第14話

 空や風の心地はすっかり秋だと感じる……いや、もうすぐ冬かとも感じられる十一月。お兄ちゃん達は

「すっかり寒くなったね」

と口癖のように言っている。そんなことないのではと思うが、確かにお風呂に入るために全裸になると、嗚呼寒いなと思う。

 お兄ちゃんはいつものようにケーキを作る。今日はお兄ちゃんの働いているお店の秋限定の洋梨タルトを作っていた。キラキラと輝いているように見える洋梨タルトはバターの香ばしい匂い、絶妙な焼き加減のタルト生地がとても美味しく感じる。お兄ちゃんの案が少しだけ採用されたらしい。お兄ちゃんを風李さんと私で褒めると、照れ臭そうに

「二人は優しいな」

そう言って洋梨タルトを食べた。

 冬服をクローゼットの奥から出して着れるか確認している時、友達に触れる手が少し冷たいなと感じた時、もうすぐ冬だなと実感する。後、一ヶ月もすれば子供やカップルが喜ぶクリスマスが近い。そしてその後は……いや考えたくもない。佐名家にはある人が帰って来て空気が重くなる。


二学期最後の定期テストが終わり、街はクリスマス一色になる。イルミネーションだったり、スマホのニュースではプレゼントの話題だったりクリスマスケーキの話題だったりが記事で流れてくる。お兄ちゃんから私へのプレゼントはいつもショートケーキで、私からお兄ちゃんにあげるプレゼントは肩たたき券。毎年決まっていること。風李さんもプレゼントをくれる。だが、佐名家には私の終業式が近づくに連れ、ますます嫌な空気が流れる。どんよりと重い空気。終業式が終わって学校を出るとメッセージが届く。メッセージを送った相手は

『お父さん』

嫌な空気の原因。お兄ちゃんがお父さんのことをとことん嫌っているため、お兄ちゃんの機嫌は最近マックスで悪い。しかめっ面で風李さんに

「茉裕ちゃんが怖がるよ?」

と言われても

「別に」

と言って不機嫌。風李さんは少し参ったような顔をして私と目を合わせて申し訳なさそうな顔をする。風李さんはあまり関係あるかと言われたらそんなことはない。家族ではないのに……。まあ、風李さんも家族みたいなものだが、それとこれは違う。


 クリスマスは風李さんも来てくれた。

「はい、茉裕ちゃん。プレゼント」

「毎年すいません」

「いいんだよ、お世話になってるから」

中身は櫛と

「カメラ?」

「嗚呼、俺が昔買ったんだけど、新しいのあるし、弟は使わないっていうから。いらなかったら誰かにあげるなり好きにしていいよ」

「いえ!欲しいです」

「そっか」

風李はにこりと嬉しそうに笑ってくれた。

「さあ、望が作ったケーキ食べよ」

「今年は何ケーキだと思う?」

「え、ショートケーキじゃないの?」

「今年は違うんだよ風李」

お兄ちゃんがケーキを持ってくるなり

「お、ストロベリーのクリームのロールケーキ!今年は違うんだー」

「茉裕のリクエスト」

「どうしてこのケーキにしたのー?」

「いちご、好きだから」

「お、女の子らしい」

風李さんはお皿を取るため立ち上がった。

 クリスマスは少し贅沢をする。お兄ちゃんが作ったケーキにファーストフード店のチキンとポテトにサラダを食べる。そこには風李さんも毎年来るようになった。

「「いただきます」」

リビングには私が小さい頃に買ったというクリスマスツリーが飾ってある。

この日の夜はお兄ちゃんと風李さんは出掛けると言って外出してしまうので、私が片付けを引き受ける。片付けが終わってスマホを見ると誰かからのメッセージが

『明日の夕方にはそちらに着くから』

お父さんからだった。私はなんとも言えない顔になる。私は不意に写真のフォルダをあさった。数少ない友達との写真の中には一枚だけお父さんと撮った写真があった。スマホを買ってもらったのは中学校三年の卒業前、ガラケーで撮った写真。なんとも言えない顔になる。

 世の中の目、家族の在り方、男性同士の恋愛をしているお兄ちゃんと風李さん。もうめちゃくちゃで泣き出してしまいそう。

 頼りたい。私だって、まだ高校生。守ってもらうべきだと向月先生が言ってくれたあの日、素直に嬉しかった。でも、それと同時に風李さんだったらという感情が込み上げてきた。時計の針の音を聞きながらソファーで寝落ちしてしまった。

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