島風が好きになるなんて…。

加昇ヨシユキ

第1話 結衣、輝石島に降り立つ

 鹿児島県の西方30キロの海上に小さな島がある。輝石島きせきしまという島だ。上輝石島かみきせきしま下輝石島しもきせきしまの2つの島から構成されていて、約5,000人の人が暮らしている。漁業と建設業以外これといった産業はない。島には、中学校が2校あるが、高校がないため、子供達は中学校を卒業すると、島外へ出ていく。この時期になると、下輝石島しもきせきしまの玄関港、仲井間港なかいまこうは、島を出る人、それを見送る人でごった返す。島民は、これを“島立ち”と呼んでいる。島の大きなイベントの一つだ。


 7月29日10時、下輝石島の仲井間港に1そうの旅客フェリーが接岸する。階段状のタラップがフェリーと岸の間に掛けられる。フェリーから1人の若い女性が降りてくる。ツーブロックの髪型、そして、Uネックの白ティシャツ、胸にはwelcome to heavenの文字、アウターにオーバーサイズの淡いカーキーのテーラードジャケットを羽織り、下は、グレーのワイドデニム、足元は、やや光沢のあるグレーのレザーシューズという出立ち。メンズライクコーデが映えている。


 ボクは、中川結衣なかがわゆい。東京生まれ東京育ちの22歳。趣味はsnow manの追っかけ。


 タラップをゆっくり降りる結衣。港に降りると、島風が結衣に吹きつける。 


 ボクの父は、この島の生まれで、東京で就職し、そこで母と出会い、結婚し、ボクが生まれた。ボクは、幼い頃、両親とこの島に来ている。このベタベタした、なんだか生暖かい風が大嫌いだ。

 

 この島が大嫌いなボクが、なぜこの島に来ることになったか。


 ボクには、この島で暮らす今年90歳になるばあばがいる。父から、たゑ子さんは高齢で島に一人置いておくのは心配だ。私が何回も、島を出て東京で一緒に暮らさないかと説得しているが、聞きやしない。結衣が説得して東京に連れてこいって言われて…。


 仲井間港は、人でごった返している。島外から帰省する人と迎える島民。道端には、パン屋やフラワーショップの屋台が連なって、呼び込みを行なっている。その賑やかな屋台通りをそそくさと通り過ぎる結衣。ふと1台の洒落たイタリア製ベスパとすれ違った。島の陽気に溢れた雰囲気にマッチしている。キャリーバックを引いて、結衣は、港近くのバス停に向かう。バス停に結衣が立っていると、バスがやって来た。結衣は、キャリーバックを引いてバスに乗る。結衣の祖母が住む巻浜集落へ向かう。


 今度で輝石島を訪れるのも最後だ。ボクは、21歳で看護師試験に合格した。でも、まだまだ就職したくなかったボクは、看護師にならなかった。そして、連日snowmanの追っかけに明け暮れていた。ボクを看護師にしたい父は、ボクに今回の条件を出してきたというわけだ。ばあばを東京に連れていけば、晴れて父公認で好きなだけsnowman の追っかけができる。看護師にもならなくてもいい。父は、もういい歳なんだし、結衣もそろそろsnowman は卒業して早く就職したらどうかってしつこくっていい加減疲れた。絶対ばあばを東京に連れていく。


 バスは、ゆっくり走っていく。乗客は結衣しかいない。車窓の外には、延々と緑の木々の風景が流れている。延々と続く緑の景色をただただボンヤリ眺めている結衣。

 しばらくすると、集落が見えてきた。結衣の祖母が住む巻浜集落に着く。バスが停留所に止まる。バスのドアがゆっくり開く。結衣は、キャリーバックを引いて降りる。キャリーバックを引きながら歩いていく結衣。5分程歩くと、眼前に古い一軒家が姿を現した。結衣は引き戸の玄関を開けて家の中に向かって叫ぶ。

