第23話◉胆力
23話
◉胆力
今日の仕事先は西船橋の『ラッキーボーイ』だ。南上コテツと初めて遭遇した店である。
(今日は勝って帰るぞ)と椎名は思っていた。前回はコテツや元プロの工藤ツヨシと同卓だったため散々な成績だったから。
到着すると今日も工藤ツヨシがいた。
「いらっしゃいませ!ただ今全入り中ですのでお掛けになってお待ちください」と元気な店員に言われた。全入りって言っても2人しか居ないのだが。2人=全てというのもキツいものがある。まあ、遅番の時間帯はそんなもんか。時刻はまだ朝8時半だ。今日の出勤指示はかなり早めだった。いつもなら10時台なのだが。
「お、兄ちゃんまた来たのか。おれもあの日以来で久しぶりに来たんだよ。偶然だなぁ」と工藤が言う。
「また、お願いします」
「おう」
「いま南二局なので少々お待ちください」とおじいちゃんオーナーが言う。良かった。今日はオーナーがちゃんと先に来てるパターンだ。当たり前なんだけど、そうじゃないとけっこう困る。ここのオーナーは日吉さんというおじいちゃんで丁寧な物腰や冷静な佇まいが亡き祖父によく似ていて椎名は前回来た時から密かに慕っていた。
待ち席から日吉オーナーの闘牌を眺める。
南二局親
15600点持ちラス目
ドラ一
6巡目
一一一三④④④⑤⑦赤5789
(いい手だが1枚切れのカン⑥がネックだな)そう思いながら見ていた。
すると次巡
ツモ⑥
(引いたーーー!!赤切ってリーチ!ドラ3の親満テンパイだ!)
打赤5
しかし、発声は聞こえない。
(?)
河を見てみると何と日吉オーナーはリーチをかけてない。ドラ3の役なし2面張をだ。
(なっ!?なんだって!?絶好の⑥を引いたのにリーチしないなんてあるのか。…いや、でもまて。ドラは一だ。周辺牌待ちリーチを打つより変化を待ちながらとりあえずツモればアガる構えの方がいいということも…あるかもしれない。しかし、それを出来る人がこの世に何人いるのだろう)
次巡ツモ⑧
「リーチです」
打三
そして…
「ツモです」
一一一④④④⑤⑥⑦⑧123 ⑤ツモ
「あら、あら、こんな所に4枚目の④がいるなんてね」
裏ドラ表示牌は④だった。つまりド高め一発ツモだ。
「リーチ一発ツモドラ3裏裏。8000オールの3枚です」
「かあーーーついてるなー!マスター」
「そうですねえ、今日は運がいいです」
(ツキなもんか、こんなのアガれる人そうはいない、なんという手順。なんて胆力なんだ)と椎名は思うのであった。
次局もマスターに手が入り12000をラス目から直撃して一気にトップを捲って終了した。
(強ええ…)
「はい、それではゲームお待ちの椎名さん、お待たせ致しました」
西船橋『ラッキーボーイ』リベンジ戦開始!
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