第35話 港に

「では駅前駐車場に九時集合で大丈夫かしら?」

「おっけ。大丈夫だよ。でも本当に車を出してもらえるのか? なんか申し訳ない気がするけど」


 綺羅莉んちの別荘までは、彼女の家に車を出してもらえることになった。しかも当然ながら運転手付きでだ。


「気にしなくても大丈夫よ。気楽に考えてくれたほうがわたしとしても楽でいいわ」

「まあ、そういうならお言葉に甘えるけど……」


 今回の旅行はまず沼津港に行って美味しいお昼ごはんを食べたら港を観光して、そのあと別荘まで移動して一泊目。翌日は丸一日海で遊んで二泊目。三日目は泊まるのは無理だろうって言っていた俊介んちの系列の温泉旅館に泊まれることになった。そこでもう一泊して帰宅って流れ。


 なんとも贅沢すぎる旅程なんだけど、更に個人的なもの以外は綺羅莉のお父様と俊介のお父様の奢りっていう破格の待遇なんだよな。本当にいいのだろうか?


「気にすんなよマコちゃん。うちの親父は俺の友だちにいい顔したいだけなんだからさ」


「わたしの父も同じよ。わたしがお友だちを招待するなんて初めてだから張り切っておもてなしをしたいだけなのよ」


 それを額面通りに受け取るのは憚れるけど、所詮、僕らは庶民の子なので今回は思いっきりゴチになります!


 🏠


「三泊四日の旅行なんて初めて!」

「僕も修学旅行ぐらいしか長い旅行って行ったことないな」


 季里と二人で明日からの旅行の準備を急いでいる。別荘で洗濯などは出来るみたいだけど、みんなに下着とか見せたくないしね。だからどうしても持ち物が多くなる。


「二人でこの一つのキャリーケースでいいよね?」

「そうだね。八人乗りの車って言っても荷物はそんなに乗らないだろうから持って行き過ぎは良くないだろうね」


 季里が我が洋館にやってきた時に持っていたキャリーケースに二人分の着替えなどを詰め込んだ。けっこうパンパンになったな……。


「よっしゃ終わりだな。さて寝るか」

「え? まだ大事なものが残ってるから寝ちゃ駄目だよ?」


 大事なものが残っている? なにか忘れ物でもしただろうか? 歯ブラシセットも持ったし、水着だってしっかり入れたよなぁ。はて? なんだろう。


「明日から三日三晩えっちできないんだよ⁉ 今夜三日分みっちりクチュクチュしないと干からびちゃうよ?」


「どこが干からびるって?」

「え? おま――」


「っ! 言わなくていい! わーった! わーった! しっかり潤いを与えておかないとね!」


 明日の午前中はほぼ移動だけだって話だから最悪寝て過ごそう。僕も刺激的な水着姿を見せられると大変だからスッキリとさせといたほうがいいかもね。って何を考えているのだか……。


 🏠


「おはよう!」

「おはようございます。誠彦くんたちが一番乗りね」


「綺羅莉先輩今日から四日間よろしくお願いします」

「季里ちゃんもよろしくね」


 僕たちの荷物はドライバーさんがすっと持ち上げて車の後部に仕舞ってくれた。ドライバーさんお名前は真田さんといい、二〇代後半のナイスガイって感じの人。


 普段は綺羅莉のお父様が移動時する時の運転を任されている人なんだって。またすごい人を僕たちにあてがってきたな。



 水美と遊矢、俊介、凛ちゃんの順でやってきて、全員が集合した。


「では、車に乗りましょう」

「「「おー」」」


 取り敢えずの席順は男どもが最後列で、季里、凛ちゃん、水美が二列目。真田さんとも面識のあった綺羅莉が助手席に座った。途中の休憩で席替えはする予定だ。


「では簡単に今日のルートをご説明します」


 発車直後に真田さんからアナウンスがあった。真田さんはマイクを付けているようで、スピーカーから鮮明に声が聞こえてくる。親切でいいなこれ。


「まずはこの後直ぐに関越自動車道に乗ります。一区間で首都圏中央連絡自動車道へ進路を変え海老名までそのまま行きます。海老名で東名高速道路に乗り換え、そのまま沼津まで参ります。その後は一般道を通り沼津港まで向かいます。途中にサービスエリア等で休憩を取る時間も含めて概ね三時間ほどの行程となります。途中、予定外でもトイレ等のご希望がありましたら、早めにお声がけお願いします」


 立て板に水な説明を頂いたが、僕たちはテンションも高くワイワイガヤガヤとうるさくしてしまった。ほんとすみません! ちょっと浮かれてます!


 綺羅莉がカーオーディオで音楽を掛けてくれたのでみんなで合唱したりして大盛りあがりだったのだが、一度目の休憩を挟んだ頃から男どもは大人しくなり、僕にいたってはいつの間にか寝てしまっていた。やはり昨夜の三回戦はかなり効いたようだ……。

 途中で席替えの予定だったけれど、綺羅莉と二列目シートの女の子三人のトークは終わりを知らず盛り下がることは一切なかったため沼津に着くまで席替えはなかった。


 🏠


「うわ~! 海っだぁ~」

 これは水美の反応。


「海の匂いだな」

 遊矢、リアクションが相変わらず薄いな。


「俺、腹減った」

 俊介、この後飯だってよ!


「寝て起きたら海だった件」

 僕。結局ずっと寝ていた。


「誠彦さんずっと寝ていたもんね」

 うん、季里さん。あなたのせいですけどね?


「あたし、せんぱいたちと知り合えて幸せでっす」

 良かったね凛ちゃん!


「真田さん、お疲れ様です。二時間ほど食事や観光に行ってまいりますので、真田さんもお昼休憩にしてください」


 綺羅莉は一応ホストってことなので、真田さんの方にも指示をしていた。こういうところはやっぱりしっかりした子なんだな。


「みんな、なにか食べたいものなどあるかしら? 場所が場所なので基本的に食べるのは魚介類になるけれど」


「はーい! はいはい! はいっ、ウチ食べたいものありま~す! あのね、この前テレビで見た円柱状のかき揚げ――――」


 水美のリクエストに応えて円柱状のかき揚げがある店に行ったけど、まあすごかったね。円柱っていうよりタワーだよ。

 僕と季里は海鮮丼とそのかき揚げ丼を頼んで、半分にして分け合ったよ。美味かった!


 食後は腹ごなしにへんてこな深海水族館に行ったり沼津港の入り口にある大型展望水門に登って景色を楽しんだりした。


 初日から楽しすぎるんですけど!

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