結 衣「ばあば、ただいま」

 結衣が元気よく呼びかけると、しばらくして1人の老婆が姿を現した。結衣の祖母たゑ子である。

たゑ子「まぁ、結衣ちゃんじゃなかか。大きくなったねぇ」

 たゑ子は結衣に近づいて、頭をナデナデする。結衣は、少々不機嫌そうに眉をひそめた。

たゑ子「東京からの長旅で疲れたせんね。まあ、上がってゆっくりせんね」 

 結衣は、居間に向かうたゑ子の後をついていく。居間に着いた2人はゆっくりと腰を下ろした。たゑ子は、結衣にお茶を淹れて差し出した。

結 衣「ばあば。島の生活はどう?大変じゃない?」

 結衣の問いかけに、顔をほころばせながらばあばは語る。

たゑ子「なんをゆうか。ごはんはうまかし、近所んしは何かあれば助けてくれる。こんないいところはなかよ。結衣ちゃんもこの島に住んだらよかとに」

 結衣は、ムッとした顔をして、

結 衣「ばあば。東京は楽しいよ。世界中の美味しい食べ物がいつでも食べらるし、街中は人がたくさん賑やかかだし。テレビで見る芸能人にも会えるんだよ」

結 衣「絶対、ずうぇーったい、東京がいいって。ばあば、東京で私達と暮らしませんか」

 結衣は、ばあばに近寄り、両手を合わせてばあばにお願いのポーズをする。

結 衣「お願いします!お願いします!お願いします!」

 結衣の激しいプッシュに驚いたばあばだが、落ち着いた表情で結衣に語りかけるばあば。

たゑ子「いけんしたとはてな?(何かあったの?)」

結 衣「ばあば、ボクがなぜ東京から輝石島に来たかわかる?」

たゑ子「輝石島で暮らすつもりじゃろ」

結 衣「冗談。私はこの島が大嫌い。港はべたべたした風が吹いてるし、住んでる人はじいちゃんばあちゃんばっか。コンビニもないし、車は走ってない。なー んもない島じゃん。輝石島きせきじまだぁーい嫌い。」

 結衣はしゃべる限りしゃべると、はぁーと大きな息を吐き、ベェーと舌をだした。

結 衣「ボクが輝石島に来たのは、ばあばを東京に連れて来るように、パパに頼まれたから。そうすれば、看護師にならなくていいし、snowmanの追っかけもしていい約束になってるの。さあ、東京に行くわよ。いいよね、ばあば」

 そう言って、結衣は、ばあばに詰め寄った。結衣に詰め寄られたばあばは微動だにせず、結衣に語りかける。

たゑ子「はて、おかしいね。崇からは、結衣は、仕事もしないでブラブラしているから、そこに1年ぐらいやる。鍛え直してほしいとたのまれたんだが」

結 衣「はっ、1年も⁈パパに騙された-」

 結衣は、目の前が真っ暗なり、クラクラして、肩を落とす。

たゑ子「そんなに驚かんでもよかとに。まだまだ来たばっかりじゃっでな。まあ、ゆっくりしない。ほんに結衣が来てうれしか。よろしくね」

 嬉しそうに笑うたゑ子。


 7月30日11時。結衣は、祖母たゑ子と2人で祖母が所有する畑にいた。たゑ子は麦わら帽子にもんぺ姿。結衣は、半袖ポロシャツにジーパンとゴム長靴、頭には麦わら帽子を被った様相。結衣は、慣れない農作業にあたふたしている。 


 ばあばの人使いの荒さは天下一品だ。ボクは朝からばあばの指示できゅうりやキャベツ、茄子、西瓜と次々に収穫させられている。もう汗で服はぐっちょり。

 

