腹黒巫女とからくりの町
仲仁へび(旧:離久)
第1話
あきらかにくっつきそうな二人が、目の前で仲良くしています。
私の目の前で、いちゃいちゃしないでください。
とっても私、不機嫌なのです。
朝は寝起きが悪いから特に。
宿のベッドで起きた私は、その光景をじとっとした目で見続ける。
目の前で二人の男女が言い争っていた。
一人はルオンちゃん。
男勝りな所があるけど優しい女の子だ。
二人目はナナキ。
とっても強いけど、実は結構繊細。そして真面目さん。
そんな二人は、さっきからずっとああだこうだ言い争っている。
「ルオン様は大人しくしていてください。怪我をしたらどうするんですか」
「これくらい大丈夫だっていっただろ」
ナナキが心配して、ルオンちゃんが我を通そうとしている。
そんな現場みたい。
私はベッドから出て、二人の手元をのぞきこむ。
何やら、小さな箱が開かなくてもめているようだ。
二人で鉄製の箱の鍵穴を凝視している。
「おかしいな、昨日の夜はちゃんと鍵であいたのに。なんであかないんだよ」
「中に何か詰まっているわけでもなさそうですね。一体どうしてこんな事に」
ああ、それは困っちゃうよね。
中にはお財布が入ってるんだから。
私はそういえば、と昨夜の出来事を思い出す。
お金を保管する時に、何かに入れた方がいいかな、と言う事で私達が泊まった宿から金庫を貸し出してもらったんだっけ。
それで、お財布をこの鉄製の箱の中に入れてカギをかけたんだけど、どうやら朝になったらあかなくなってしまったらしい。
「仕方ねーから、ぶっこわすか!」
ルオンちゃんが思いきった発言をして、拳をつくった。
うん、普通の女の子の発想じゃないよね。
まあ、ルオンちゃんは怪力だから、やればできるからなぁ。
そういう発想が時々浮かんじゃうみたい。
それを聞いたナナキが顔を青ざめさせていた。
「やめてください、器物破損で訴えられますよ、巫女の旅の最中にトラブルを起こさないでください」
ルオンちゃんは「冗談だってば、そんなに怒らなくてもいいだろ!」と怒り出す。
ルオンちゃんがナナキをぽかって殴って、それをナナキは避けない。
怪力なのに、手加減してくれるって信頼してるんだよね。
じゃれついてる。もみあってる。
後はその繰り返し。
二人とも、仲よさそうだなぁ。
私はつい嫉妬しちゃう。
絶対のこの二人、旅の終盤になったらくっついていると思う。
うーん。こんな事思うなんて、私はやっぱり偽物の巫女なのかな。
私は巫女として旅をしている最中だ。
同じ巫女として選ばれたルオンちゃんと、私達の護衛のナナキと一緒にね。
けれど、本来なら巫女は一人だけなのだ。
だから、私が偽物なんじゃないかなって思ってるの。
偽物に偽物の自覚がないのは、どういう事なの?
って思うけど。
よく分からない。
それで、
巫女が旅をする理由はというと、それは神様に願いを叶えてもらうため。
世界をよりよくするために、どんな願いがいいのか、それを考えるのが巫女の旅の目的なの。
金庫騒動は、らちが明かなかった。
なので、知っている人の元に持っていくことにした。
宿のおかみさんだ。
泊まる時に金庫を貸し出してくれた人。
私達がそれを持っていくと、おかみさんは何について言われるのか予想がついていたみたいだ。
「おや。とうとうこの宿の金庫までこわれちまったのかい。今日は町のからくりが壊れる事件が多発しててねぇ、悪かったねぇ」
なんでだか分からないけれど、今日は町のあちこちでからくりが壊れているみたい。
周囲を見回すと、金庫をかかえた旅人が何人か見えた。
朝になって、あかない事に気がついて慌てたのだろう。
他の連れあいがいる人は「これからどうする?」みたいな顔をして、相談しあっている。
「金庫の修理代はアタシ達の方で負担するよ」
宿のおかみさんは申し訳なさそうにそう言ってきた。
どうやら、修理費用は負担してくれるみたい。
けれど、その間は金庫があかないので、お金がないのが困ったところだ。
「どうする? おかみさんの話によると、一週間はかかるみたいだぞ」
「早急にお金を作らないといけませんね」
私は、各地にいる巫女様大好きファンクラブの存在を思い出した。
何かいいことをしたい、と考える人はどこにでもいるみたいで。
そういう人が、巫女様を支援する組織を作ったらしい。
だから私は、その人達の事を話題にあげる。
「巫女様を支援している人達にお金を借りる事はどうかな」
しかしナナキは、その方法にあまり肯定的ではないみたいだ。
「その方法もありますが、できるだけ後にしたい手段ですね。自力で解決できるなら自分達で、というのが旅の方針ですし」
「そっかー」
巫女の旅は、何かの組織に入ったり、大きな力を持った都市をひいきしてはいけないらしい。
そうしてしまうと、自分の目がくもって、世界のこまっている所が見えなくなるからだとか。
やぶっても特にペナルティとかはないみたいだけど、あまり褒められたものではないと注意される。
ちょっと面倒くさいよね。
町中のからくりがなぜ壊れてしまったのか。
その原因は意外な所にあったようだ。
町の中央にある町庁舎。
そこにある、からくりをコントロールする機械が、壊れてしまったらしい。
数時間後に、町の住民達にお知らせがまわってきた。
この町の連絡網では、掲示板とかいうのがあるんだけど。
そこに自動的に今日あった出来事が書き込まれていくみたい。
見た目は普通の看板みたいなんだけどね。
