第7話

 夜はあなたの思うがままに流れた。

 

 あたしは求められるのがたまらなく嬉しくて、それが嘘でも幸せで。

 あなたが喜ぶように声をあげたし、あなたが喜ぶように動いた。あなたはあたしの髪をほどき、髪が流れた先を舐めると、またカラダを揺すった。汗で肌が滑った。


 ねぇ、奥さん、こんなことさせてくれる?

 ここまでさせてくれないでしょう? 正直、もうおばさんなんだから。

 あたしのほうが、イイでしょう?

 身体も引き締まってるし、相性だってこんなにいいんだよ。

 もっと強くしていいよ。

 もっと、もっと。好きにしていいんだよ。

 だから、嘘でも言ってよ。

 前に囁いたときみたいに、あの魔法の言葉を言って?


 あたしを、うれしくさせてよ。

 あたしの中に、ずっといてよ……。


 やがて気が済んだあなたは、あたしの髪を優しく撫でて、またキスをした。

 でもあたしが求めるようにあなたの頬に手を伸ばすと、あなたはすっと立ち上がる。下着を履いて背を向けてソファに腰掛けた。二本目のビールを開けると、携帯電話を触った。

 あたしはシーツを引き寄せてきいた。あなたは携帯電話を見たまま、返事をした。


 いつ、一緒になれそう?

 -準備してるよ。


 奥さんと別れてくれるんだよね?

 -あのさ。今、タイミング見計らってるからさ。いろいろあるんだよ。わからないかもしれないけど、一度妻子を持つと、面倒なことがたくさんあるんだよ。会社での顔もあるしさ。わかるだろう? 同じ会社で働いてるんだから。女の子たちってみんな噂好きで、すぐ広まっちゃっうからさぁ。それで退職なんてことになったら、困っちゃうからさ。少しずつ、少しずつ、脇から固めていかないと……。ふたりのためなんだよ。なあ、おまえなら、わかってくれるよな? 俺も大変なんだよ。


 

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