 あまりの重労働に汗がドバドバ流れる。額から流れる汗が目に入り染みた。目が痛い。


結 衣「あーっ、もう嫌だ。疲れた」

 結衣は、手に持っていた6個のキャベツをコンテナに投げ込むとその場にへたり込んだ。

たゑ子「ホントに根性なしじゃ。結衣は」

 鎌を持って結衣に近づいてくるたえ子。

たゑ子「そいじゃ…気分転換にニコニコスーパーまで買物に行ってけ。気が紛れるじゃろうて」

結 衣「ニコニコスーパーってどこにあるの?」

たゑ子「ここから1時間くらい自転車で行ったところにある。」 

結 衣「はあ?ばあば、島のこと全然わから

ないボクをそんなとこまで買物に行かせる気?」

たゑ子「大丈夫、大丈夫。東に向かって走っていけばすぐじゃっで。迷うことはなか。自転車を貸すっで」 

 たゑ子はそう言うと、朝畑まで乗ってきたカゴ付きママチャリを引いてきた。不機嫌そうな結衣に

たゑ子「なんや、じゃあ、あたいが行ってくっが。結衣は、野菜の収穫をしとけばよかが」

 たゑ子が言うと、結衣は慌てて、

結 衣「わかった、わかりました。ボクが行きます。お店はどっちの方なの」

と答えると、たゑ子は指差す。指を刺した方角には両端を田んぼに挟まれた一本道があった。終わりが見えない一本道。結衣は、肩を落とし絶望した様子でカゴ付きママチャリにまたがった。

たゑ子「忘れ物じゃ。買物に行くのにサイフを持たんでどうするんじゃ」

 たゑ子は、サイフとマイバックを渡す。

たゑ子「晩は、美味しい煮付けをすっで、砂糖と醤油、それから、ぶりうてきてくいやい」

 たゑ子から、サイフとマイバックを受け取ると、結衣はうつむき気味でペダルを漕ぎ始めた。結衣の落胆した様子を見て喝を入れるたゑ子。

たゑ子「しっかり前を向いてこがんか!!結衣」


 もう最悪。輝石島にくるんじゃなかった…。


 東に向かってカゴ付きママチャリを漕ぐ結衣は、段々と小さくなり、見えなくなった。

 

 同日14時。下輝石島しもきせきしま東方にあるニコニコスーパーで買物を終えた結衣は、西に向かって自転車を走らせていた。突然空から雨粒が。天気雨だ。

結 衣「なんで晴れてるのに。サイテー」

 結衣は、突然の雨で全身がびしょびしょに濡れたが、一本道のため、雨宿りもできない。ママチャリをひたすら漕ぎ続ける結衣。

 視界が悪いため、不注意で転倒した。結衣は、地面に倒れてしまう。ドロ水で服が茶色くなる。結衣は、祖母たゑ子への憤りと、先の見えない帰り道への不安と、輝石島へ来たことへの後悔の念が交錯し、涙が溢れた。

 そこへ1台の白い軽トラックが止まった。

若 者「なんしょっとか。大丈夫け」

 軽トラックのドアが開き、ガテン系の若者が降りてきた。

結 衣「買物の帰りなんですが、突然雨が降ってきて」

若 者「家はどこね」 

結 衣「ボク、東京から来ていて、巻浜集落の中川たゑ子の孫です」

若 者「おお、たゑ子ばあの孫け‼︎」

 ガテン系の若者は、ニコニコして、

若 者「オイがたゑ子ばあのところまで送ってやっで。そい、乗いやい」 

 ガテン系の若者は、そう言うと、結衣が乗ってきたカゴ付きママチャリを軽トラックの荷台に積んだ。若者と結衣は、トラックに乗る。軽トラックは、巻浜集落に向かって走り出した。

 巻浜集落に向かうトラックの中、運転するガテン系の若者は、時折結衣の方をチラチラ見る。ボーイッシュな風貌だが、可愛らしい。雨でびしょ濡れになった姿からボディラインもわかり、想像してつい鼻の下が伸びてしまった自分に気づき、いかんいかんと前を向く若者。

結 衣「ありがとうございます。なんてお礼を言っていいのか」

若 者「気にせんでよかよ。こん島は、みんな家族みたいなもんじゃっで。じゃっどん、こんなかわいかがたゑ子ばあの孫にいたとはねぇ。島にはいつ来たとね」

結 衣「昨日です」

康 史「そうね。オレ中野康史なかのやすしって言います。島の建設会社の作業員してます。実はオレもたゑ子ばあと同じ巻浜集落に住んでます。ちなみに彼女募集中です。よろしく」

 そっと手を差し出した康史だったが、結衣からは握手を拒否された。結衣と康史を乗せた軽トラックは、ゆっくりと一本道を進んでいく。30分後、巻浜集落に着いた。雨は上がっている。

