第39話 シュノーケリング

「そろそろシュノーケリングなんてどうかしら?」


 昼ごはんを海の家で食べて、食休みしたあとは少しだけ湾の深い場所でシュノーケリングをすることにする。

 メンバーの中でシュノーケリングをしたことがあるのは綺羅莉と俊介だけ。あとの五人はズブの素人だ。


「泳げないってことはないわよね?」

「ウチと遊矢は泳げるよ! プールにもバンバン行ってるもんねっ!」


「あたしも運痴だけど泳げまっす!」

「僕も一応泳げるよ。海じゃ泳いだことはないけれどさ」


「……」

 一人静かなのがいる。明後日の方向を向いている季里だった。


「あれ、季里さんは泳げないのかしら?」

「うぐ……。泳げ…………ません」


 午前中は普通に水の中ではしゃいでいたので泳げないとは思わなかった。足がつくところなら問題はないんだそうだ。


「安心して、泳げなくてもシュノーケリングベストって浮く素材でできた道具がるのよ。一応持ってきておいて正解だったわね」


「あ、ありがとうございます。綺羅莉さん」



 マスクとスノーケルを顔に装着し、足ヒレもしっかりと足に固定した。今日は岩場などには寄り付かないのでシューズやグローブは着けない、とのこと。


「本当はきっちり装備を整えたほうがいいのだけれど、あまり長時間はしないだろうし、浅場で楽しむ程度なので、最低限の装備しか持ってきていないの」


 季里は用意してもらったシュノーケリングベストをしっかりと着込んで準備は万端。念のためって綺羅莉は救命浮き輪まで用意してくれていた。

 深いところと言ってもせいぜい水深は五メートルぐらいまでしか行かない予定。慣れていないのだからそこは十分注意したいところ。


「行かないとは思うけれど、白いブイの先は進入禁止ね。船の航路になるみたいだから」


 今日は簡易装備ってことなので無理は禁物っていうか絶対に禁止だって綺羅莉にしっかりと注意をされた。


「おっけ。あっちの方は深そうだから近づかないよ。僕と季里はなるべく浅い岸から近いところで遊ぶよ」


「魚などは岩場に多いけれど、あまり近づきすぎないようにね。あと、ウニなどにも触らないことね」


「「「はーい」」」

 みんなで良い返事してから水中に身を投じた。



「うわぁ~ 誠彦さん、誠彦さん! すごく綺麗! お魚さんもいっぱいいるよ」

「すごいな。川じゃ絶対に見られない風景だよな」


 僕と季里は大体深さが二~三メートル程度の海底が岩場になっているところでふよふよ浮いて彷徨っている。みんなも大して離れないで浮いたり潜ったりを繰り返している。


 季里と手をつなぎながら浮いていると眼下を大きな魚が通り過ぎていった。


「‼ 見た? 今の見た⁉」

「うん、見たよ。デカかったな」


 あまり魚には詳しくはないし、真上から見た姿だと余計わからないけれど、三~五〇センチはありそうな魚だった。

 他にも青い魚に黄色い魚、縞模様が面白い魚など思いの外いろいろな魚を見ることができた。魚が見られなくても浮いてキラキラ光っている海中を眺めながら泳いでいるだけでかなり楽しかった。




「綺羅莉、さんきゅーな。初めてだったけどすごく楽しめた」

「誠彦くんたちが楽しめたのなら何よりよ」

「ウチらもすっごおおおく楽しかったよ~ ありがとうね! 綺羅莉ちゃん!」


 水面それぞれ楽しめたみたいで、シュノーケリングを提案して道具まで貸してくれた綺羅莉に礼を言っていた。


 時間はまだ午後の三時すぎぐらいだけど朝からずっと太陽に当たっていたから、暑さとシュノーケリングの程よい疲労感もありそろそろ帰ろうって話になった。

 今夜も季里と凛ちゃんに夕飯を作ってもらうことになっているのであまり遅くまでだと彼女たちが疲れてしまうだろうから賢明な判断だと思う。


「季里と凛ちゃんは何も持たなくていいよ。手ぶらで帰ってくれ」

「そんな。自分の使ったものくらいは持って帰るよ」

「あたしもそれくらいしますよ~」


「いやいや、ご飯を作ってもらうんだからこれくらいのことはさせてほしいな。ご飯作りは俺らには手伝えないからさ」


 俊介までそう言ってくれたので、二人は納得してくれて二人の荷物は僕と俊介と遊矢で手分けして運んだんだ。


 別荘に戻ったら、女の子たちには先にシャワーを浴びてもらって、その間に男どもでシュノーケリングの道具や砂の付いたパラソル、ピクニックシートなどをきれいにすることにした。


 ホースの水でじゃぶじゃぶ道具を洗いながら駄弁る。


「それにしても今日は楽しかったな」

「マコちゃんはけっこうはしゃいでいたもんな」


「え? 僕はそんなにはしゃいではいないぞ」

「はしゃいでいたぞ。誠彦は」


 二人にそう言われると反論できない。たしかに数年ぶりの海にテンションは上がりまくっていたけどな。これじゃ水美のことを笑っていられないな。


「あとあのナンパ野郎を撃退したの。マコちゃん流石だよな」

「なにが? 大声出して“みんな助けてヘルプ~”って叫んだだけじゃん」


「それが出来るのがすごいってーの。俺なんか、とりあえず話し合うしかないなってくらいだったぞ」

「そっか? 僕はいざとなったらあいつらとやり合うつもりもあったけどな」


「おれはやり合うことしか考えてなかったぞ。あと一歩誠彦が叫ぶの遅かったら殴っていた」


 危ない、危ない。遊矢は思いの外短絡的な戦闘民族だったんだな。今後も気をつけよう。


「最後は喧嘩する覚悟があるから、ああいう風に立ち回れるんだろうな。俺は流石に喧嘩することは頭になかったぞ」


「ん~ 季里や女の子たちがいなかったらそんな事考えないけどな。多分だけど」


「誠彦はやっぱり頭が回るんだよ。おれは水美のことになると頭が回らないからな」


 水美さん愛されていますね~ まあ最悪僕も季里だけでも無傷なら、とは思っちゃうけどね。


「おっと、これで最後だな。洗い終わったら面倒だし、このホースでシャワー代わりにしちゃわないか?」


「そうだな。この散水ノズルにシャワーってあるしいいんじゃね? じゃあまずマコちゃんから、ほいっ」


「あっぷっ、うっぷ。い、いきなり当てってくるなって~ うわっぷ」


 俊介にふざけていきなり顔面に冷水シャワー食らったけどこうやって男三人でワイワイガチャガチャしたのって久しぶりかもな!

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