――GIFT―― ギャルゲーの主人公に転生しましたが、ハードモードになっていたので前世の知識を駆使してハッピーエンドを目指します
皐月陽龍 「氷姫」電撃文庫 5月発売!
プロローグ:転生先はギャルゲーの主人公
第1話 プロローグ その1
『あと少しだけ待っててね。もうすぐ会いに行けるから』
闇に落ちていた意識が少しずつ、暖かく薄い膜に掬い取られる。それはとても心地よいものであった。
何か聞こえたような気がするが、多分夢でも見ていたのだろう。悪くない目覚めだなと思っていたその時。俺は誰かの気配を感じた。
「もう。早く起きてよ。起きないと遅刻しちゃうよ?」
「……へ?」
風鈴のように涼しげで綺麗な声音。それと同時に、頬が柔らかい手のひらでぺちぺちと叩かれる。
瞼を開くと――目の前に最推しが居た。
真っ青な空のような髪はショート……ボブヘアーにしており、その顔立ちは少しボーイッシュでありながらも綺麗で愛らしい。
視線を少し下に向ければ、豊満な胸が目に入――でかっ!? いやでかっ!? ここまでだったっけか!?
「……えっち。朝っぱらからどこ見てるのさ」
「え!? い、いや。その、だな」
頬を叩いてた手をサッと引き抜き。自分の胸に腕を押し付けて隠そうとする。しかし、それがより扇情的に見えてしまい……
「もう、早く行かなきゃ。入学式に遅刻しちゃうなんてボクは嫌だからね」
その言葉に目を見開く。ボクっ娘属性である事に興奮したから……ではなく。
これって【GIFT】の最初。主人公が目覚める時の言葉で……あれ?
【GIFT】?
……なんだ、これ。なんだ、この、記憶。
「……風音。鏡とかあるか」
「鏡? あるけど……はい」
風音がリュックから小さな手鏡を取り出して。俺に向けてくる。
真っ黒な髪。真っ黒な瞳。その顔立ちは……決して悪くない。遠目から見れば地味だが、よく見れば整っている。ギャルゲーの主人公らしい見た目だ。ギャルゲーの中だと全然描写されていなかったが。
しかし――全く、違和感はなかった。昔から自分の顔など見慣れていたから。
その時、俺は理解した。
転生したのだ。この
脳が理解しようと、起きたばかりだというのにフル回転を始める。前世と今世の記憶が混濁しているからだ。
「……
一織。
目を瞑り、状況を整理する。
あれだ。昔よく転生ものでみた、十歳になった瞬間前世の事を思い出すやつだ。今の俺は十五歳。
今日は高校生初日であり……この日は【GIFT】のストーリーが始まった日でもある。
前世の俺の名前は――なんだったのだろうか。上手く思い出せない。
だが、【GIFT】の事はよく覚えている。迎えたエンディングの数なども。夢……じゃないよな。
「どうかした? もしかしてお腹痛い? さすってあげようか」
「い、いや。大丈夫だ。……すぐ行くから外で待ってて欲しい」
「うん、分かった。待ってるね」
外に向かう風音を見て……長く、深く息を吐く。
「方針、固めないといけないな」
喜んでばかりは居られない。俺はカプ厨なのだ。主人公×風音の。
この場合、俺×風音になる訳で……複雑だ。いや、でも嬉しいな。
「いや嬉しいな!? めちゃくちゃ嬉しいが!?」
「ど、どうかした? やっぱりお腹痛い?」
「ああいや、なんでもない」
思わず大きな声を出してしまい、風音が戻ってきてしまった。また部屋から出て貰って、俺はふうと息を吐いた。
いやこれ最高では? 最推しと結婚出来るってまじ? え? 神ですか? ありがとう神様。そういやこの世界ってガチの神様居たな。ありがとう。本当に。
心の中で祈りながらも。一度冷静になって考えてみる。
「……風音以外の他の誰かと結ばれるつもりもないしな。かといって、独り身ENDは地獄だし」
【GIFT】でも誰とも結ばれないENDはある。しかし、その場合はクソみたいな結末が待ち受けるのだ。
簡単に言えば、主人公がパチカスでヤニカスなヒモになる。端的に言えばクズである。その場合幼馴染である風音が叱咤激励をしに来てくれるのだが、主人公はクズなので風音に襲いかかるのだ。色々あって、風音も抵抗が出来ない。
その後も紆余曲折あるが、最終的にBADENDである。それだけは絶対に避けなければならない。
という事は、やはり風音ENDしか考えられない。
「まあ、風音に関しては誰よりも情報は持ってるし。他ヒロインと会わなければいいだけだしな」
風音と結ばれる。その為には、色々なイベントを乗り越えなければいけない。まずは【GIFT】一番のイベント。完全に運ゲーではあるのたが。
「ま、二千周した俺なら大丈夫だろ」
前世では二千周以上しているのだ。しかも全部風音END。
……なんで俺はこんなにやり込んでるんだよ。このギャルゲーを。
「――ッつ」
その時、頭に鋭い痛みが走った。何かを……前世のとある事を思い出そうとすれば、頭が痛む。
こめかみを押さえていると、痛みは和らいだ。一つため息を吐いて、無理やりに思考を逸らす。今はまだ記憶がぐちゃぐちゃだ。前世の事は思い出さない方が良い。
「はぁ……どうせなら。というか当たり前だが。風音が一番幸せになるENDを目指さないとな」
となるとやはり、初手の運ゲーを乗り越えなければいけない訳だが。
「……一週間後、か」
天気予報を確認する。その日は雨の予報であった。
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