たゑ子「おかえり」

出迎えるたゑ子。

康 史「おい、たゑ子ばあ、元気け」

 康史が片手を挙げて、たゑ子に挨拶する。

たゑ子「康史け。まぁ、結衣を送ってくれたんね。おおきに」

康 史「たゑ子ばあには、こんなかわいい孫がいたとは知らなかった」  

 たゑ子は、ほほほと笑いながら

たゑ子「康史にはやらんからな」

 と康史に釘を刺すように言った。

たゑ子「結衣、災難だったね。ごめんね。風邪引くからはよう着替えてゆっくりしなさい」

 結衣は、康史に無言で頭を下げると、たえ子の家へ向かって走り出した。結衣が走る姿を見つめるたゑ子と康史。

康 史「あの娘、結衣ちゃんって言うんだ。わっぜかわいかじゃなかか」

たゑ子「昨日東京から来たんだ。あの娘は、この島が嫌いなんだと」

 康史は、驚いた様子でたゑ子を見る。

康史「島が嫌いなのか。なんでこの島に来たとか」

たゑ子「あたいを東京に連れていくつもりだったとよ。じゃっどん、あたいの息子があの娘を鍛え直す考えで島にやったとわかって、大分落ち込んだようだよ」

康 史「結衣ちゃんはどんくらい島にいるとけ」

たゑ子「1年じゃ」

康 史「そんなにけ。島が嫌いじゃったら辛かろうに。何せ東京育ちなんじゃろ」

たゑ子「結衣を絶対島好きにさせる。お前も協力してくり」

康 史「わかった。何をすればよか?」

 たゑ子は、ちょっと耳を貸せというジェスチャーをする。康史は、耳をたゑ子に貸すと、たゑ子が企てた計画が康史に告げられる。


 その夜、祖母たゑ子の家の五右衛門風呂に入る結衣。  

結 衣「くそー、やられた。パパの計画だったんだ。でも、ボクは諦めない。ばあばを東京に連れていけば、全て元通りになる。よーし、明日からお土産攻撃だ。東京銀座で買ったチョコレートもあるし。頑張るぞー!」

 お風呂から立ち上がりガッツポーズをする結衣。ふと窓を見ると、人影が。思わず目が合った。

結 衣「きゃあああ‼︎」

 その瞬間、結衣は、桶にお湯を汲むと、窓に向かって投げつけた。

人 影「アチっ、アチっ」

 窓の外にいた人影は慌てて消えていった。


 7月31日12時前。たゑ子の家は、結衣とたゑ子、それから10人ほどの近隣住民で賑やかな場となっていた。たゑ子が康史に伝えた計画は、結衣を囲んで、ご近所さんと美味しい朝飯を食べる企画であった。たゑ子から企画の概要を告げられた康史は、近所の方々を回って、たゑ子ばあのところに孫が来ている。東京から来て1人さみしい身だ。一緒に朝飯を食いながら仲良くしてやって欲しいと頼んで回ったのだ。珍しい来客、しかもたゑ子の孫ということもあり、住民達は興味津々で集まった。居間には、檜の四角テーブルが3台連なっている。テーブルには、釜で炊いた熱々の白飯、豆腐と筍とワカメの入った白味噌のシンプルな味噌汁、そして、昨日結衣がスーパーに買いに行った鰤で作った鰤大根が並んでいる。そして、各テーブルには、結衣、たゑ子、ご近所さん、そして、康史がいた。テーブルの先には、縁側があり、温かな陽気が差し込んでいる。時折ホオジロの鳴き声が聞こえてくる。そんな景観の中で、素朴な朝飯をいただく。おいしい。最高だ。結衣をはじめ面々は、至福のひとときを過ごした。