ひとりでに文字が増えたり消えたりするの。
変なの。
掲示板の前でそれを知った私達は、顔をつき合わせて相談。
といってもルオンちゃんが言った事を、どうするかってだけの話だけど。
「町庁舎にいって、その機械とやらを見にいかねーか?」
「行ったとしても俺達ではなおせませんよ」
「じっとしてたってなおらねーんだから、話し聞きに行った方がいいじゃねーか」
「ですが、そうなると巫女の身分が大勢にばれてしまいます」
町庁舎の重要な場所に行くっていうなら、巫女の身分が必要だよね。
普通の市民が入れるような場所にあるとは思えないし。
「何のための身分だよ。町の人間が困ってんなら、それのために使うってのが一番だろ」
ナナキは私達と敵対している組織、選定の使徒が襲ってくるのを警戒してるみたい。
あの人たちは、自分の願いをかなえるために手段を選ばないからなあ。
でもルオンちゃんは自分が危ない目にあってもいいから、人の助けになる事をしたいって人だから。
それから色々相談し合ったけど。
私もナナキもルオンちゃんには強く出れないんだよね。
だってルオンちゃん、本当に純粋で良い子だから。
結果、ナナキが最初に折れた。
「はぁ、分かりました。ただし断られたらすぐに帰りますからね」
ナナキがそう言うなら、私も文句はないかな。
「じゃ、三人で町庁舎にいこっか」
町庁舎で通された秘密の部屋。
その中には、からくりを制御している大きな箱があったんだけど。
「めっちゃ煙でてんな」
「壊れてますね。これ以上ないくらいに」
これは確かに簡単になおりそうにないよね。
私たちが遠い目をしていると、ここまで案内してくれた男の人が話しかけてきた。
ここの担当の整備士みたい。
「実は、修理自体は時間を数日かければできるんですけど、部品がある部屋にたどり着けなくて困ってるんです」
たどりつけない?
妙な言葉に首をかしげてしまう。
どういう事だろう。
「今回の件と同様に、警備のからくりも壊れてしまって制御がきかなくなってるんです」
その人が言うには、そのからくりが目に付く人を片っ端から攻撃してしまうので、そこらへんの通路が通行できなくなってしまったらしい。
その通路の向こうには、修理用の部品が保管されている部屋があるみたいで。
ルオんちゃんが「だから困ってんのか」と納得。
あっ、流れ読めちゃったな。
「ナナキ、一応説得してみる? ルオンちゃん無茶する気満々っぽいけど」
私と同じく、何かを察した様子のナナキが額に手を当てた。
「それが、仕事ですので……」
普段から大変だもんね。
「ルオンさま、くれぐれも無茶をするような意見は…………」
「よし、その問題手伝ってやる!」
「……」
あ、ナナキが無言で途方にくれた。
意地悪言ったのは私だけど、ちょっとかわいそうになってきた。
あとで、おいしい紅茶入れてあげるね。
「うおりゃああああ!」
どがっ。
ばきっ。
ただいま、戦闘中。
ルオんちゃんが少年漫画みたいなノリでからくり人形と戦っています。
最初はナナキがやってたんだけどね。
途中からうずうずが堪えきれなくなっちゃったらしくて、ルオンちゃんに選手交代。
熱血とか決闘とか、そんな題名をつけたくなる風景画が誕生しちゃったよ。
最初の頃からずっといけいけな感じ。暴走してたからくり人形さんもこれには、仰天。
(心があるのか分からないけど)心なしか逃げたそうな様子でルオンちゃんと戦ってる。
あっ。
決着がついたみたい。
渾身のパンチが命中。
からくり人形さんは吹っ飛んでいっちゃった。
それを見た案内係さんが引いてる。
「よし、これで修理できるようになったぞ」
「ひいっ」
私達のほうに振り返った清々しい笑顔のルオンちゃんと、真っ青な案内係さんが対照的だね。
「ルオンさま、おけがはないですか?」
「当たり前だろ! これくらいの相手にけがなんてするか」
いつものように心配するナナキと平然としてるルオンちゃん。
ここから無自覚にいちゃいちゃしだすんだよね。
「強いことは心配しないことと同じではないです。あなたは大切な神子様なのですから」
「おっ、大げさなんだよ。おまえはいつもっ。って近い、あとどこ触ってんだ。けがなんてほんとにしてないって!」
後でナナキにお茶を入れたついでに、ブラックコーヒーでも飲もうかな。
そんなこんなでからくりの事件は解決。
無事にお金も戻ってきたので、数日後に私達は再び旅を再開した。
思ったより早くなおったから、このあいだみたいに金策で闘技場に乗り込むことにならずに済んでよかった。
身分を隠して変装していたとはいえ、巫女様が闘技場でお金稼ぎってどうなのって思うし。
「あー今回のトラブルはびびったな」
「本当ですね。財布の管理はもうすこし、慎重になったほうがいいかもしれません」
「でもあんなの予想できるかよ」
私は仲よさそうに話をする二人を見つめる。
「だけど、いい加減すすんで戦闘に参加するのはやめてください」
「別にいいじゃねーか」
「巫女だから以前に女性なんですから、顔に傷でもついたらどうするんですか」
「女性って、お前はまたそういうこといって」
まあ、巫女らしくないなんて気にするのは今さらか。
私もルオンちゃんも。
腹黒巫女とからくりの町 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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