第27話◉工藤との決着
27話
◉工藤との決着
今日もまた『ラッキーボーイ』に出勤だ。最近はずっと西船橋のこの『ラッキーボーイ』への出勤ばかりだ。はっきり言って闇メンを雇うのは安くないから(会社に行くお金がいくらなのかは知らないが闇メン本人への時給1000円以外にもお金がかかっているのは確かだ)そんな事するよりは普通の従業員を募集すれば?と思うが、気に入ってくれたのならそれは嬉しいことだ。
出勤してしばらくすると今日も工藤ツヨシが来店した。先日は旗色悪しとみるや勝ちが溶ける前に退散した工藤だったが今日の戦いはどうなるだろうか。
「やあ、工藤さん。今日はたくさん打てるのかい?」
「椎名くんか。今日は一日中暇なんだ。飽きるまでやろうじゃないか」
お客さんも来たのでゲーム開始
東家 一般客
南家 工藤
西家 椎名
北家 従業員(メンバー)
工藤と椎名は工藤の下家に椎名という座順だったのでマスターはその間に椅子を引っ張ってきてベストポジションで観戦していた。
そこで見て初めて分かる、椎名の麻雀の精密さ。
(これは強すぎる)マスターはそう思ったという。
椎名は別に連勝はしてなかった。しかし、必ずオーラスのトップ争いに参戦しており圏外に落ちたりしない安定した強さを見せつけた。
一方、工藤はラスだけは取らないようにしようという考えが見て取れる仕掛けやダマが多くそこに椎名と工藤の差が現れていた。
工藤のような強さも確かに厄介だが本物の強者はどんな困難も乗り越えてNo. 1を目指すものだ。そんな力強い麻雀を見せてくれるのは、椎名だった。
そして、この手
椎名手牌
四伍六②②③③③34(888)ドラ4
この局に椎名と工藤の格付けが済んだなと感じた決定的な瞬間をマスターは目撃する。
椎名の捨て牌には5巡目に伍が捨ててある7巡目。ここに椎名は伍を引いてきて手の内にある方の伍と交換した。
そして親の工藤は三を引いてくる。
②③⑤⑥⑥⑦789東東南南 三
(これは、切れない…。5巡目に一度手から伍を出している椎名がさらにもう一度手から伍。一度目はテンパイしたから。二度目は赤伍萬を引いたから交換したと考えるのが妥当だ。だとしたらそこの跨ぎ牌はド本命だ。止めるしかないな)と三を止めて一旦狭く構える工藤。
(ピンズ上は育ちそうだったんだがな…)
打⑥
すると工藤の次のツモは七。
(同じ理屈でこれもムリだ。どちらかは当たる。どちらかは通るが、どちらかは当たる。どうする。南場の親だが…)
「すいません…」
長考に入る工藤。どちらかを押さないとトップは取れない。それは分かるが、どちらも椎名の本命に見える。
(…怖い。放銃や点数がということじゃなくて。これ以上負けたらプライドが砕かれる気がして…押せないーー)
打東
工藤はどちらも押せないとし諦めたのだ。椎名の伍の空切りによって。
「ツモ!ゴットー!」
(嵌められた!黒から黒の空切りで本命牌を作り出すとは…とんでもないな)
この日この局を境に工藤と椎名の決着が着いたと、マスターと工藤本人は感じてしまったという。椎名はそんなことは微塵も感じていなかったのだが。知らない所で他人を倒して、格付けを済ませている。天才とはえてしてそういうものなのであった。
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