第2話◉客引き
2話
◉客引き
パァン!発砲音と共に走り出す。100m。この距離を誰よりも早く走り抜ければいい。単純な戦いだ。おれはそれが好きだった。
勉強は面白いとは思えなかった。やらされてるだけだ。苦手という程でもなかったが成績は普通より少し下くらいだ。好成績を出したいとも思っていなかったのでそれは充分すぎる位置だった。
うちは両親が仕事で家にいないことが多くて、それは別に仕方ないからいいんだけど。そんなわけで、じいちゃんと二人の時間が長かった。せめて家族二人だけでも一緒に食べたくて。ご飯の時間までには必ず帰るようにしてた。いつもおれの味方をしてくれるじいちゃんがおれは大好きだったから夕飯は一緒に食べるようにしてたんだ。でもじいちゃんは高校二年生の時死んじゃって。それからは家に帰ってもつまらないから寄り道ばかりして帰らないようになった。
高校を卒業したおれはさっさと自力で生きてみたくて。当時付き合ってた年上の彼女に部屋を借りてもらった。もちろんそれは契約のために彼女の名義を借りただけでお金は一時的に借りたけどすぐに全部返したよ。二人暮らしするわけじゃなくて基本的におれだけの部屋として使った。
お金は手っ取り早く稼ごうと思って飲み屋でもかなり高額時給な所にバイトしてみた。そしたらさ、客引き専門のバイトだったんだよそれは。しかも、ぼったくりの。
「騙したな!」って言う客に追っかけられる事もたまにある散々な仕事だ。どーりで給料いいはずさ。
「客に乱暴されそうになったら逃げろ」とだけ教えられたけど、なんだよそれって思わねーか?そんなに頻繁に客が怒るってどんだけぼったくってんだろうな?おれは全然知らないんだけどさ。ただ、足は速いから。誰もおれが本気で逃げたら追ってこれないんだけどな。
そう言う意味では向いているバイトだったし高額だったからしばらくはそれを続けて稼がせて貰った。
その頃からおれは皆に『俊足のシーナ』って呼ばれてた。
のちに渡邉さんって人から『俊足』より『韋駄天』の方が格好よくないか?って言われるんだけどな。
元々は身体能力的な意味の韋駄天だったんだよ。だからさ、早アガリばっかり決めるわけでもないんだぜ。まあ、早アガリは得意ではあるけど。
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