住 民「結衣ちゃんって言うんだ。どうね島は?」

 朝飯が最高に美味しかったことと、思ったよりいい人達の言葉に本音が言えない結衣だった。

結 衣「すごく素敵な島だと思います。ご飯は美味しいし、みんな優しいですし」

住民A「それはよかった。1年いるんだって。よろしくね、結衣ちゃん」 

結 衣「よろしくお願いします」

 住民の嬉しい様子に、ついつい調子を合わせてしまい苦笑いの結衣。そこへ康史が語りだす。

康 史「昨晩は、ホントびっくりしたわ。オレが五右衛門風呂の近くを通りかかったら、いきなりお湯を引っ掛けられて。あやうく大火傷だったぞ」

 実は、昨日結衣の入浴姿を覗いていたのは、康史だった。

 結衣は、五右衛門風呂のある離れの小屋の窓から覗いていた視線が康史であることがわかり、怒りが沸いてきた。うら若き乙女の裸体に島男の視線がマジマジと注がれていた姿を結衣は、想像してしまい、ついに怒りが頂点に達した。

 そうとも知らず、結衣の感情を逆撫でするように、ガテン系の体格をした康史は高らかに笑う。次の瞬間、康史に向かってヤカンが飛ぶ。康史にやかんが当たり、康史は後ろにのけぞった。顔を紅潮させて康史を睨みつける結衣。

結 衣「当たり前じゃ。若い女なら裸を見られたら誰だってブチ切れるわ。何しとんねん」 

たゑ子「待っちゃん、ワシがみんなを呼んだんよ。ワシの自慢の孫ば帰ってきたっち」

結 衣「ばあば。だからってお風呂をのぞかせなくてもいいでしょ」

たゑ子「輝石島では、なんでもみんなで共有し合うと昔から決まっておるんじゃっで。かわいい孫の裸をみんなで分かち合ったんじゃよ。よかったろ」 

 祖母たゑ子の家に集まっていた住民は黙って頷く。

結 衣「この、ばかやろー」

 結衣がちゃぶ台を持ち上げると、たゑ子の家に集まっていた人達は慌てて逃げ出す。

康 史「結衣ちゃん。また来るからね」

 そういう康史に向かって、結衣は、近くにあったちゃぶ台を持ち上げ、康史に投げつける。今度はするりとちゃぶ台をよけた康史。康史はバイバイと手を振った後、両手で投げキッスをして逃げていく。

 こうして何はともあれ、結衣を囲んでの楽しい朝食会を皮切りに、結衣の離島生活は幕を開けたのだった。 


 同日18時30分、巻浜集落まきはましゅうらくの端にある「希望の丘」に立つ結衣。「希望の丘」とは、結衣が小学生の頃に来島した際に見つけた、結衣だけの秘密の場所だ。秋になると、秋桜が丘一面を覆う絶景の場所だ。結衣は、小学生の頃から闊達な女の子で、ボーイッシュな風貌はその頃からだった。父からのスパルタ教育の影響で、いつしか男まさりな子供になっていた。ある日、父崇と島に来島した結衣は、父と喧嘩をし、たゑ子の家を飛び出し、1日いなくなったことがある。泣きながら迷い、そしてある丘にたどり着いた。泣き疲れた結衣は、丘で夜を明かした。丘に昇る朝日で目を覚ました結衣は、父崇にしごかれたこともなにもかも忘れ、ただ眼前に昇る朝日を眺めていた思い出がある。その場所が、この丘だった。結衣は、この丘に「希望の丘」と名付けた。結衣も10数年ぶりにこの丘に立った。今日も希望の丘眼下には、10数年前と同じように、エメラルドの海面が広がり、眼前の地平線に太陽が沈もうとしている。

結 衣「輝石島きせきしまなんか、大大だぁーい嫌いだぁー」

 丘の上から沈む夕陽に向かって大声で叫ぶ結衣。


 一方祖母たゑ子は、ひとりお茶をすすっている。

たゑ子「やれやれ。せっかく島のもんと繋がりをつくろうとしたのに。まぁ、まだ来たばかりじゃっでな。ほほほ…」


 こうして、ボクの輝石島での生活が始まった。こんな感じで、ボクは島民からいきなり恥ずかしめを受け、嫌いだった輝石島がますます嫌いになりました。康史にボクの裸を覗かれるし、ホント殺してやりたい。

 そう思ってました。でも、この康史が、いろいろ教えてくれて…自分で自分がわからなくなっていくんです。ボクはばあばを東京に連れて行くことができるんでしょうか?

 それでは、第2話「康史が伝えたいこと」で会いましょう。


 島風が好きになるなんて…。




 


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