第28話 ひとつに

 同棲と交際を認められた翌日だと言うのにもう誠彦さんに身体を許そうとしているなんて、なんてふしだらだと思われるかもしれない。


 確かに、ちゃんと告白したのも誠彦さんも私のことを好きでいてくれたのを知ったのも最近のことかもしれないけど私としては誠彦さんに好意を寄せてからもう数ヶ月も経っているんだよね。


 アパートが燃えてなくなったあの時、私は路頭に迷うことも覚悟していたんだ。それくらい切羽詰まっていたの。


 そんな時に手を差し伸べてくれたのが誠彦さんだった。


 最初はもちろん警戒はしたわよ。自分の容姿だってそんなに悪くないことくらいは自覚していたし。

 でも誠彦さんから向けられる視線は、容姿とか顔立ちとかに一切興味を持っていないかのようだった。ただ私の行く末を心配して彼が出来る最大限のことを私にしてくれようとしていただけだった。


 だから直ぐに分かったの、誠彦さんがとても紳士であることに。


 同じくらいの年齢の男子ってはっきり言ってがっついているし、いやらしい目をして私のことを見てくることなんかはいつもだった。

 でも誠彦さんはそういうことは一切なくて、私のことを丁寧にそして優しく扱ってくれたの。そこにはぜんぜんいやらしさとかなくて、かといって女の子に興味がないってわけではなく、私の洗濯物の下着とか見て顔を赤くしているのとか見るとただ本当に紳士なんだって思ったの。


 私、というか女の子全般に対して同じなんだろうけど、真摯に向きあってくれて、なんか女の子の扱いに慣れているなって感じは少しだけ思った。

 まさかその理由が、後から思えば既に女の子との経験があったからだなんて思いたくはないけど、たぶんそういうことなんだろうな。


 で、そういう誠彦さんを見て、話して、触れて、感じて私は彼に惚れてしまったの。もう出会った直後に落とされていたと言っても過言ではない。ちょろい女って言われてもかまわないわ。


 それからの私はもう毎日キュンキュンしちゃって大変。寝癖を付けたまま朝ごはんを食べる姿も可愛いし、一生懸命勉強に励む横顔はかっこいい。棚の上の方のものをとってくれるのは素敵だし、ソファーでうたた寝する寝顔は尊い。


 要するに誠彦さんに首ったけ、というやつだ。どんどん好きになっていったの。


 もう隠すのにどれだけ苦労したか。もういつ襲われてもいいようにあちこちにエサを撒いていたのに全然引っかからないし、私だけ盛り上がっているようで恥ずかしかったよ。



 もう我慢ができないよ~ってなった時にちょうどよく親友の凛ちゃんのナイスなアシストがあって告白めいたことを匂わしたら誠彦さんったら慌てちゃって! 私はその反応を見て『これは押せ押せだな』って思ったので、その夜には好きって気持ちをちゃんと誠彦さんに伝えたの。


 でもそのせいであんな話を聞くとは思ってもみなかったけど。


 その代わり、誠彦さんの悩みや心配事も分かったし、何より私のことを可愛いと思ってくれていたこと、好きでいてくれたことなども分かって良かった。


 ただ元カノの存在にはショックを隠せなかった。むっちゃ誠彦さんに詰め寄って色々聞いちゃったしね。


 でもなぁ。すでに経験済みだったなんてね。眼の前真っ暗になった感じだったもん。思わず「セックスしたのか」って直接的に聞いたくらいには私も動揺していたってわけよ。


 あ~あ。私が最初の女になりたかったなぁ~ 誠彦さんが中二の頃かぁ~ 無理だなぁ~ 出会うことすらなかったもんね。ここは素直に諦めよう。



 この後うちのお父さんの緊急帰国があったり、誠彦さんの実家にお願いに行ったりしてどうにかこうにか誠彦さんの懸念事項は解消した。


 ってことはですよ。


 もう我慢はしなくていいってことだよね。やたっ!


 私、毒島季里はかなりえっちである。これは事実だし、自覚もしている。

 あと、多分だけど、性欲が強いほうだと思うの。他の人と比較したことがないからわからないけど。だって凛ちゃんにもこんなことは聞けないじゃない?


 お父さんに会う前の日なんて緊張したふりして一緒のベッドに寝たくらい。本当はその時に誠彦さんを襲っちゃいそうになったけど、我慢したわ。

 でも翌日には我慢できずに「もう、ケチ! もっとイチャイチャしたい~ えっちなこともしたい~ せめて、ちゅ~だけでもしたい~」って言っちゃったけどね。その後誠彦さんに叱られただけだったけど。


 あとね、誠彦さんも酷いのよ⁉ はっきりとはわからないけど、外で女の匂いを付けて帰ってくるんだもん。あれは絶対に女よ。誠彦さんに限って浮気はありえないだろうけど、他の女も誠彦さんのことを狙っているかもしれないわ。早く既成事実を作って私の虜にしないといけない。


 それが理由ではないけど、誠彦さんのご実家に行くことを促したの。そしたら直ぐに行動してくれるの。やっぱり誠彦さん素敵。


 今度こそ無茶苦茶緊張したけれど、ご実家の皆さんはとても気さくで良い方々だったの。私も直ぐに緊張がほぐれたわ。

 で、私たちのお話は順調に進んで、お父様お母様にも一緒に暮らす許可を頂いたの。


 オールグリーン!


 異常なし、問題なし、障害なし! 針路は未来へ。私たち二人の未来は輝かしい! やたっ! いやっほい!


 一つのおふとんに入って誠彦さんと初キスしたあとはムラムラして仕方なかった。もう誠彦さんが欲しくて大変だった。


🏠


「どうしたの? やっぱり緊張しているのかな……昨日の今日じゃ止めておく?」


 早めのお夕食と入浴を済ませて、今は誠彦さんと一緒にベッドの中。私はあまりにもこの状況が感慨深く、今までの道のりを振り返ってしまっていたわ。


「ううん。大丈夫だから止めるとか言わないで」


 ほんのちょっとだけ緊張して、すこーしだけ怖さもあるけど止めては欲しくない。やっと誠彦さんとひとつになれるって時が来たのだから。


「わかった。季里……」

「誠彦さん……ん……んん……ぁ……んちゅ」


 キスがいつもよりもずっと激しい……ああ、頭の中がぽ~っとしてくる。身体も熱い……。


 誠彦さんの指が、唇が、舌が私の身体に触れる。その度に私の体はビクリと跳ねてしてしまう。


 指の先からつま先まで全身全てを誠彦さんに委ねる。お腹が熱い……もうがまんできない。耐えられない。


「誠彦さん……きて、」


 あの時はすっごく痛いって聞いていた。ネットの又聞きと小耳に挟んだ情報だけだけど。なにしろ、私の周りには経験済みの子が一人もいなかったので。


 確かに痛かったけど言うほどの痛みはなかった。血だって滲んだって程度。


 もしかしかしたら誠彦さんが上手だから⁉


 上手になった理由は、なんか腹がたつので、考えないこととする。


 身体的な気持ちよさはまだよくわからなかったけれど、精神的な気持ちよさは言い表しようがなかった。


 誠彦さんとひとつになれた喜びは計り知れない。最高にいい初体験だったと思う。


 あとね。誠彦さんが果てる時の顔、見ちゃたの。すごく可愛かったです。


 あ~あ。またしたくなってきちゃった。

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