第32話 浮気の確認方法
「たっだいま~」
「おかえり。いいもの買えたかい?」
「もうバッチリ」
「どんなのを買ってきたんだい?」
「ええっとね……おっと、教えないよ! すごくいい水着を買ったから乞うご期待! だよ」
疲れ切ってリビングで寝転がっていたら、日が沈む頃になってやっと季里が帰ってきた。
水着か。僕も今日は白石さんと買い物に行ってきたことは話しておいたほうがいいよな。以前話さなかったときはちょっと怖かったし……。
「実はさ、今日クラスメイトの女子と一緒に買い物に行ってきたんだ」
「……なんと? 今なんと言った? 誠彦さん」
そういいながら僕の周りをクンクンと匂いをかぎながら一周した。
「はい。誠彦さんシットダウン! そうだな、正座!」
「え?」
「だから、誠彦さんはここに正座して」
「あ、はい」
僕は季里の座るソファーの前に正座させられたので、季里のことを見上げるような形になった。逆に見れば季里に見下されていることになる。なんか圧迫感あるな。
「で、その女と出掛けたのは二回目だね」
「え? どうして?」
確かに、アイスを食べたときと今回で二回目なのは間違いないな。
「匂い。そのフローラルな香りは二回目。最初はなにかの間違いかと思ったけど、誠彦さん、まさかと思うけど浮気しているのかしら?」
「いやいやいやいや! それはない! 絶対にそれは、ない! 信じて!」
待て待て! 疚しいことは一つもしていないのだからこんなに慌てる必要はないんだ。慌てるから余計に怪しくなっちゃうんだよ!
「まあ私も狭量な女ではないから、ちょっとやそっとじゃ怒らないし気にもしないけどね」
ぜってー嘘だよな。空気、めちゃピリピリしてますよね!
「それで、そのクラスメイトの女子とやらと何を買ってきたのかしら?」
「えと……
「は? 聞こえないんですけど!?」
なんとなく気づいてはいたけどクラスメイトの女子の水着を選んだのはやっぱまずいよな……。
でも誤魔化しても誤魔化しきれないことは明白で。ここはやはり男らしく――諦めよう。
「水着を買いに行きました。僕がその彼女の水着を選びました!」
『ばっちこーん!』
季里のフルスイングの右手が僕の左の頬にクリーンヒット! メタクソ痛い!!
「恋人の私の水着は選ばないのにクラスメイトの可愛い女の子の水着は選ぶんだね! もうサイテー!」
ええ!? 季里はその時が来るまで水着は絶対に内緒って言っていたじゃないか? 季里の水着を選ばなかったのは僕の所為じゃないよね? ねぇ⁉
それにクラスメイトの可愛い女の子ってなに? どこから可愛いの要素出てきたの?
「なになになにぃ? 誠彦さんはその子にどんな水着を選んだのよっ!?」
「その子は背が高いの? スタイルいいの? おっぱいおっきいの? お尻はきれいなの⁉ ねぇ! 答えなさいよ」
僕の襟首を両手でつかんでブンブン前後に振り回す。僕は首がガクンガクンなって目が回りそう……タスケテ。
暫くの間このような尋問が続いたのだけど、漸く怒りが落ち着いたかと思ったら今度は拗ね始めた。
「なんでその子のこと隠していたの? 私よりもその子のほうがいいの? そんなにかわいい子なの? 私じゃ満足できないの?」
正座は解かれたので、季里の横に座って肩を抱きながら反対の手で季里の頭を撫でる。
「嫌な思いさせてゴメンな。僕の噂を否定して仲良くしてくれるので、ついつい付いていってしまったんだ。もう二度と彼女とは出かけないよ」
「ううん。そんなことはしないで! せっかくのお友だちなんだから仲良くしてほしいの。さっきのは私のヤキモチだから……私こそごめんね」
「そっか。季里もかわいいな、僕にヤキモチを焼くなんて」
「だって、誠彦さんが他の人に盗られちゃったらいやだもん」
季里は僕の胸にグリグリと自分のおでこを擦り付けて甘えてくる。さっきまでのおっかない季里が嘘のようなしおらしさだ。これもこれで可愛いのでいい。
まったくもって情緒不安定かよって思うけど、そうさせたのは僕の不甲斐なさが原因なので反省しかない。
この後季里はとんでもなく甘えん坊になり一時も僕から離れなくなってトイレの中までも付いてこようとしていた。さすがにそれは止めたけど……。
二人でお風呂に入ってそのままベッドに移行して、まずは一回戦終了したところでやっと季里の情緒が戻ってきた。
「いっぱい出たね。なんだやっぱり浮気はしていなかったんだね」
「だから最初からそう言っているじゃないか」
出た量で浮気の確認をするとは思わなかった。まだ疑っていたのかよ……。
「そっか。疑ってごめんね」
「まあいいよ。僕も不用意な言い方をしたしね」
女子と二人で買い物に行ったと聞かされればデートしてきたみたいに思われても仕方なかったな。これは本当に言葉が足りなかった。
「あのね、季里。今日買い物に行った白石さんていうのは――」
落ち着いて話を聞いてくれるようになったので白石さんと何があったのかと彼女のざっくりとした人となりなどの足りていなかった説明をした。
「いい人っぽいね。氷姫って凄いあだ名だけど」
「ちょっと変わっているかもだけど、悪いやつじゃないことは確かだよ。彼女の若干マイペースなところが僕は苦手なのかもしれないけど」
なんとなく誘われると嫌だとは言いづらい雰囲気を持ってくるんだよな。断る前にふわっと話を進めちゃうしさ。
「ふ~ん。じゃあこんど会わせてよ。誠彦さんと遊んでくれたお礼もしたいし」
「それってホントお礼なのかよ? あ、そうだ。白石さんが夏休みに海に僕らみんなを誘いたいって言うんだけど季里は来るよね?」
「もちろん行くわよ。それって凛とかも連れて行って大丈夫なのかな?」
夏休み中には櫻井さんとも海に行こうって約束がしてあるので、そうそう何度も海に行っていられないのでどうせなら一緒に行きたいとの意向らしい。
「さぁ? でも大丈夫なんじゃないの。行くだけなら何人でも行けるだろうし」
僕的には湘南あたりに電車に乗ってみんなで行くものだと思っていたので簡単にOKを出してしまった。
結果的に問題なかったのでいいのだけれど、まさかね。海に行くってことはあんな意味だったとはこの時は考えてもいなかったわけで。
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