第25話

「おはようございます」

「おはよー」

いつものように挨拶をして、いつものように授業をする学校生活。

「ここの英文は、訳すよりも意味を考えた方が分かりやすいかも」

講師室の前では向月先生が生徒に教えている。こういう時にどんな顔をしていいか分からなくなってしまったし、めちゃくちゃにされる時のことが頭によぎってしまい自分が気持ち悪い人だと感じてしまう。

「茉裕?どうした?」

「あぁ、ごめんなさい。ちょっとぼぉっとしてた」

「大丈夫?」

「うん」

実佳が心配そうにしてくるものだからニコニコと笑いながら歩く。


 家に帰ると、お兄ちゃんの部屋のベットのギシギシとなる音と肌がぶつかる音が聞こえてきた。また始まったと思いながら、リビングのソファーに座ってテレビをつける。

 以前はなんとも思っていなかったけど、自分も先生とそういうことをするようになってから、なんだか複雑な気分になってしまった。

 今日は風李さんの淫らな声が沢山聞こえる。声までも兄弟揃って似ているような気がする。なんだが聞いているのが将次さんに申し訳なくなってきた。

 風李さんは今日は家に泊まるとガラガラの声で言って、そのままお兄ちゃんと眠ってしまったため、私は一人でご飯を食べてお風呂に入る。

 去年は風邪を引いて、向月先生が看病してくれた時期になったなと思う。

 湯船に浸かりながらそんなことを考えていた。

 実際してから分かることだが、お兄ちゃん達は、性交の回数が多くてビックリする。疲れないのか?私はすぐに果ててしまうから、先生を満足させられているのか分からないのに、体力がある方なのか無理をしているのか……分からない。

「茉裕ちゃん、もう寝るの?」

と言うとことか

「痛い?」

とか、最中に聞いてくるとことか、本当に私に満足してくれているのだろうか?

それだけが全てじゃないのは分かっているし、自分が浮かれ過ぎないようにしなくてはいけないし

「どうしたらいいのかな」

小さい声で呟いた。


 「もう、四月だよ」

「そうですね」

「来年の今頃は茉裕ちゃんも大学生か専門学校かに行く準備してんのかな」

「留年しなかったらですけどね」

「大丈夫だよ」

と、先生は笑う。

 少し都心の桜を見るために先生は車を運転してくれている。

「先生は、私が生徒だから我慢してることだって沢山あると思うんで早く卒業したいです」

先生は少し私の顔を見て再び前を見て運転を続ける。

「それは君もでしょ」

「将次さんは私より大人ですので、きっと色々考えてると思います」

「そうだね」

「先生?」

「ん?」

「先生って、私のどこが好きですか?」

「全部」

「え?」

「嘘。まぁほんとだけど、一つって言われたら、強くないのに直向きに無理ばっかりして甘え方が分からなくなってた高一の時より、君が素直になってくれたところかな」

「そうだったんですか……」

「後は、君が僕のことを好きでいてくれてるっていうのが伝わってくるところが好き。兄さんのことをずっと見てる時もあるみたいだけど」

「好きですよ。将次さんも」

「はいはい」

と、先生は優しく微笑む。

「茉裕ちゃんは、僕にどうして心を許してくれたの?」

「……風李さんとは違う優しさを感じたからかな」

「そっか」

先生は、信号で止まった時に私の頭を撫でてくれる。

「先生の好きがすごく伝わってどうかなってしまいそう」

「僕もだよ」

車を走らせる。

「将次さん、生徒に人気だから今年の生徒にも好かれそうですね」

「そうなの?」

「そうですよ」

「興味がないよ」

「少しはもってもいいですよ」

「君がいるだろう?」

「それはこれ、それはそれ」

「……そう言って茉裕ちゃん、可愛くなってるから。変な人に絡んじゃダメだよ」

私はふふっと笑う。

「茉裕ちゃん、可愛い」

先生も笑った。

「着いたよ」

「綺麗!」

「うんうん」

二人で見上げる。

「写真撮ろうか」

先生はスマホを取り出して桜と私の写真を撮った。

「私はいいんですよ」

「えー」

周りには私より大人のカップルや女子友達や家族連れがいた。

「ツーショットは?撮らなくていいんですか?」

「僕、そんなにかっこよくないからなぁ」

「イケメンですよ」

そう言って寄ってピースをして、シャッター音を鳴らした。

「風李さんから貰ったカメラもあります。写真沢山撮りますね」

「どうぞー」

並んで歩いた。将次さんははいつものように優しい笑顔を向けてくれる。

「先生の時とは対応が違いますね」

「そう?」

「先生の時は塩対応ですよ。その方がいいのでそのままでいいんですけど、他の生徒達が可哀想。絶対先生が好きですよ」

「僕は、茉裕ちゃんしか見えていないよ」

私の手を握ってくれる。

「本当に興味がないんですね……」

「うん」

と言って手を繋いで歩き出す。

桜がひらりひらりと舞い散っていた。

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