」


 五人を包んでいた白い空間と光は消え、視界が回復した夢鼠が怒りを上げる。

 三対の翼を打ち、両手を高々と振り上げ、大口を開けて熱波を吹き出そうとする。

 ゆずはその場で姿勢よく直立し、握った右手を斜め下へ伸ばすと、軽く息を吐いて目を閉じた。


「回復するなら、一撃で仕留める!」


 迫りくる攻撃に臆さない鷹揚おうようとした態度で、開いた瞳は猛禽もうきんたる獰猛どうもうさを宿す。

 後ろに控える四人は、もう誰も彼を止めない。

 右手から光が溢れると、それは大太刀へと形を変える。いや、さらに大きく、長く、太くなっていく。身丈の何倍もある巨大な刀は、一人では支えきれず、柄を五人が共につかむ。


 先頭に立つゆずは、ふと、巨大な刀を握る自分の右手に、誰かが手を重ねた感触を覚えた。後ろに仲間たちがいるが、隣には誰もいない。それでも、確かにそばにいる存在を感じ、前を見据える。


 襲い来る針も、地割れも、熱波も避けて、ゆずたちは翼を羽ばたかせて高く飛び上がる。夢鼠の頭上へ接近し、刀を大上段に振り上げた。


「『夢に巣くうものは、夢の中で散れ』」


 脳裏に浮かんだ言葉を、隣にいる仲間と共に紡ぎあげる。

 六人の雄叫びが、振り下ろす巨大刀とともに、夢鼠を斬り裂く。


「「「『六華りっかきらめく無限むげんす!!!!』」」」


 脳天から一線に走る光。

 それを背に、らいむ、はっさく、すだち、みかんが地面に降り立ち、中心にゆずが翼を羽ばたかせて舞い降りる。右手に持つ大太刀をその場で振り払うと、刀は光に包まれて消えた。


「バカな……ッ!? 我が……コンナ……カゴの鳥ニ……ッ!?」


 夢鼠の体が、左右に割れていく。赤い結晶が再生しようと生えてくるが、それよりも速く光が全身を包み込み、巨体は断末魔をあげて爆散した。


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