if ー匂いの記憶ー

風と空

第1話 匂いの記憶

「うわぁ!寒ーい!」


「ほら、レノ。しっかり防御スーツの空調を作動させなさい」


「はーい。お父さん」


 僕はレノ。今日は待ちに待った10才の二分の一成人式の日なんだ!この日にようやく僕は『外の世界』を見ることができるんだ。もうワクワクして昨日は寝れなかったなぁ。


「おーいレノー!置いて行くなよ」


「そうよ!グループ行動しなきゃ駄目じゃない」


 友達のピートと幼馴染のカーラもしっかり防御スーツを着て僕の所に走ってくる。二人も今日が初めての『外の世界』。


 え?『外の世界』って何って?

 それをこれからお父さんに教えてもらうんだよ。


「良し、三人揃ったな。まずは三人共おめでとう。そしてようこそ歴史探索へ。今から教える事はこれから生きるうえで役立つ事だから良く見て覚えて行くように」


「「「はーい」」」


「じゃ、まずは真正面の一番デカい氷河に手を触れてご覧」


 お父さん言う様に、空にも届きそうな大きく存在感のある氷河に手を触れてみるとスッと氷河の中に入る。


 いつの間にか防御スーツは来ていなくて、真っ白な空間に普段着になった僕らがいた。


「あれ?レノの父さんは?」


 ピートがキョロキョロと周りを見ている。僕とカーラも辺りを見回すが父さんの姿が見えない。


《あー、聞こえるか?みんな。そこは擬似空間になっていて、これから『外の世界』をみんなに体験してもらうからな。父さんは案内役だからそこには行けない。注意事項は特にないが気分が悪くなったらすぐに教えるんだぞ。じゃ、始めるからな》


 父さんのアナウンスが終わると、シュッと現れた建物や人々や匂い。父さんの話によると、《日本》ていう国の《東京》って都市だって。


「すっごい人。こんなに人いたんだねぇ」


「なんか変な匂いする」


 ピートが驚き、カーラが鼻を摘んでる。空気清浄機能なかったのかな?


 父さんによると、この時はまだ文明が発達してなくて、空気汚染物質がそこら中に蔓延してたんだって。でもね、食に関しては今より良かったんだって。


《取り分けこの匂いはたまらんぞ》


 お父さんがいうとすっごい香ばしい色んな匂いが混ざった美味しそうな匂いがしてきた。《カレーライス》っていう食べものみたい。なんかドロドロしてる。


 国によって色々な種類があるみたいで、次々届く匂いで僕達もついお腹抑えちゃった。僕らのエリアではない物だしね。因みに今は資源節約しているからメイトっていうパンが僕らのご飯。すぐお腹いっぱいになるし、栄養いっぱいで美味しいんだ。


 あとは甘ーい匂いもしてきたよ。これは《チョコレート》っていうお菓子だって。うわぁ、パキッって音がしてる。堅いのかなぁ。でも美味しそう。


 僕らのおやつも甘ーいコンフェっていうのがあるんだけど、味はこれに近いんだって。もっと甘いのかなぁ。


 映像と匂いで色々な物を見たよ。綺麗な景色や《海》っていう水の中まで。シオの匂いがするなんて変なの。


 そしてね、《戦争》っていう映像も出てきたよ。次々と映像が変わるけど、《恐ろしさ》って事を知る為なんだって。


 僕ら三人の近くで映像だけど…… 空から降って来た物が地面に落ちて爆発したり、建物が崩れたり、人が飛ばされてたり…… 余りの事で泣き出しちゃったんだ。


 フッと全ての映像と匂いが消えて真っ白な空間に戻った時には、安心してより泣いた。


 お父さんのアナウンスで出てくる様に言われて、光る出口に歩いて行った。外に出るとちゃんと防護スーツ着てたけど、三人共お父さんにぎゅっと抱きついたんだ。


 お父さんは僕ら三人の頭を一人ずつ撫でながら「その思い忘れるな」と優しい声で慰めてくれた。


 それにね、こんな事もできるんだってもう一つの氷河につれて行ってくれたんだ。その中の擬似空間では、暗い空一面に丸い光が次々と出てきてたんだ。ヒュゥゥゥゥドオオン!って凄い音を出しながらね。


 僕らは余りの綺麗さにワーワーキャーキャー騒いでいた。《花火》っていうんだって。最後は何発も一斉に空に上がって綺麗だったんだ!


 終わって出口から出てくると、僕らは興奮してお父さんに抱きついたんだ!でも《戦争》の時に似た匂いが《花火》からもしたってピートが言うんだ。僕もカーラもそういえばそうだねって顔を見合わせてたんだ。


 お父さんがにっこり笑ってピートの頭を撫でて


「良く気付いたな、ピート。いいか覚えておくんだ。モノは使い方によって人を喜ばすものにも、苦しめるものにもなるんだ」


 って言ってたんだ。


 僕らは、わかった様なわかんない様な感じで顔を見合わせていたけどね。お父さんは三人の頭を撫でながら「いずれわかるさ」と言って僕らの住む火星の通信センターへ連絡をした。


 そう、僕らの住む火星から「ポータル」って装置で氷の大地が広がる「地球」って星の「日本博物館」に来てたんだ。


「地球」は元は人が住んでいた星だったらしいけど、資源を使い果たした結果、気候が狂って人が住めない「氷河期」が到来したんだって。


 今もまだ氷が広がる星だけど、少しずつ元に戻りつつある事が観測されてる。


 僕らのご先祖さまが火星に移住して来る前は「地球」って星にいたんだって。だからいずれ復興した「地球」に戻る計画も進められているよ。


 僕らが大きくなる頃にはどうなっているかなぁ。


 でもね、思ったんだ。


 僕らが未来に残す匂いには、悲しい思い出が無い様にしようってね。

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