第15話◉西船橋へ

15話

◉西船橋へ

 

 給料を受け取った後は少し寄り道をしてから帰るようにした。勝田台に来るのは久しぶりなのでせっかくだから駅前をウロウロしてみたかった。まだ時刻は午後6時半だ。あまり知らない土地に行くということが椎名は大好きだったので、この派遣裏メンという仕事はぴったりだった。明日の行き先は西船橋だと言う。下車したことがない全く知らない土地だ、そういうのが一番ワクワクする。


翌日。


 西船橋到着。駅から10分ほど歩いた先にある雀荘『ラッキーボーイ』今日の行き先はそこだった。

 しばらく歩いていたら遠くに見える雑居ビルにそれらしき店の看板を発見した。知らない土地に降りて、初めて入る雀荘に上がるその階段を登る時のドキドキは麻雀打ちにしか分からないだろう。

 

 カツン、カツン、カツンと雑居ビルの階段に革靴が響く。


 重い鉄扉に小さく『ラッキーボーイ』という札がある。ここで間違いない。


ガキン!ガシャ。


 かなり扉が重い。油を差したほうがいいなと思った。

「いらっしゃいませー!」

「4名様ですか?」

「いえ、フリーです」

 このやりとりを何回したかわからない。椎名はフリー客に見えないような優しくて大人しい見た目をしているのだ。もちろん優しくて大人しいフリー客だっているが、基本的ににはそれは珍しい。


「失礼ですが当店のご利用はお久しぶりでしょうか?」

「いえ、初めてです」

「初めてのご利用、ありがとうございます。お飲み物は何かお持ちしますか?」

「あ。じゃあアイスコーヒーをミルクだけでお願いします」

「アイスコーヒーミルクだけですね。かしこまりました。待ち席ご新規さんまでアイスコーヒーミルクだけお願いします!」

そう言うと、レジにいたもう1人が

「アイスコーヒーミルクだけですね。かしこまりました!」と口上をあげる。

「はい、アイスコーヒーミルクだけです。お待たせしました」

「それではルールの説明をさせていただきます」

「あ、いえ。ルールはあらかじめホームページで調べてきましたので完全に把握してます」

「あ、左様でございますか!それはありがとうございます。当店のホームページを閲覧してご来店された方は2ゲームサービスとさせていただいてます。では名前の登録だけお願いして、それが終わりましたら今ラス半の入ってる卓が南2局です。そちらにご案内させていただきますね」

(あ、まいったな。ゲームサービスされちゃうよ。あとで返そ)




ーーーー


「それではゲームお待ちの『椎名』さまお待たせいたしましたこちらの卓へどうぞ!」

 いかにもベテランという風貌の3人がそこにはいた。

「こちら、当店ご新規の椎名さまですみなさん宜しくお願いします!」

 すると一番の強面が

「よろしくねー」とニッコリと挨拶してくる。いい事なんだけど逆に怖い。きっとかなりの打ち手に違いないと直感した。

「よろしくお願いします」


 こうして『ラッキーボーイ』での闇稼業が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る