第12話 田舎ヤンキー
「じゃ、そろそろ帰ろうか?」
「うん。すごく楽しかった!」
「そりゃ、良かった。僕も楽しめたよ」
「帰りって誠彦さんの家に寄っていかない? 近いって言っていたでしょ?」
「行かないよ?」
急に実家に女の子を連れて帰ったらそれは大騒ぎになってしまうって。以前も会わせたわけじゃないけどそれなりに騒いだんだからまたそうなるに決まっている。
なので、絶対に断る!
「そっか。じゃ、せめて近くを通って帰るのは?」
「……まぁ、それくらいなら」
「じゃあ決定! 帰りは誠彦さんの家の近く経由で帰宅だね!」
「峠を越えるから、ちゃんと掴まっていてくれよ。行きとは違ってうねうね道だからね」
原二スクーターのタンデムで登れるかは分かんないけど、それほど厳しい峠じゃなかった気がするから大丈夫かな? 確か牧場まで上がりきれば後は下りだったような気がする。あまり覚えていないけど……。
暫くの間は広めの坂道を登っていくような感じで特徴のない田舎の山道が続く。
「ここら辺から峠道に入るから、ちゃんと掴まっていてよ」
「はーい」
「あと、身体が左右に傾くけど、怖いかもしれないけど反発して反対側に身体を起こそうとしたりはしないでね。安心して僕に身体を預けてね」
「誠彦さんを信頼して、身も心も預けます」
余計なこと言わないでいいですからね⁉
峠を登り始めて一〇分ぐらいでピークを越え後は下りのみ。どっちかというと下りの方が神経を使う。
カーブを何個か曲がっていくとチラホラと民家が出てくる。その中には友だちの家があったりするのだけど、今だけは絶対に顔を出してこないでもらいたい。
友だちの間なら村のナンバーを付けたスズキのスクーターってだけで僕だってバレてもおかしくない。それが女の子とタンデムしていたらからかわれるのは必至だと思う。
祈るような気持ちで走ったのだけど、運良く誰にも会わずに県道十一まで出た。祈りが通じたのか村人とは誰とも遭遇はなし。
「あっちの山を入ったところが僕の実家」
「ふ~ん。今度連れて行ってよね」
「やだよ」
「ケチ」
🏠
多分実家からそれなりに離れたので気が抜けていたのだと思う。僕らは村にはそう数の多くない信号の一つに珍しく捕まって停車した。
そんなときに後ろから近づいてきた赤いアルトワークス。マフラー音がブボブボ喧しい。
ブッブー‼
急にけたたましくクラクションを鳴らされてびっくりしてバックミラーを見るとニヤニヤした顔がそこに写り込んでいた。
じゅん兄ちゃんだった。
「よう! マコ。久しぶりじゃん」
「あ、ああ。じゅん兄ちゃん……………久しぶり」
じゅん兄ちゃんは僕に声を掛けているけど、目線は完全に季里の方を捉えて離さない。目も口もこれでもかって言うくらいにニヤついている。
「茶店行こうぜ。そこの」
「あ、ああ。うん……」
「誠彦さんの知り合い?」
「うん。中学の時の友だち。いちおう先輩なんだけどね……」
最悪だ。
選りにも選って口が軽いので有名なじゅん兄ちゃんに会うなんて……。もう終わった……。
喫茶店の駐車場にバイクを停める。季里を先に下ろし、ヘルメットを受け取ろうと手を伸ばす。
季里がフルフェイスを取ると、ひゅ~っと言う口笛をじゅん兄ちゃんが吹く。止めてくれ、田舎のヤンキーみたいじゃないか? あ⁉ 田舎のヤンキーそのままだったわ。
席についてコーヒー三つ頼む。早く過ぎてくれ、この時間……。
「季里、この人じゅん兄ちゃん。二個の上の友だち」
「マコ! なんだよその雑な紹介は? で、こっちの子はおまえのこれか?」
じゅん兄ちゃんは自分の小指を立てて僕に聞いてくる。もうホントこの田舎ヤンキーがよっ‼
「違うよ。高校の後輩だよ。今日は遊びに行きたいって言うから長瀞まで行ってきた帰りだ」
「毒島季里です。よろしくお願いしますっ」
ペコリとお辞儀する。こんな奴にお辞儀なんてもったいない!
「流石、都会の進学校は女のレベルも違うよな。オレの行った工業高校なんてへちゃむくれしかいなかったぞ」
おいこら。失礼すぎっぞ! この田舎ヤンキーがよ!
「ごめん、季里。この通り田舎ヤンキーなんで、こいつの言うことは全部無視してかまわないからな」
「おいおいマコ、ほんとひでーな。あ、季里ちゃん、オレ綾小路純一こいつの兄貴やってます」
「おい、じゅん。嘘ついてんじゃねえよ。お前の苗字は僕と同じ桒原だろうが! それにお前は兄貴じゃないし! ただの従兄弟だし!」
「あははは! 誠彦さん、面白い! いつもと口調違うし、たのし~」
「………」
「なんだよマコ。おまえあっち行って気取ってんのか?」
「違うわっ! ちょっとじゅん兄ちゃん、こっち来い」
一旦、じゅん兄ちゃんを店の外まで連れ出して余計なことを言わないように釘を刺すことにする。こいつの口を完全に閉ざすのは無理だけど、季里に余計なことだけは聞かせたくないんだ。
「あの話は絶対に出すなよ」
「あの話って、去年の夏のやつか?」
「そうだ」
「言っちゃまずいのか?」
「アレのせいで学校での僕の立場はあまり良くない。わざわざ心配かけるようなことを彼女に聞かせたくないだけだ」
「ふ~ん。まぁ、弟分を陥れて面白おかしくしようとはオレも思わないからな。ん、分かった。ぜってー言わないから安心しろ」
「おう」
こういうところは、じゅん兄ちゃんは話が早くて助かる。
「あれは言っていいのか?」
「あれって?」
「中学んときのマコの女関係の話」
「それもゼッテー止めろよなっ‼ 話したら殺すからな」
「くっくくっく……。わーったよ」
やっぱりこいつは駄目だ。人のことからかって楽しんでいやがる。
ちゃちゃっと打ち合わせして元の席に戻る。すでにコーヒーがテーブルに用意されていた。
「ナニ? なんか大事な打ち合わせなの?」
「まあ、兄弟の内緒話ってことで、な? マコ」
「……そうだね。季里は気にしないでくれるとありがたい」
「ふぅん。まあいいけどね。そういえば、誠彦さんってマコって呼ばれているの?」
あ、その話もしてほしくないかも? 目でじゅん兄ちゃんに止めてくれと訴えかける。
「わかってるってマコ。あんね、季里ちゃん。こいつ、こいつの母ちゃんにマコちゃんって呼ばれててさ、そんでみんなダチはマコって呼ぶようになったんだよ。な? マコちゃん!」
だ~か~ら~言うなって訴えていただろうが! この田舎ヤンキーがよっ‼
「ごぅるぉらぁ~ マコちゃん言うなぁ!」
★★★
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