第37話 紐だね

「う~み~だぁ~‼ ひゃっほーい‼」


 相変わらず水美はアホのようにテンションマックスで浜辺に走っていく。


 全員別荘で水着には着替え済みで、ラッシュガードや薄手のパーカーを引っ掛けて、女の子たちはショーパン履いて浜辺まで歩いてきた。

 なのでまだ、女の子たちの水着は拝めていない。いや、期待はしていないよ? 但し季里は除く、だけど。


「水美、テンションが上がるのはわかるが、みんなに迷惑だからまずはベースを作ってから遊べよ」


 珍しく遊矢がセンテンスの長い言葉を発し、水美のことを諌めている。たぶん遊矢もテンションが上っているんだろうな。



 ベースを作り終えたら水辺に繰り出すのだけど、ここでみんな上着を脱ぎだすことになる。

 最初にラッシュガードを脱いだのはやっぱり水美で、色っぽさもなんにもなくバッと脱ぎ去って水着姿になる。


 彼女の水着は想像通り青い花柄のタンキニだった。何故と言われても困るがなんとなくそんな気がしていた。


 その横でマイペースに着替えをしているのが凛ちゃん。彼女は可愛らしい黄色ベースのオフショルダーのビキニで凛ちゃんらしさが出ていてとてもいいと思う。


 いざ着替えるとなったらもじもじとしてなかなかパーカーを脱げないのは綺羅莉だった。彼女が来ているのは僕と一緒に選んだ白のレースをあしらった淡い桃色のモノキニのはず。彼女のスタイルの良いスレンダーな体型には絶対に似合っているので臆せず堂々としてもらいたい。


 やっとの事でパーカーとショーパンを脱いだらやっぱり彼女らしくとても似合っている。たぶん今このビーチではピカイチだと思うぞ。そう、今だけならね。


「みんな早いね~」


 海の家まで飲み物を買いに行っていた季里が戻ってきた。僕的には真打ち登場って感じなんだよね。早く水着姿を見せてくれないかな。


「誠彦さん、こっち来て」

「ん」


 わざわざ僕のことを近くまで呼んで見せてくれるらしい。他のみんなはもう水に入ってはしゃいでいるので、僕だけが独占だ。


「えへへ。じゃーん! どうでしょう?」

 着ていたラッシュガードを脱ぎ去ると眩しいほどの季里の肢体が顕になる。


 真っ白なタイサイドビキニ。要するに紐ビキニだ。


 いい! すごくいい! トップはボリューミーな双丘を僅かな布地で支え、ボトムはクビレを強調して、緩やかなヒップに添って心細げな紐が結んである。


 やばい。鼻血出そう……。


「やだ、誠彦さん。ジロジロ見過ぎだよぉ~」

「あ、ああ。ごめん。あまりにも似合っていて見惚れてしまったんだよ」

「そうなの? じゃあいいかも」


 綺羅莉の一日天下ならぬ数分天下は終わり、このビーチでの一番は季里になった。もうダントツで季里しかいない。


 因みにだが、男三人は面白みのないサーフパンツだったので紹介は割愛させてもらう。



「誠彦さん、日焼け止めクリーム塗ってくれないかな?」

「もちろん塗るよ。じゃあ横になって」


 他の女性陣は別荘で着替えの最中にお互いで塗りっこしていたようだ。季里だけは僕に塗ってほしいと言うことでそのままビーチまで来たらしい。


「誠彦さん、背中の紐を解いて塗ってね?」

「えっ? これ解いて大丈夫なのか?」


「またちゃんと結んでくれればおっけーだよ~」

「う、うん。じゃあ解くね」


 ただ日焼け止めを塗っているだけなのに妙にドキドキするのはなんでだろう。この肌だって何度も触っているし、キスしたりいろいろやっていたりもするのに。


「内もももお願い」

「いやそこは自分でできるでしょ?」


「お願い……」

「……わかったよ」


 お尻からゆっくりと手を季里の内ももに滑らせていく。クリームのせいもあるけど、すべやかで手触りがよくて変な気持ちになりそう……。


「ぁんっ、くふぅ……ぁあンっ」

「き、季里……変な声出さないでよ。立てなくなっちゃうだろ」


「あっちが勃っちゃったのかな?」

「外でそういう事言わないの!」


 事実やばかったのでこの辺で勘弁してもらおう。


 背中の紐を結び直して前側は季里に自分で日焼け止めクリームを塗ってもらった。よし、これでいいな。


「誠彦さんは日焼け止めを塗ったの?」

「いや塗ってないよ。別に平気じゃないかな?」


「駄目だよ。日焼けを甘く見ちゃ今晩ひどい目に会うよ?」

「マジ?」


「ほんとだよ。ほら、誠彦さんも寝て。背中を塗ってあげる」


 そっか、日焼けも火傷だっていうしな。予防だけはやっておいて損はないか。じゃあ、しっかり塗ってもらおう。


「あ、季里。変なことはしないでね。水着の間から手を突っ込むとかはナシだぞ」

「なんだ、バレてら」


 まじかよ。本当にやる気だったのか。まあ季里ならやりかねないと思ったので先に注意したんだけどね。


 他のみんなが水の掛け合いなんかして遊んでいるところに僕らも合流する。俊介と遊矢にも日焼け止めの話をしておく。


「そんなのは当然だろ? 俺らはもうとっくに塗ったぞ」

「は? じゃあなんで僕に教えてくれないんだ?」


「何いってんだ。そんな思慮不足なこと俺らがするわけ無いだろう? このイチャコラマコちゃんよ!」


 ああ。季里とああなるってことを予測して配慮してくれたってわけね。これは申し訳なく、ありがとうございます。



 ここのビーチは内湾なので波がない。波がないのは海に来た感じが少し削がれた感じがして物足りない気もするが、海慣れしていない僕らには丁度いいのかもしれない。

 波に弄ばれて右往左往しなくていいかね。それに別荘から持ってきたシュノーケリングの道具でも楽しめそうだ。これは午後からのお楽しみだ。


「一回休憩してかき氷でも食べないかしら?」

「お、いいね。俺らで買ってくるから女の子は休んでいて」


 さらっとそういうことが言えるのがイケメンたる所以なんだろな。俊介パねえよ。

 リクエストを聞いて、僕、俊介、遊矢で海の家まで買い出しに出かける。メニューが海の家の周りに貼り出してあって、それもすごい量なので目移りしそうだ。


 おっちゃんにかき氷を注文して暫し待つ。同じものを注文してくれれば楽なのにみんなしてバラバラの注文なので無駄な時間を要ししてしまった。


「よっしゃ俺らが二つずつ持ってマコちゃんだけ三つ持ってくれれば持っていけるな」

「なんで僕が三つ持つのが既定なんだよ。まあいいけど……」

「ねえ、アレ」


 遊矢がかき氷を持った手で示した先には、季里たち女の子に声をかけているチャラそうな男が見えていた。

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